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闇の使徒編1

湖の上だった。幼いセリオンは昼の湖の上に立っていた。

セリオンの前に母・ディオドラがいた。

「どうしたの、セリオン?」

「母さん」

ディオドラはセリオンに近づくと、しゃがんでセリオンの顔を見つめた。

「フフフフフ」

ディオドラは笑った。

「どうしたの、母さん?」

「セリオン、はい!」

「か、母さん!?」

ディオドラは幼いセリオンをやさしく抱きしめた。セリオンも静かにディオドラに手を回した。

ディオドラはセリオンをぎゅっと抱きしめた。

「私はセリオンを愛しているわよ」

「俺も母さんを愛してる。ありがとう、母さん」

「セリオンが不安になると、私はすぐ分かるのよ。そんな時はね、静かに抱きしめてあげたくなるの。お互いの温もりが伝わるでしょう? だから一人じゃないって思えるでしょう?」

「うん」

セリオンはうなずいた。

ふと、ここで場面が変わった。セリオンは大人になっていた。セリオンは一人、湖の上に立っていた。

その前にエスカローネが現れる。

「エスカローネ!」

セリオンはエスカローネを呼んだ。

「セリオン!」

エスカローネがセリオンの腕の中に跳び込んできた。

「エスカローネ?」

「セリオン、私はあなたを愛してる」

「ああ、俺も君を愛してる」

二人は互いに抱きしめあった。

「俺は一人じゃない。愛するエスカローネが共にいる」

「うん! 私にもセリオンが一緒にいてくれる!」

「これが、真実の愛なのかもしれない」

「真実の愛?」

「ああ。俺がエスカローネを愛すること。エスカローネが俺を愛すること。二つで一つなんだ」

「すてきね」

セリオンはエスカローネのことがいとおしかった。場面がクライマックスに達する中で、セリオンは目をさました。




仮装大会という祭がある。シベリア人のあいだで、さまざまなコスチュームを着て楽しむ一大イベントである。テンペルはこの仮装大会でにぎわっていた。このイベントにはセリオンとエスカローネも参加していた。

セリオンは「暗黒剣士」 エスカローネは「プリンセス」のいでたちで。

セリオンは黒を基調とした戦闘服を身につけていた。エスカローネは純白のドレスを身につけていた。

「だいぶ、にぎわっているみたいだな。みんな思い思いのコスチュームを身にまとっている」

「ほんとね。まるで変身しているみたい」

「みんなはどこで何をしているんだろうか。この会場に来ているとは思うんだが……」

「そうね。ねえ、探してみない?」

「そうだな。探してみよう」

セリオンとエスカローネは、会場の奥へと入っていった。

「む? セリオンとエスカローネか?」

男性の声がした。

「スルト?」

「スルト団長?」

そこにはスルトがいた。スルトはサンタクロースのコスチュームに白い大きな袋をかかえていた。

「スルトはサンタクロースの格好か?」

「赤が印象的ですね」

「むう、子供たちに夢をと思ってな。それでサンタクロースのコスチュームを纏ってみたんだが…… 似合っているか?」

スルトからはいつもの冷厳で荘厳な厳しさが伝わってきた。

「ははは。スルトは自分に厳しすぎるんだよ。それが近寄りがたさをもたらすんだ」

「でも、私は似合っていると思いますよ。フフフ」

「おまえたちも似合っているぞ。何のコスチュームなんだ?」

「俺は暗黒剣士だ」

「私はプリンセスです」

「なるほどな。ところで、おまえたちはアンシャルやディオドラには会ってみたか?」

「いいや、まだ会っていない」

「そうか。あの二人と私は会ったがかなりレベルが高かったぞ。仮装大会で優勝するかもしれないな」

「へえ、そうなのか…… なら、会場で会えるのを楽しみにしているよ」

「うむ。ではさらばだ」

そう言うとスルトは姿を消した。白い大きな袋には何が入っているんだろうか?

「あ、お兄ちゃんだ!」

「セリオンお兄ちゃーん! エスカローネさーん!」

「シエル? ノエル?」

二人の女の子の声が響いた。

「やあ、シエル。それにノエル」

「シエルは何のコスチュームなんだ?」

「私は悪魔っ子のコスチュームなの」

「ノエルは?」

「私はミニスカナースだよ」

「似合ってる、お兄ちゃん?」

二人はくるりとその場で回転した。

「ああ、二人ともかわいいぞ」

二人の声が重なった。

「それじゃあね、お兄ちゃん!」

「またね、お兄ちゃん!」

「ああ、またな!」

シエルとノエルは去っていった。

「二人ともけっこう露出のあるコスチュームを着ていたな。俺は少し恥ずかしかったよ」

「ふふふ。年に一度の仮装大会ですもの。二人とも大胆になっちゃったんじゃないかしら?」

セリオンとエスカローネはお互いに顔を見合わせ、笑った。それから二人は会場をもっと奥に入っていった。

「ん? あれは…… おーい、アリオン!」

「セリオン?」

二人はアリオンの近くへと進んだ。

「アリオンはサムライか?」

「そうだよ。俺の武器は刀だからね。それにちなんでさ。セリオンは黒い服の剣士なんだな。エスカローネさんはお姫様みたいだね」

アリオンはしげしげと二人を観察した。

「へえ、二人ともよく合っているじゃないか。はははははは!」

「ありがとう、アリオン」

「ありがとう、アリオン君」

セリオンとエスカローネはアリオンに礼をした。

「それじゃあな、セリオン!」

「ああ、また会おう」

セリオンは手を振ってアリオンを見送った。

「おや、あそこにいるのは……?」

「どうかしたの、セリオン?」

「クリスティーネ!」

「? セリオン様?」

セリオンは一人の女性の姿を目に止めた。それはクリスティーネだった。

「クリスティーネもこの会場に来ていたんだな」

「はい。私も仮装大会に出場したいと思いまして」

「クリスティーネは頭に耳を付けているな?」

「はい。猫の獣人のコスプレです。それで付け耳を付けてみました」

「クリスティーネさんが仮装大会に出場されるなんて以外ですね」

エスカローネがクリスティーネに尋ねた。

「はい。私も実をいうと少し恥ずかしいのですが、勇気を振りしぼって出場してみました。それにこのイベントも普段の秩序からの解放が目的ですから。一時的に逆転した世界観に触れることができますしね」

クリスティーネはそう言うと両手を頭の近くで丸めて猫のポーズを取った。

「ははは、そうだな。だから俺は暗黒剣士のコスチュームを着ているしな」

「そういえばお二人はアンシャル様やディオドラ様とはお会いになられましたか?」

クリスティーネが質問した。セリオンは首を横に振った。

「いいや、まだ会っていない」

「そうですか。お二人ともすごくよく似合っていてエレガントなコスチュームを着ていましたよ」

「そうか、なら会うのが楽しみだな」

「それでは、私は他に行く所がありますので。お二人ともこのイベントを楽しんでくださいね」

クリスティーネはその場から去っていった。

「エスカローネ、アンシャルや母さんを探そう」

「そうね。クリスティーネさんがエレガントだって言っていたものね。私も会うのが楽しみよ」

そうすると、セリオンとエスカローネは会場の舞台の所にやってきた。

「セリオンお兄ちゃん!」

ふと、セリオンに声がかけられた。セリオンは声がした方向を向いた。

「アイーダ! アイーダもこのイベントに参加していたのか」

アイーダはセリオンに近づくと、思いっきり抱きついてきた。

「うん!」

セリオンはアイーダの服をじっくりと見た。

「アイーダはメイドのコスチュームを着ているな。メイドに仮装したのかい?」

「うん。アイーダはメイド服が着たかったの!」

「そうか」

セリオンはアイーダの頭に手を置き、優しくなでた。

「アンシャルさんやディオドラさんも一緒なんだよ」

「アンシャルと母さんも?」

「うん! あそこにいるよ」

「アンシャル! 母さん!」

セリオンは大声で叫んだ。

「ん? ああ、セリオンか」

「あら? セリオンとエスカローネちゃんね」

二人はついにアンシャルとディオドラに出会った。二人の服は優雅でエレガントだった。

「二人ともすごいエレガントな服を着ているな。いったい何のコスチュームなんだ?」

「私は公爵のコスチュームを」

「私は貴婦人のコスチュームを」

「すてきです。お二人は本当にとうとい方のようですよ」

「はははは。ありがとう」

「ありがとう、エスカローネちゃん」

「私たちはこのまま仮装大会に出場するつもりだ。狙いは優勝だ。セリオン、エスカローネ、相手がおまえたちでも手は抜かないぞ?」

「そうだな。互いにがんばろうじゃないか」




にぎやかに仮装大会のイベントが進行している、その時。不吉な影が遠くからその様子をうかがっていた。

「ふん、仮装の大会か。いいお祭り騒ぎだな。それも信仰に反しないというわけか。神の民も今宵はイベントや酒に酔いしれてもいいようだな」

招かれざる客人が述べた。

「我々の目的はあの女を見つけ確保すること。これはあの方から私に与えられた使命――」

客人は手にした三又の槍で地面を叩いた。夜の闇が音を立てた。客人の背後で巨大な存在が月の光に照らされた。

「あの男がいっしょにいると厄介だ。作戦の成功はいかに二人を引き離すかにかかっている」




仮装大会はアンシャルとディオドラの優勝で幕を閉じた。シベリア人の人々は大会後にワインやおしゃべりで楽しんでいた。しかし……

「な、なんだ、こいつは!?」

「うわあ!? 大きいぞ!?」

突如として巨大な存在、魔法兵器「ゴーレム」が現れた。ゴーレムの腕は太く、胴体は浮遊していた。

「なんだ、あれは!?」

セリオンはすぐにゴーレムの存在に気づいた。ゴーレムは大きな腕で人々を薙ぎ倒していた。

「セリオン、急いで迎撃するぞ!」

「スルト!」

スルトはセリオンの隣に現れるとサンタクロースの服を脱ぎ捨て、いつもの甲冑姿になった。

「私も加わるぞ! スルト団長! セリオン!」

セリオンの横にアンシャルが現れた。

「おそらくあれは『ゴーレム』だろう。自らの意思を持たぬ機械兵器だ」

スルトが言った。

「なら、あのゴーレムを操っている者がいるはずだな」

アンシャルが答えた。

「何はともあれ、敵の数は三体! 一人一体ずつがノルマだ」

「ああ。一人一体なら問題ないな。すぐにゴーレムのもとへ向かおう!」

セリオンが話した。三人は手分けしてゴーレムのもとに向かった。ゴーレムは仮装大会の会場で暴れまわっていた。大きな手で人々を攻撃した。そのゴーレムの前に、スルトが仁王立ちした。豪剣フィボルグを右手に構える。

「これ以上人々に手出しはさせん。この私が相手だ」

目の前のゴーレムはスルトを敵と認識した。ゴーレムの一つ目が輝いた。

「むう!?」

ゴーレムは頭部の一つ目からレーザーを撃った。スルトは即座にフィボルグで受け止めた。

「その程度の攻撃がこの私に通じると思うな」

スルトは高速でゴーレムに接近した。スルトは手にした豪剣で、ゴーレムの胴体を貫いた。さらに攻撃は続いた。

「雷霆よ!」

ゴーレムの体内に雷霆が放たれた。ゴーレムは全身をショートさせた。そして機能不全に陥った。

スルトは豪剣を引き抜いて、後方に下がった。ゴーレムは真後ろに倒れた。ピコピコと異音を立てた後、ゴーレムは爆発した。



アンシャルは一体のゴーレムに立ち向かった。風王剣イクティオン Iktion を構える。

ゴーレムは一気にアンシャルに近づいてきた。そして両の手からパンチを交互に突き出した。

アンシャルは冷静にそれらを見切り、後方に下がってよけた。アンシャルは長剣に大きな風を集めた。

暴風のごとく膨大な風が収束されていく。ゴーレムが突進してきた。

「今だ!」

アンシャルは膨大な風をゴーレムに向けて叩きつけた。無数の風の刃がゴーレムの体をズタズタに斬り裂いていく。ゴーレムは機能不全に陥った。ゴーレムはその場でくるりと回り、異音を響かせ、各部を爆発させていった。



一体のゴーレムが両手の甲からバルカン砲を発射した。建物を破壊していく。

突然、ゴーレムの左腕が光の刃で切断された。ゴーレムは事態を認識できずに混乱した。ゴーレムの前にセリオンが現れた。

「これ以上好きにやらせはしない!」

セリオンは神剣サンダルフォンを抜き出した。ゴーレムがセリオンに急接近してきた。右手でパンチを繰り出してくる。セリオンはそのパンチを左側にスライドするように、よけてかわした。

それからセリオンは大剣に光の粒子を収束し、刃を形成した。

セリオンの必殺技「光子斬こうしざん」である。光の斬撃は、いともたやすくゴーレムの右腕を切断した。ゴーレムは目からレーザーを放った。セリオンはレーザーをとっさによけた。

「これでとどめだ!」

セリオンは雷の力を大剣に収束させた。セリオンは大剣をバット状に構えてゴーレムを見据えた。

ゴーレムがレーザーでセリオンの近くを薙ぎ払った。セリオンはジャンプでそれを跳び越えると、大剣をゴーレムの頭めがけて叩きつけた。

セリオンの必殺の一撃「雷光剣」がゴーレムに炸裂した。ゴーレムの頭は木端微塵こっぱみじんに吹き飛んだ。ゴーレムの体はゆっくりと倒れた。



「セリオン……」

エスカローネは少し不安を感じつつ、愛する人の名を口にした。エスカローネは仮装大会の会場である舞台の上でたたずんでいた。そこに招かれざる客人が現れる。

「動くな」

エスカローネは背後から声をかけられた。

招かれざる客人――女は言葉を続ける。

「エスカローネ・シベルスカだな? 私といっしょに来てもらおうか」

「あなたは何者? 私をどうする気?」

エスカローネは後ろを振り向いた。エスカローネの前に三又の槍が突きつけられた。

「私の名はヴィヴァーチェ Wiwaacze 。ある方に仕える者だ。エスカローネ・シベルスカ、我が主がおまえに用がある。ゆえに、私といっしょに来てもらおうか」

ヴィヴァーチェが背に生えた黒い翼を大きく広げた。

「ゴーレム! この女を運べ!」 

ゴーレムの大きな手がエスカローネに迫った。




「エスカローネ!」

セリオンは叫んだ。エスカローネはゴーレムの手で捕えられ、眠っていた。

「フッ、来たか。青き狼セリオンよ」

ヴィヴァーチェが振り返った。

「おまえは誰だ? エスカローネを離せ!」

「フッフフフフ。私の名はヴィヴァーチェ。ある方に仕える者だ」

「ある方?」

「そう、言うなれば『闇の使徒』様!」

ヴィヴァーチェがにいっと笑った。

「この娘には光と闇の戦いを見守る義務がある。今、私が言えるのはそれだけだ」

「エスカローネを返せ!」

「そうはいかない!」

セリオンはヴィヴァーチェに斬りかかった。ヴィヴァーチェは三又の槍でセリオンの攻撃を防いだ。

「雷の力がおまえたちの専売特許だと思うなよ?」

三又の槍の先端が放電した。セリオンは背後にジャンプした。ヴィヴァーチェは雷の光線をセリオンに向けて発射した。セリオンは大剣で雷の光線を受け止めた。

「ぐっ!?」

「フフフフ。光の使徒セリオン・シベルスクよ。おまえを『神の卵』に招待しよう! 私たちの後を追ってくるがいい。この娘の命は保障しよう!」

ヴィヴァーチェとゴーレムが宙へと舞い上がった。

ヴィヴァーチェは黒い翼をはばたかせた。

「また、会おう、セリオン・シベルスクよ。それまでエスカローネ・シベルスカは私たちの手に。フフフ、フハハハハハ!」

「待て!」

ヴィヴァーチェは魔法陣を展開した。そしてヴィヴァーチェたちは魔法陣の中に消えていった。

「くそっ! エスカローネがさらわれた!」

セリオンは歯ぎしりした。

「エスカローネがさらわれたのはアルテミドラ以来か……」

「セリオン、どうした? 何かあったのか?」

スルトがセリオンの背後から声をかけた。

「私もいるぞ」

そこにアンシャルが現れた。

「ああ。ゴーレムは倒せたんだが、逆にエスカローネがさらわれた」

「なんだと?」

「どうやらゴーレム三体は私たちに対する陽動だったようだな。敵の真の目的はエスカローネを連れ去ることだったのだろう……」

アンシャルがそう分析した。

「奴らは『神の卵』にエスカローネを連れ去ると言っていた。そして、そこに俺を招待するとも…… 神の卵とはいったい何のことだ?」

その瞬間月の光が消えて、周囲が暗くなった。

「これは!?」

セリオンが反応した。

「世界が闇に包まれた……」

スルトが熟考した。

「おい、あれを見ろ!」

アンシャルが目標を指し示した。

「なんだ、あれは?」

セリオンはアンシャルが示したものを見た。そこには卵形の巨大な岩の塊が上空に浮遊していた。それは周囲を闇に包みこんでいた。

「おそらく、あれが神の卵なのだろう」

アンシャルが言った。

「あそこにエスカローネがいるのか…… 俺は今すぐエスカローネを救出しに行く! そして闇に包まれた世界を解放する!」

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