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2、ファンタジーではない。誰にもあり得るステータス

 入学式翌日。折角の高校生ライフが始まると言うのにクラスメイトがまるで居ない。玄関の靴箱は靴箱と言う名の割に靴がほぼ無い。一階をの教室を見ても、空き教室かと思うほど人が居ない。閑散とした教室の空いた席が寂しい。

 昨日の惨劇により新入生の大半は自主退学した。残りの半分もいつ狙われるかわからない恐怖から初日から誰もが休んでいる。一教室に二、三人ほど命知らず、将又極度の鈍感が居るか居ないかほどだ。

 そして、1−2の教室には観崎無天、ただ一人が佇んでいた。運が悪いのか一人に対してひとつの教室。普通の教室がだだっ広く感じる。

 マンツーマンホームルームを終え、よくわからんテストを適当に埋め、F1並みの速さで一日が終わっていく。友達作り、おしゃべり、遊ぶ、そんなことすらできなかった。教師は昨日のことのせいか、今一信用できない。

 最低な学校の始まり。ずっと頭を支配していたのは昨日の事件だった。観崎無天は昨日の事件について夜も寝ずに考えたが全くと言って考えが纏まらなかった。一番はやはり生徒会長の生き返り。あの血腥さから言って本当に刺したのだろうがどう生き返ったのか判らない。

 そんな観崎無天が今日日、この事情の中、一番楽しみにしていたこと、それは部活動である。この高校には、近辺では唯一ここしかないミステリー研究部があった。観崎無天はそれを楽しみにしていた。

 昨日、先生を観察していたのも、刺されたのを見て、新入生の誰よりも動揺しなかったのはミステリー好きの性なのかもしれない。裏を返すとここまでのミステリー好きでも解けない難解な謎なのだろう。

 放課後、早速部室へと向かう。部室は三階にあり、物静かな一階から二階へと上がると予想以上の人の多さに気圧されてしまう。廊下に大勢人がいる。一階では見かけない光景だ。三階に着くと男子の先輩が多く、少し怖く感じる。人混みを掻き分けながらなんとか部室の前に着く。

 私は期待に胸を寄せ、ようやく入学したかのような初々しい緊張を持ち部室のドアを開けた。

 「あの…入部希望なんですけ…ど!?」

 観崎無天は仰天した。

 「あっ…良かった~これで今年もこの部は安泰だ。」

 そこに居たのは昨日生き返った生徒会長の三廻部生その人だった。制服についた血はすっかり落とされ、清廉とした姿で堂々と椅子に座っていた。

 一連の騒動を思い出し、額から汗が流れ落ちる。体が真冬だと錯覚したかのように一瞬で冷えきる。

 一歩も部室に入れない。謎が多すぎて。

 そんな時

 「あっ…もしかして、昨日のこと?アレなら気にしないで良いよ」

 出来るかっ。と思わずツッコんでしまいそうになる。出来たら今年の一年は二百何十名と居た筈だ。

 「あ…いや…その…」

 そう戸惑っていると会長は笑顔で

 「ゆっくり話をしようか。今お茶を出すよ。良いのがあるんだ。なに、誰も殺されやしないよ。」

 というと会長は手慣れた手つきでお茶を淹れる。

 「ほらっ、おいで。」

 観崎無天は言われるがままその笑顔を信じ、部室のソファへと腰を掛ける。お茶を一口いただくと会長が突然、脈絡もなく話す。

 「君は優しすぎるな。人を信じることは大切だが時には疑うことが理に敵う時もある。ミス研に入るのならば少々、気をつけたまえ。」

 いきなりなダメ出しに少ししゅんとなる。

 「私、同年代の人の言葉は何でも信じやすいんですよね。」

 判りやすく落ち込み、俯く。

 「ただ、その素直さは感服する。決して悪くはないのだからしょげることはない。」

 普通に褒められ思わず顔が赤くなる。いつの間にか顔は前を向いていた。

 「あ、暑いですね、この部屋。」

 「そうかな?普通だと思うが。窓開けるかい?」

 「い、いえ。」

 顔が赤いのを誤魔化す精一杯の言い訳。判っているのかいないのか、会長は自分の淹れた紅茶を啜る。自分が恥ずかしくなり、もう一口紅茶をもらう。

 しっかり面と向かって喋って数分での飴と鞭には少し驚いたが、そんなに悪い人ではなさそうだ。人の行動一つ一つから素性を読み取るのもミス研らしくて良い。そう思っていると、会長がこっちを見て笑みをこぼし話し始める。

 「ただ…」

 そう言うと、いきなり会長が机の上にあった鋏を高く振り上げ、自分の胸へと突き刺した。昨日に引き続きまた汚れる会長の制服。そして淹れた紅茶の鉄分量が一気に増えた。

 「こういう常軌を逸したヤツもいる。気を付けるべきだ。もしかしたら紅茶に毒が入っているかもしれない。鋏で刺されるかもしれない。そうは思わないのかい?」

 昨日よりも至近距離で見る血飛沫は悲鳴を産み出させようともするがここは必死にこらえて会長にもの申す。

 「いや、こんな異常な人が言う、異常な人ってどんな人ですか。第一、そんな優しい笑顔する人に悪い人はいないと思います。」

 「血飛沫も二回目となると恐怖しないのかな。素晴らしいね。」

 「怖いですよ。出会って間もない先輩にツッコむのは。」

 「そっちかよ。」

 紅く染まった部室で普通ならば戦慄の走る空間はいつのまにか和やかになっていた。

 「なるほど。君がそういう人で良かった。」

 そして会長は鋏を抜いていつものように制服を整え始めた。昨日よりも傷は浅く出血量もひどくはない。また昨日のように何かしらのトリックがあるのだろうか。その時だ。

 ドサッ…。

 会長の痩せた体がゆっくりと倒れ落ちる。和やかだった筈の空間に再び戦慄が走る。

 「会長!?大丈夫ですか?」

 「ああ。なんとか。」

 「倒れるならそんなもの自分に刺さないでください!」

 「いや、これには多少訳があってね。」

 「え?」

 会長の言った一言が少し気になる。だが、そんなことお構い無しに胸元の血は容赦無く溢れ出る。

 「君、魔法って信じる?」

 「へ?」

 こんな状況でありながら突拍子もないトリッキーな質問に思わずヘリウムを吸ったかのような変な声を出してしまう。ここまで常軌を逸した人だと逆に死なないのだなと少し安堵した。

 「魔法だよ。魔法。デ○ズニーが挙って使うやつ。」

 「あ~。夢はありますよね。」

 「…つまり信じないのかな?」

 「まぁ…」

 「うん。そうだよね。それが普通だ。」

 そう言って会長は天井を見上げ、深呼吸をし、真面目な顔をしてこう言った。

 「僕は昔、魔法をかけられたんだ。魔女にね。」

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