『ごめんなさいは?』ビーム
短編小説投稿第二弾です。
この作品は私の過去話を存分につぎ込んでいると言っても過言ではありません。
そしていつの間にか『謝る』ということの倫理について追及するようになりました。あまり固い内容にするつもりはなかったのですが、少しでもこの作品で心に響いていただけると嬉しいです。
おとなって、ずるいなぁ。
ぼくがわるいことをすると、『ごめんなさいは?』といいながらてっぽうをもって、ビームをうってくる。うたれたぼくは、『ごめんなさい』となきながらあやまってしまう。
わるいことをしたんだから、『ごめんなさい』っていうのはあたりまえだとおもう。でもなにがわるいことなのか、ぜんぜんわからない。だからきづかないうちに、わるいことをしちゃっておこられた。いくらわるいことをしたからって、わからないんだからしかたがないじゃん。そうやってなんかいも『ごめんなさいは?』ビームをうたないでよ。
ぼくより先にわるいことをしたのはあの子だ。なかせちゃったのはわるかったけど、どうしてぼくにだけ『ごめんなさいは?』ビームをうつの……? ぼくのほうがお兄ちゃんだからがまんしないといけないの? でもうたれちゃったから、ぼくが『ごめんなさい』っていうしかないよね。
「ごめんなさい」
「いやだぁ!!」
なきむしなあの子はぜんぜん『いいよ』って言ってくれない。友だちとなら『ごめんね』、『いいよ』でおわるはずなのに……。
「ば~かあ~ほどじまぬけ、え~ろへんたいやくたたず~!!」
悪口を言われて、僕はすごく怒った。机もいすも倒して、悪口を言ってきた女が逃げるもんだから、ろうかだろうと何だろうと走って追いかけて、ようやくつかまえて、その子のほっぺたをおもいきり叩いた。その行動が先生にばれて、すごく怒られた。悪口を言っていた女のほうよりも、『女に手を出した』ことで怒られた。
先生に『ごめんなさいは?』ビームを撃たれ、仕方なく悪口を言った女に謝った。しかしそれだけでは済まされなかった、先生がこのことを親に話した。また怒られてしまう、また『ごめんなさいは?』ビームを撃たれる、すごく嫌だ、でも後回しにしても避けられるものじゃないとわかってる僕は、真っすぐ家へ帰った。すると玄関に正座したお母さんがいた。
「お願いだから、これ以上女の子を殴るなんてことをしないでください。お願いします」
土下座をしながら言ってきた。『ごめんなさいは?』ビームを撃たないどころじゃなかった。お母さんに、こんなことをさせてしまった。いつも僕が悪いことをするたびに『ごめんなさいは?』ビームを撃って、それでも直らないからしびれを切らしてこんな方法で躾けようとしてきたんだ。だとすればこれは僕にとってすごく効果抜群だ、僕は『お母さんにこんなことをさせてしまった』ということで罪悪感を抱いてしまった。
次の休日、僕は親同伴で女の家へ行くことになった。女の親の前でも、もう一度謝らなければならなかった。女の家の玄関、女がやってきて目を合わせた。
「こ、こんにちは……」
「こんにちは」
何も言葉が出なかった。『ごめんなさい』すら出てこない、どうして?
女の親は『ごめんなさいは?』ビームを撃ってくる様子はない、ちゃんと自分の口から『ごめんなさい』と出すのを待っているんだ。帰りたい、実のことを言うとなぜ謝らなければならないのか気になっている。そりゃあ女を殴ったのは良くないけど、女は自分の立場を利用して悪口を言ったんじゃないかと思う。そもそも悪口さえ言わなければこんなことにはならなかったんだ、この女の自業自得なんじゃないのか? 大人たちは根本を間違えてるんじゃないのか……?
ごめんなさいだけ言っても良くない、~してごめんなさいという言葉が重要だと教えられた。僕はどんな悪いことをしたのか、あの時教えてもらったはずなのに……。いや、先生が大声で、頭ごなしに怒って『ごめんなさいは?』ビームを撃ってきたことしか覚えてない。僕の不満を解消させようとせず、手早く済ませたいがためにあんなことをしたのではないのか? そんなにも手早く済ませられるのが、『ごめんなさいは?』ビームだったんだ。
とりあえず謝ることができて解決した後、僕は考えた。あの『ごめんなさいは?』ビームはいつか僕の手にもやってくるものだろうか。大人になったらもらえるのか、とりあえずお母さんに聞いてみよう。
「ごめんなさいはびーむ? 何よそれ」
……あれ?
僕は友達とよくカードゲームをして遊んでいる。僕のほうがよく勝っていた、なぜなら強いカードがあったから。そのせいで、友達が僕のカードを盗んだ。
友達の家に、僕とお母さん、友達と友達のお母さんで話をすることになった。友達のお母さんは友達に『ごめんなさいは?』ビームを撃ちながら頭を下げていた。行動からして、『ごめんなさいは?』ビームは僕にしか見えないということがわかった。親が持っている銃も、撃った行動も、ビームの光も、僕以外の人にはそう見えていない。
その時だけだった、問題ごとで僕が一度も『ごめんなさいは?』ビームを撃たれることがなかったのは。喧嘩をすると必ずと言っていいくらい、僕が一方的に『ごめんなさいは?』ビームを撃たれて終わる。今日撃たれたのはなぜだろう?
喧嘩とは言ったけど、僕は友達が言ってくるまで全く疑っていなかった。すぐにごめんなさいって言ってたし、だから喧嘩することはなかったんだ。でも普通はわかったとたん腹が立つはずだ。今までの喧嘩だって、悪口を言われるとついカッとなって『殴る・蹴る』の喧嘩になってた。盗むって行いは、悪口を言うよりも悪いことだ。悪い行いの度合いじゃなかったら、一体何で? 無くしたと思ったカードが見つかってホッとしたから? それとも『絶交する』という言葉が流行って、友達が僕と絶交しようとしてた直後に起こって、許す代わりに『ずっと仲良くしてほしい』と要求できる権利を得て満足したのだろうか。
社会の授業で裁判や警察の話をしていたことを思い出した。今まで僕は被害者を作っていた加害者、そしてあの時だけは被害者になれた。被害者になれば、『ごめんなさいは?』ビームを撃たれることはない。そうだそれだ、悪口を言われたとしても、手を出さなければ勝ちなんだ。
悪口を言われても、何か衝突が起きても、カッとなるのをやめるんだ。抑えて抑えて、いくら腹が立ってるからといって物に当たるのは本末転倒だ。もう中学生だ、良い人になって子どもから脱却しろ。
抑えるというより、無視するのが一番だということに気づいた。嫌なことをできるだけ避けろ、苛立っても忘れるんだ。不思議と脳内の一部の忘却、あるいは楽しいことをして上書きするのが簡単だと気づくようになった。
こんな成果があってか、問題ごとが起きても『ごめんなさいは?』ビームを撃たれるような立場になることはなかった。むしろ相手が先生に『ごめんなさいは?』ビームを撃たれ、謝ってくれたことに優越感を持つようになった。そうさ、こうやって問題児と衝突して先生に『ごめんなさいは?』ビームを撃たせて更正させるんだ。僕は今、正義の行いをしているんだ。
「いつまでも被害者面してるんじゃない! 元はというとお前が面倒事に突っ込むからこんなことが起きてるんだぞ!!」
久しぶりに怒られ、『ごめんなさいは?』ビームを撃たれてしまった。なぜ怒られたのか、先生の言葉を聞いてさすがにわかるようになってきた。相手の言動に一々突っかかって、水道水を飲むなだの廊下を走るなだの指摘して相手を苛立たせてしまっただけに過ぎない。触らぬ神に祟りなし、何もしなければ何も起こらないという事実はわかってたはずなのに。その行動に関しては、僕はあの女と同じことをしてしまったんだ。
高校は比較的頭の良いところへ行けた。不良など当然いない、みんな賢いから衝突なんて起きない。楽園のようだった、平穏で安全な場所、学生の本業である勉強に集中できる。しかし長くは続かなかった。
近付いてきた文化祭のために、役員を決める必要があった。僕は個性的かつ人望があったので、投票で選ばれた。そのせいで、外れてしまった一人の男に嫌われてしまった。
僕は彼と仲良くしたかった、しかし彼は僕のことを無視する。何かで一緒になる度に舌打ちをし、あからさまに嫌な顔をして離れたり、僕の少しした行動に指摘してきた。
ただの嫉妬というくだらない理由、そして相手のことも考えないで拒絶する。衝突を避けるためと思えば賢い行いなのかもしれないが、結果だけ見れば子どもと変わらないと思った。
「俺別に全員に好かれたいと思ってやってるわけじゃないから」
少し性格が悪い友達がこう言っていた。しかし僕はどうしてもそんな考えを持つようにはなれなかった。嫌われるということは敵に回してるも同然だ、敵ができるからには争い事は避けられない。どうしたら良いのかわからない、こんなに悩んでるのに構わず関係のない勉強が襲い掛かってくるから、『先生は的外れなことを教えている』と判断してしまい、僕はだんだん成績が落ちてしまった。
何でここにいるのだろうか? もちろん、『ごめんなさいは?』ビームを向けられない環境に居たいと思ったからだ。だが、衝突を避けることは仲良くなるという意味ではない。高校に入って学んだのはそれだけだった。
偏差値をよく見ず、ただ興味を持ちつつ受かりやすい大学を選び、特に苦労をすることなく入学できた。
大学はやっぱり高校と違う、あるものを専門として学びに行くところだから気が合う者たちが多い。さすがに一人か二人は気が合わない者だっているが、『仲良くしよう』みたいな強制力が大学にはない。講師たちも先生とは少し違うため威圧感がない。良い意味で緩く、好きなものだけに触れることができる。しかし大学以外ではそういうわけにもいかず、人生初のアルバイトを始めることになった。個人的にはワクワクしていたところがあったのだが、実際はかなり辛いものだった。仕事量や体力も重要だが、一つ一つに神経を張り巡らせないといけない重荷、こればかりは学校で学べるものではなかった。
ある時はスーパーマーケットのアルバイト、品出しをするために運んだ商品を落としてしまうことは多々あり、不良品を増やしたことで謝らないといけなくなる。しかしこれは完全に僕が悪い、素直に謝ることができる。しかも副店長はとても優しい人だから『ごめんなさいは?』ビームを撃たない。とても心地の良い人だった。
しかし『怒られない人生』を目指すというのはとても難しいものだった。僕の不注意でお客様に迷惑をかけてしまった、当然悪いことなので謝ることに全く抵抗を持たなかった。しかしその時のお客様は、『おかしいんちゃうお前? なぁ、なぁ、なぁ!?』といった威圧を出しながら『ごめんなさいは?』ビームを何発も撃ってきた。謝っても許せない人がいるというのは知っていたが、しかしこうも質が悪いとは思えなかった。
他のアルバイトもやりたくなったし、もっと稼ぎたいと思って替えたのが、引っ越しのアルバイトだった。重たい荷物を何周も移動して運ぶ、本当に一人で持てない物は上司に任せ、僕はチマチマした物を運ぶ。筋力、体力共に肉体的な部分も鍛えられたが、中途半端なことをせず、少しの荷物を残すことなく運び出すというけじめ、そういった精神的な部分も鍛えることができた。真面目な性格ゆえ、持久力がそんなに高くなくても褒められることが多かった。辛くても忘れられる方法を知っている、もうこれは天職なのではないかと思えた、しかし事件が起きてしまった。
上司が置いてある荷物を持ちあげると、支えがなくなったため、立てかけてあった小さいテーブルが倒れてきた。たまたま近くにいた僕の足がテーブルの下敷きになり、激痛が走った。
「痛った!!」
「おい、大丈夫か!?」
「け、けっこう痛いです……」
「お前じゃねえよ、お客様のテーブルだぞ」
「え……? あ……、大丈夫みたいです」
「あ~良かった。……ったく、何ボケっとしてんだよ。あれくらい避けろよな! その怪我も大したことないだろうが」
そう言いながら『ごめんなさいは?』ビームを撃ってきた。撃たれたからごめんなさいと言ってしまった。だが正直に言って中身がない、僕は何も悪くないはずだ。しかしここで衝突してしまっては、今まで学んだことが水の泡になってしまう。グッとこらえることしかできなかった。
怪我をしたため、事務の人たちに報告することになった。すると電話越しで相手が困惑していることがわかった。病院へ連れて行くために車を用意しないと、具体的にどんな怪我なのか心配され、応急処置の道具を用意しようとしたり、僕は何だかとても申し訳ない気持ちになった。『ごめんなさいは?』ビームがなくても謝りたいと思えるなんて……。
結果として、ただの打撲で済んだ。一週間後また再開することとなったが、例の上司は何一つ反省していなかった。
「男がそんなクヨクヨするんじゃねえよ、少しの怪我すら耐えて最後まで働くのが、男ってもんだろうが!」
すごく明るく、良い笑顔で言っていた。言ってることは別に間違っていない、ただ言う人が間違っていて説得力に欠ける。
今度こんな出来事が起きたら、もし被害者が僕じゃなくて他の人だったら、あの腹が立つ面に拳をブチ込んでやろう。そう思いながら僕はアルバイトを辞めた。
あの上司の前にだけ、僕専用の『ごめんなさいは?』ビームが現れていた。どうして、なんて野暮なことは思わない。僕は心のどこかで、あの上司を屈服させたいと思っていたんだ。でも『ごめんなさいは?』ビームをあの上司に撃ったって無駄なことは知っている。僕の『ごめんなさいは?』という威圧が足りないのかもしれないし、あの上司が罪悪感をこれっぽっちも持っていない可能性がある、いわゆる免疫だ。逆に僕はそれが一切ない。『ごめんなさいは?』ビームは一発で相手を必ず謝らせられるというすごいものではない。これは完全に僕の妄想の産物だというのに、僕にとって都合の良い道具になってくれない。もう終わりにしよう。『ごめんなさいは?』ビームのせいで散々振りまわされた。こんな銃を気にするからいけないんだ、銃口を向けられるだけで膝が笑っていた僕におさらばするんだ。向けられるビームも、撃たれない行動を取るんじゃなく、撃たれても気にしないようにすればいい、心の底から謝りたいと思った時だけ謝ればいい。
この銃を河に捨てよう、橋の中央、妄想だけどおそらく沈むはずだ。いつか僕に子どもができて、その子どもが悪さをした時、僕は迷わずビームを撃つかもしれない。それだけは絶対にあってはならない。さらば……、
「はやまらないで!!」
突如、謎の青年に止められた。
「あぁ、大丈夫ですよ。別に死のうなんて」
「変わらないよ。それを捨てたら、生きてるとは言えないんだから」
今この男……、何て言った?
それを捨てたら? まさか銃が見えているのか? 友達に聞いても最後までわかってくれなかった『ごめんなさいは?』ビームが見えているのか?
「勝手なことを言ってすみません! でもこれだけは約束してください、この銃は決して捨ててはいけません。いつか絶対、あなたのお役に立ちますから」
役に立つ? そりゃあそうだろうよ、自分の支配欲を満たせる道具でもあるんだ。僕は何度も撃たれたから嫌だと思ったけど、本当は一度だけ撃ってみたかったんだ。しかしだめだ、決して自分で自分を許したらいけないんだ。
「それじゃあ私はここで。出しゃばった真似をしてすみませんでした」
二回、謝った。『ごめんなさいは?』ビームを撃ってないのに、あの人は率先して謝ってきた。不思議な人だった、でも言ってることは理解できなかった。だから理解するために、『ごめんなさいは?』ビームは僕の懐にしまっておくことにした。
いつか使い道がわかるようになって、あの人にもう一度会えても、決して自慢できるようなものじゃない。それでも僕は、捨てずに生きることにした。
終
ご高覧ありがとうございました。
『ごめんなさいは?』ビームの商品化をご希望の方は、ぜひ諦めることをお勧めします(笑)。
でも本当に『ごめんなさいは?』ビームが存在したら恐ろしいなと思います。