僕が僕で在るために
僕は僕であるために、この世界の中の僕という個を特定するための境界を維持し続ければならない。そうしなければ、困るのだ。
なにが困るかって、よく判らないけれど。とりあえず、僕が困るのだ。
僕の要素が拡散して判別不能に陥ることのないように一所に留める堰が必要だった。或いは世界から僕を隔絶する、彼方と此方を分断するための殻が。
僕は殻に保護され或いはその内に閉じこめられた。そうしたのは確かに僕自身だったはずだ。
殻の中に内包されてあるものが僕であり殻の外に排斥された或いは中に入りきれなかったものたちは僕でないものたちだ。或いはそうと名付けたのか。
その差は曖昧で無数の皹が走った脆い殻の隙間から洩れ出た僕は容易にそれ以外へと変じてしまった。
すべての僕が拡散しきってしまう前に殻の隙間を埋めるために。
或いは既に洩れ出て僕でなくなってしまったものたちを再び僕へと還すために。
僕は世界をさまよい、僕であったものたちを殻の隙間から漏洩させ続けながら僕となるものを集めるのだ。
そうあるべきなのだ。
そう生きてきたはずなのだ。
それすらも見失ってしまったのなら、僕はもう、僕を認識することができない。
皹の入った卵の中に、きっと今の僕はいて。
皹のない玉子の中には、きっと昔の、まだじぶんが世界の一部だと信じていたころの僕がいる、