いざ、下界へ
「ひぐ、ひ、ぐ・・・・・・」
「――っ」
やってしまった。このドMバカに構ってる所為でソフィアちゃんが本格的に泣き出してしまった。
どうする、確かにこの穴は俺の為にソフィアちゃんが良かれと思って空けてくれたものだ。本音を言えば使ってあげたい。でもっ、何も無しで飛び降りるとか無謀も無謀、完璧に自殺行為だ。しかし、ソフィアちゃんの気持ちを無駄にするというのは・・・・・・。
あああっ!! 俺は、一体どうすれば・・・・・・っ。
「そんな悩める零時さんに一つ、ご提案があります」
「・・・・・・お前のそのタフさだけはほんっと尊敬するわ」
いつの間にか復活していたシンが俺の後ろからニョキッ、と現れた。
「で、その提案ってのは?」
「はい。その穴から飛ぶ際に、私が零時さんに飛翔魔法をかけて地上までサポートする、というご提案です。どうでしょうか?」
「おお、それだったら・・・・・・っておい、ちょっと待て」
「どうかしましたか?」
「いや、どうかしましたか? じゃねぇよ。そんな事出来るんだったら、何でお前今の今
まで黙ってた?」
「フフ、先に言ってしまっては面白くないではありませんか。サプライズというものです
よ。いや~それにしても、予想以上でしたねぇ。まさか零時さんがあれ程腕を振るって下
さるとは、内緒にしていた甲斐がありましたよ~、ははは」
シンは満足そうな笑顔で俺にそう言った。腹立たしい事この上ないが、もう殴る気すら失せたよ。正直疲れたし、何よりこいつの場合は殴ったところで喜ぶだけだろうからな。
「わかったよ、その件はもう良い。それに飛べるって言うんだったら、異世界初日から潰れたトマトみたいになる心配もねぇしな」
「おや、これは意外ですね。この返答の仕方だと、零時さんなら有無を言わさず来るかと思ったのですが。どうです? 思い直して今からでも一発」
うるせぇこのドM。ちょっとは自重しやがれ。
「だが、これだけは聞かせてもらうぞ。まず着地点、そしてそこが安全な場所なのかどうか」
「安全面は恐らく大丈夫かと、爆発音みたく大きな音を立てなければですが」
「どういう事だ?」
「普通そのような爆音が鳴り響いたら皆不思議に思うでしょう? それは人であっても獣であっても変わりありませんので」
確かにな。
「どこに着陸するかどうかは、ご自分で確認して頂いた方が早いですね」
そう言い、穴の方に手を向けるシン。
・・・・・・覗けとっ!?
「さあ」
「ぐっ・・・・・・」
若干・・・・・・というか、かなり嫌だが穴の方へと歩いていく。
「良いかっ!? 俺が良いって言うまで、そこから一歩も動くんじゃねぇぞ!!」
俺はシンに釘を刺した後、穴を覗き込んだ。
・・・・・・・・うん。
一面森やら草原、いかにも何か出そうな・・・・・・。
「おい、せめてどっか町の近く、にぃ・・・・・・っ!?」
俺が振り返ると、ニコニコと笑いながらバズーカを構えるシンがいた。
「なんでお前そんなもん持ってんのっ!?」
「足が少々竦んでいらしゃったご様子でしたので、零時さんがしっかり飛び降りられるよう、微力ながらこちらもサポートして差し上げようかと。あ、仰られた通り、一歩も動いてませんよ?」
すっげぇドヤ顔っ! うぜぇっ!
「てかそれどうしたんだよっ、どっから出しやがったっ!!」
「ああ、これですか?」
俺の問いに、シンは得意げに答えだした。
「実は、零時さんをこちらへお呼びする少し前に地球を一人でひっそりと観光していたのですが」
観光って、お前一体何やってんの?
「その時に偶然見つけまして、面白そうだったので一つだけ拝借して来たんですよ」
本当に何やってんのお前っ!?
「パクって来ただけじゃねぇかっ!! それただの泥棒だよっ!!」
「おや、いけませんでしたか?」
「そんなキョトンとした顔してもいけねぇよっ!? 今頃、向こうは大パニックだよっ!!」
バズーカが急に一個無くなったら、たとえ自由の国アメリカでも大騒ぎするわっ!!
国家レベルでえぐい事を仕出かしたこのバカに対し、俺が必死になっていると、
「ではソフィー、お願いします」
「ぐすっ、はい、主、様」
「って、おいこらぁああっ!」
何事も無かったかのようにソフィアちゃんに話しかけるシン。
そして半べそのままのソフィアちゃんが俺の方に手をかざし、すみませんすみません、と謝った後、何やら呪文らしきものを唱え始めた。
「げっ!」
その瞬間、俺の真下に魔法陣が出現し、無数の鎖が俺の体をがっちりホールドした。
何かデジャヴっ!
逃げようとするが、ビクともしない。これもデジャヴなんですがっ!?
「じゃあ、いっきますよー」
「いかんで良いっ!! ちょっと待てぇ!!」
「フフ、当てませんので大丈夫ですよ。私を信じて下さい」
「無理だよっ!! バズーカ未経験者のどこを信じろって」
「はい、どぉーん」
――――ボシュッ!!
俺の言葉を遮り、シンはむかつく効果音と共に発射した。
「待て待て待て待てぇあああああああああああああああああっっ!!」
俺の制止空しく、奴の撃った弾は俺に目がけ、そして、
ッガアアアアアアアアアアアアアンッッ!!
・・・・・・・・着弾。
「ああああああああああああああああああああっ!!」
着弾による勢いと爆風により、綺麗に穴の中央へと吹っ飛ばされた俺。
いや、これ普通に死ぬやつだからね?
すると、上から手を振りながらシンが、
「零時さーん! 御達者でーっ!」
「こんの、腐れ外道がああああああああああああっ!!」
そうして、俺は異世界の空へ・・・・・・舞った。
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※次話の『零時が旅立った後の天界アルカディア』は途中から追加した為、内容の中に一部分だけ『三章・再会』までお読み頂けないと疑問に思われる言葉が出て来ますので、どうか皆様お気をつけ下さい。
と言っても、本当に一言くらいなんですけどね(笑)