待ってました胸熱展開
オプション。そう、それ即ち異世界系の物語によく出て来る、あれだ。
夢にまで見た事態に心臓が口から飛び出そうなくらい興奮している。
しかし、だ。ここですぐに承諾してこいつにチョロッ、とか思われんのも何か癪だし、まずは聞き返すくらいはしておくか。
「へ、へぇ~、オプション? ああオプションね。べ、別に全くそんなのに興味なんかこれっぽっちも無いんだけどさ~。一応、一応な? どんなオプションなのかだけ、聞いておいても良いかな~、なんて思ったり思わなかったり~」
・・・・・・これ完璧じゃねっ!?
このさり気無い感じマジ半端ねぇよ。全く、自分の溢れんばかりの才能に惚れ惚れするぜ。
これでこいつもチョロいだとか思わないだろう。何てったってパーフェクトな返答だったしな。
さあシンよ、俺のポーカーフェイスに気付けないまま、そのオプションについて洗いざらい吐露するがいいっ!
「(・・・・・・・・・・釣れましたねぇ(笑))」 ※モロバレ。
自信満々にやってやった感を出す俺を傍目に、ぷるぷると必死で笑いを堪えるシン。
「? どうしたんだ?」
「いえ、何でも・・・・・・っ。はあ、で、オプションについてでしたね?」
「ああ」
「それは、零時さんの願いを何でも一つだけ、叶えて差し上げる。というものです」
なん、だと・・・・・・・・・・っ!?
「そんな事本当に出来んのか? いや、出来るのでございましょうか?」
「ええ、勿論。私は一応神ですよ? 願い事の一つや二つ・・・・・・、と言いたいところなのですが、実は願いを叶えるのは私ではなく、この特別な秘宝です」
そう言って俺に見せてきたのは、何やら星マークがある玉を咥えた、龍の形をした水晶だった。
・・・・・・まあ、偶然って事もあるからなっ。うん、まあ大丈――
「この秘宝の名はシェ○ロンと言うのですよ」
「アウトォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
結論、全然大丈夫じゃなかった。
「おぉっ、突然どうしたのですか? 何か問題でも?」
「いやいやいやっ、問題しかねぇよっ!? それは完全にアウトだよっ! その形の水晶と願いをどうちゃらって件だけでもギリギリなのに、名前までそう来ちゃったら弁解のしようが無いよこれ! 少しは著作権気にしろよっ!」
「著作・・・・・・? はて、何の事かわかりませんねぇ。まあ話を戻しますね」
こいつ、白を切りやがった・・・・・・っ。
「この水晶にはどんな願いも一度だけ、叶える力があります」
「へぇ、そりゃすげぇな。・・・・・・ん? どんな事でもって言ったか?」
「はい。但し、一度限りですがね」
シンはそう言いながら、俺の目の前に水晶を置いた。
「では、零時さんの求める願いをこの水晶に言ってみて下さい」
どんな事でも、なんて言われたら、そんなもん一つしか思い浮かばねぇじゃねぇか。
俺が俯いて黙っているのを見て、「どうかなさいましたか?」とシンが聞いてくる。
「どのような事でも宜しいのですよ? 例えば、世界最強の力を手にする、とかでも問題はありません」
シンの言葉に俺は「はっ」と笑い、こう言った。
「そんなテンプレ丸出しの願い、誰がするかよ」
「ほぅ、ではどのような事を?」
含み笑いをするシン。そして俺は水晶に向かって力強く、こう願った。
「・・・・・・・・・・〈ハーレ、むごっ!〉」
俺が言い終わる前に、シンに口を全力で塞がれてしまった。
「何すんだっ!」
「えぇっ!? 何すんだっ! じゃないでしょう!? 何て事願おうとしているんですか貴方はっ!!」
「うるせぇっ! ハーレムはな、全ての男の偉大なる夢なんだよっ! それを俺が代表して叶えるのに、何の問題があるってんだっ!!」
「大アリですよっ! 百%下心の塊じゃないですかっ!! 正気ですかっ!?」
正気か・・・・・・、だと?
「お前・・・・・・、本当に俺が下心満載のイカれ野郎に見えるのか?」
・・・・・・・・ツゥー。
「いやっ! 鼻血出てますけどっ!?」
おっといかんいかん、無意識に気持ちが高ぶってしまった。
「ちっ、わかったよ。次はちゃんと、別のやつにしてやるよ」
「お願いしますよ・・・・・・」
全く、これだからモテ道しか歩んだ事のない奴は困る。一度くらい俺にだっておいしい思いをさせてくれたって良いじゃないの。ねぇ?
にしても、どうすっかなぁ・・・・・・。
戦う事になるのなら、やっぱ現実的に見て最強の武器とか能力系だよな。
前線でなくても遠距離で戦える魔法使いとかでも良いな。
「さて、これは迷いどこ」
・・・・・・ちょっと待てよ、もしかして。
「どうです? 決まりましたか?」
何かに気が付いた俺を見て、シンは俺に再度回答を求めた。
「ああ、決まったぜ!」
物は試しだと言ったような感じで、俺は今度こそ真剣に水晶に向かって願う。
「・・・・・・〈異能力無限付加〉能力を寄越せ!」
「な・・・・・・っ」
すると、水晶が金色に光を放ち、俺を包み込んでいく。
「どうだ? これなら数ある願いから一つなんて選ばなくたって全部手に入るだろ?」
そう、どんな事でも叶えてくれるのにわざわざ一つだけなんて勿体無さ過ぎる。
なら最強の力も、魔法も、全てを手に入れてしまえば良いだけの話だ。
まあ、魔法に関しては、『みたいな』が正解だけどな。
「これは・・・・・・。まさか、そのような力を手に入れてしまわれるとは」
シンも流石に驚いたのか、ご自慢の笑みも少し引きつっている。
「フフ、全く貴方は先程のおかしな願いといい、何を仕出かすか本当にわかりませんね」
「褒め言葉として受け取っておくよ」
言葉を返したと同時に、俺を包んでいた光がスゥーと身体の中に吸い込まれるように消え、その後水晶は粉々に砕け散った。
「では、これで取引成立ですね」
「そうだな。正直かなり面倒くせぇけど、貰うもん貰っちまった以上は仕方ねぇしな」
とは言っても、変わった感じが全くしない。こういう物なのか? と思いつつも、
「なあ、ちょっと試してみても良いか?」
とりあえず、試しに異能力を付加してみる事にした。
「ええ、構いませんよ」
「じゃ、失礼して・・・・・・」
これは付加した能力がしっかりと発現するかどうかのテストだ。
なら目に見えてわかり易い方が良いと判断し、まずは『発火能力』を付加する事に決めた。
「・・・・・・・・・・」
ライター程度の火のイメージを思い浮かべ、意識を集中する。
そして、そのイメージを固定したまま、指先にぐっと力を込めると、
「・・・・・・おぉっ」
シュボッ、と俺の人差し指の先に小さな火が灯った。
「おめでとうございます零時さん」
「あ、ああ」
この全身から湧き上がる高揚感。それが、本当に特別な力を手に入れたのだと俺に確信付けた。
「それにしてもすげぇな。指先に火があるのに全然熱くねぇし、何より俺の指示一つで火力も変えられて消す事も出来るのか」
「気に入って頂けましたか?」
「まあな! おかげで心底楽しい異世界ライフになりそうだ」
あまりの喜びに消した火をもう一度出しては消し、出しては消しの無駄でしかない行為を繰り返す。
まるで、新しい玩具を買って貰った子供がはしゃぐように。
しかし・・・・・・。
「・・・・・・っ!?」
突然視界がぐらっと揺れ、そのまま地面に膝を着いてしまった。
「――っ、どうかしましたか?」
「・・・・・・いや、何か急に目眩が、な」
正直、目眩だけじゃない。心なしか身体もだるい。
「何だこれ・・・・・・」
訳がわからず膝を地に着けたまま頭を抱えていると、
「フム・・・・・・。少し、宜しいですか?」
そう言い、立ち上がれないでいる俺の顔の前に手をかざすシン。
「なるほど、やはり・・・・・・」
そして何かを察したのか、かざしていた手を下ろし、俺に言った。
「これは、能力の連続使用と使い過ぎによるものではないかと思われますね」
「使い、過ぎ?」
「はい。零時さんの生命力が著しく減少しています。つまり零時さんが入手した固有スキル、〈異能力無限付加〉というのは、おそらく零時さんの生命力を媒介に発動しているのではないかと」
「生命力って、じゃあ俺は死ぬかもしれなかったって事なのか?」
「そういう事ですね」
え、でも俺威力は違えどまだほんの十回くらいしか発動して無かったよな?
それで命の危機って・・・・・・。どんだけ俺の生命力弱いんだよって話じゃねぇか。
いや、それとも食う量が半端じゃねぇのか?
「どっちにしてもこれだけで死にかけるとか、下手すりゃスライムにも勝てねぇぞ・・・・・・」
楽しくなる筈の異世界ライフが途端に崩れ去り、絶望していると、
「そうですね。ですが、解決策が無い事も無い、と言ったら?」
シンがその驚きの言葉を口にした。
「あ、あるのかっ!? 解決策が!」
「ええ、〈異能力無限付加〉という能力を手にした零時さんにしか取れない方法ではありますがね。やりますか?」
「頼む!」
「では零時さんにはその力で『無限の魔力』を貴方自身に付加して頂きます」
「何で魔力を?」
「能力発動の媒介となっている生命力の代わりにする為です。魔力も本来であるならば生命力や精神力から生成される物ですからね、代用品としては最適なのですよ」
フフフ、と笑うシン。
「でもそれって結局魔力も生命力を媒介にしてるって事だろ? 意味あるのかそれ」
シンが提示した方法に対し、俺はそう問いかけた。
「だからこその『無限』、なのです」
と、シンは答える。訳がわからん。
「まあ簡単に言ってしまえば、『無限の魔力』を付加してしまえば付加も一度で済みますし、何より減る事が無い以上、魔力不足に陥る事も生成する事も無いので能力も気兼ねなく使用が可能になるという訳です」
なるほど、確かにその方法だったらもう二度と生命力を使う事は無くなる。これ以上は無い案だ。
そうと決まれば、
「――付加、『無限の魔力』」
俺は言われた通り、『無限の魔力』を付加した。
「・・・・・・・・・・」
やっぱり実感は湧かないな。
「では零時さん、先程の火を少しばかり強めで出して下さい」
「わかった」
言われるがまま手を前に突き出し、『発火能力』の威力を上げ、発動させると、
「――――っ!?」
何という事でしょう。花畑の一画が一瞬で焼け野原になったではありませんか。
・・・・・・って、何だこの威力っ!?
「フム、生命力に異常は無し、魔力も存在し減っている様子は無し、と。どうやら成功のようですね」
あれ、何でこいつこんなに冷静なの? あっち凄い事になっちゃってるんだけどっ!?
「いや~、正直博打でしかありませんでしたが、成功して良かったですね~。うんうん」
しかも博打だったんかいっ!
「ちなみに失敗だったらどうなってたんだ?」
俺はへらへらと笑うシンに聞く。するとシンは指を自分の口元に当て、言った。
「・・・・・・禁則――」
「言わせるかぁっ!!」
「ぐぅっおほっ!」
皆まで言う前に、俺はシンの顔面に右ストレートを全力でぶち込んだ。
それをその仕草で言って良いのは、小柄で巨乳で可愛らしい女性だけ! 故に、お前が言って良いものではない。いや、言わせてなるものか!
「ふぅ~・・・・・・」
一仕事終えて一息をついていたその時。
「主様っ!」
「お・・・・・・っ」
聞き覚えのある声と共に、俺はいつの間にか女性騎士等三人に剣を向けられ囲まれていた。
「貴様っ、主様に何という事を! 万死に値する!」
「あ~、貧乳またお前か。(あ~、貧乳またお前か)」
「ひ・・・・・・っ、何ですってぇえええっ!?」
「おっと、しまった。つい本音が」
「本音も何も、それ一択だったわよねぇっ!?」
「な・・・・・・っ、まさかお前、心が」
「読むまでもないわよそんなものっ!!」
何とまあ(いじりやすい)元気なお嬢さんだ。
しかし、この状況どうしようか。一応何かしら能力を付加すれば何とか出来ない事も無いが・・・・・・。
「ふ、ふざけるのはそこまでにして、お、大人しくして、く、下さ、ぃ・・・・・・」
俺にそう言いながら剣を両手でぎゅっと胸の辺りで握りしめる小柄な女性騎士。
ていうか、女の子。
「お、お願い、ですから・・・・・・」
え、待って、何この子超可愛い。その容姿で涙目とか反則っしょ。
「ふぅ・・・・・・」
「・・・・・・え、わひゃっ」
気が付けば俺はわしゃわしゃとこの子の頭を撫でていた。無意識というものは怖い。
「あ、あの、その」
「あ、ごめんね。あまりにも可愛らしかったから、つい」
「――かっ、かわ、かわわ・・・・・・」
顔を真っ赤にして俯く少女。ああ、癒される。それに比べて・・・・・・。
「――っ、――――っ!」
こいつのうるささときたら、全く・・・・・・。
「さっきからぎゃんぎゃんやかましいぞ貧乳。ちょっとは静かにしろよな」
「誰の所為だと・・・・・・っ」
「お待ちなさい」
「主様! ご無事でっ」
あ、やっと復活した。
「零時さんの言う通りですよ。貴方も我が誇り高き騎士の一員ならば優雅さと慎みを持って行動なさい」
「う、申し訳ありませんでした」
「さあ、皆ももう下がりなさい。私は平気ですから」
シンがそう告げると、
「「「御心のままに」」」
貧乳を除く全ての女性騎士達が一斉に後ろに下がった。
「貴方もですよ、ひん・・・・・・ミーナ」
「み、御心のまま・・・・・・、って主様っ!?」
うわ、絶対こいつ今貧乳って言いかけたな。ていうか貧乳の名前ミーナっていうのか。まあ貧乳は貧乳だし、どうでも良いけど。
そんな事を思いながらも、涙目で下がっていく貧乳もといミーナに対し、俺が若干哀れみを含んだ視線を送っていると、
「すみませんでした零時さん」
シンがこちらに向き直り、そう謝罪し頭を下げる。
「いや、勢いとは言え殴ったのは俺の方なんだし、別にお前が」
「そしてごちそうさまです」
「は? 何が?」
何故そこでごちそうさまが出てくるのか。意味不明過ぎて俺の、今回は素直に謝ろうっていう気持ちがどこかに吹き飛んでいったよ。
それに、何かまたこいつの息が荒いのは気の所為だろうか。気の所為であって欲しい。