ここはどこっ!?
「・・・・・・っ!」
目を覚ますと、とても澄んだ青空が見渡す限りに広がっていた。
どうやら、俺はあの後気を失ってしまっていたらしい。
「あれから、どうなったんだ・・・・・・?」
自身の記憶を探りながらゆっくりと身体を起こす。すると、
「・・・・・・え?」
自身の目を疑うような光景が視界に飛び込んできた。
それは、先程まで居たどこにでもありそうな地味な公園、ではなく遊具も無ければトイレも無い。
ここにあるのは視界いっぱいに見事に咲く花々のみ。
そう、俺が今居るこの場所は、必死で駆け込んだあの公衆トイレがある公園ではなかったのだ。
「何じゃこらあああああああっ!?」
思わず叫んだ。
目が覚めたら突然自分の周りが一面花畑になっているのだから、これで逆に動揺しない奴の方が珍しいと思う。
「何で俺、こんな所に・・・・・・?」
動揺しながらも、もう一度自身の記憶を探り返す。
「確か便器の中に・・・・・・。それから、えぇと・・・・・・」
便器の中へと引きずり込まれたところまでは覚えているが、途中で気を失った為か、それ以降の事はどうしても思い出せない。
「くそっ、何がどうなってんだよ、ったく・・・・・・」
そう言い、髪をガシガシと掻きながら澄み切った空を見上げた。
そして、心をある程度落ち着かせた後、
「はあ・・・・・・。ま、わからない事をどうこう考えたって時間の無駄だし、とりあえずここが一体どこなのかを調べてみるべきだな」
と、溜め息をつきながらも、前に見た刑事ドラマで言っていた『捜査はまず足から』という言葉に習い、、まずは行動する事に決めた。
まあ正直に言って、こんな砂漠みたいにどこまでも花畑が続いてそうな所、どこを調べれば良いのかなんて、全く検討がつかない訳ですがね。
「さて、どっちに向かうか・・・・・・」
右に左にキョロキョロと向かう方角を決めていると、
「――――っっ!」
背後から突然何者かに手を肩にポン、と置かれ、一瞬ビクリと身体が反応する。
バッと勢いよく振り返ると、そこには白いローブに身を包んだすっげぇ爽やかなイケメンが立っていた。
・・・・・・え、どちらさまっ!?
「フフ、すみませんでした。驚かせてしまったようですね」
そのイケメンは俺の強張った表情を見て、少し笑いながらそう謝罪をした。
「・・・・・・・・・・」
「あの、どうかなさいましたか?」
イケメンは黙り込む俺を見て、心配そうに尋ねてくる。
「あ、ああすみません。大丈夫ですので、気にしないで下さい」
「そうですか。なら良かった」
「それよりここは・・・・・・っ」
俺がこの場所について質問しようとすると、俺の口元に指をすっと差し出し、それを制止した。
「貴方が疑問に思っている事は可能な限りお答えさせて頂くつもりです。そう焦らずに」
そして囁くようにこの言葉である。
・・・・・・・これはきもいっっ!!
え、何こいつ。きもい、てかうざいっ! 可愛い美少女にされるならまだしも、何っでお前!? 傍から見れば完全に腐な女子しか喜ばない絵面じゃねぇか。
「・・・・・・・・・・」
「おや、どうして苦虫を噛み潰したようなお顔をされているのですか?」
誰の所為だ、誰のっ!!
声に出そうになったが何とか押さえつけ、心の中でホモ疑惑の上がった(俺の中で)こいつにそう怒鳴りつけた。
そんな俺の様子を伺い、イケメンは、
「フム、そうですね」
と一言。そして俺にこんな提案を申し出た。
「見た所、お疲れのようですし、本題に入る前に軽くお茶にしましょうか」
もう好きにしてくれ。
そのイケメンがパチンと指を鳴らすと、今度は真っ白なマントと甲冑を装備した騎士みたいな女性達が五、六人くらい現れ、英国貴族御用達みたいなテーブルやら椅子やらを、せっせと用意していく。
どこから現れた、なんて事は聞くまい。ただでさえこの不思議な事態に頭が追いついていないのに、これ以上謎を増やしたら俺の脳がパーになっちまうからな。
少ししてから女性騎士の一人が俺達の元へ歩み寄り、
「主様、ご準備が整いました。どうぞこちらへ」
無駄なく、そう報告した。
「ああ、ありがとう」
一言女性騎士にそう告げると、イケメンは椅子に腰掛ける。
「さあ、貴方も遠慮なさらずに、どうぞ」
ぼーっとつっ立っていた俺にそう言い、イケメンとは対面の位置にある椅子を手で示した。
「じゃ、じゃあ失礼して・・・・・・」
ぎこちない動きで着席する。
こんな優雅そうなティータイム、初めての経験で流石に緊張はしたが、本音を言うと、楽しみでもあった。
そして俺が座ったのを確認した後、女性騎士がまたも無駄なく俺達の前にティーを・・・・・・。ん? ティー?
「・・・・・・・・・・」
明らかに、湯のみだよなこれ・・・・・・。
え、何故に・・・・・・?
「彼女が入れたお茶は絶品なんですよ。ささ」
鳩が豆鉄砲を食らったような表情で湯のみを凝視していた俺に、目の前に置かれたお茶を飲むよう催促するイケメン。
「・・・・・・あ、はい」
そして催促されるがままズズっと一口。あ、ほうじ茶だぁ・・・・・・。うんまい。
「どうですか? おいしいでしょう?」
「はい、うまいっす。最高っす」
何であの流れで急に『和』になったの? とか、どこからどう見ても完全にアウェーだよね湯のみ。などと、思うところはあったのだが・・・・・・。
もう何でも良いや。なるようになっちまえ。
と色々面倒くさくなり、俺は考える事を止めた・・・・・・。