百合色キノコに気を付けて?
高層キノコの天辺に用意された、キノコテーブルとキノコ椅子で。
ついに、キノコ会議が開催された。
こういうと、キノコ好きによるキノコ愛について語り合う会議みたいだな……。
実際には、キノコを愛しているのは(成り行きで結果的に)会場の用意をした、見た目だけは妹系魔法少女の心春だけで、話の内容には一切キノコは関係しない。ちなみに、心春の衣装は妖精風だ。妹系妖精風魔法少女。見た目だけは。
…………見た目だけは、ね。
「それでは、尋問を始めるわ」
「尋問なのかよ……」
自称魔法使いのサトーさんの首を狙う、死神風の鎌を持つ心春の右手首をあたしが掴んだことを確認すると、月下さんは前置きもなくさっそく会議……尋問を始めた。
いざとなったらあたしが止めてくれると信じている……というよりは、その時はその時と諦めたかのような潔い切り替えぶりだった。
「華月と名乗る、人型の妖魔を知っているかしら?」
「華月…………? いや、知らん。そいつが、どうかしたのか?」
妖魔、と聞いたとたん、展開について行けず戸惑い加減だったサトーさんの声に緊張が走った。
心なしか、だるーんとしていた背筋が伸びたような気がする。テーブルの方に身を乗り出して、月下さんに話の先を促す。
「妖魔に、“道”の使い方を教えたりした?」
「………………こっちの質問には、答えないのかよ。本当に尋問だな」
「どうなの?」
「妖魔に、そんなこと教えてどうすんだよ? まあ、使っているところを見られたことはあるだろうが」
「…………本当に?」
月下さんが疑わし気に、サトーさんを睨みつける。
心春の右手がぴくっと動いて、あたしは慌てて掴んだ手に力を込める。
ダメ! ダメだから!!
それ、やったら、ダメなやつだから!
「…………つまり、その華月って奴が……。そういうことか。それで、俺が呼ばれたわけか。あー、そういうことなら、月下。おまえ、勘違いしてるぜ?」
「どういうこと?」
サトーさんの右手が動く。どうやら、顎を撫でているらしい。
月下さんが、訝し気な顔をした。
心春。君は、右手を動かしたら、いかん! いかんからね!
「“道”っていうのはよ、元々は妖魔の能力なんだよ」
「え?」
「え!?」
「な、どういうことですか!? 言い逃れをするつもりなら……」
「心春、静かに!」
「はい!」
思いがけないサトーさんの言葉に、月下さんだけでなく、あたしたちまでつい反応してしまう。心春は過剰に反応しすぎて、さっそく窘められてるけど。大人しく、言うことを聞いてくれてよかった。
「妖魔の中には、空間を渡れる能力を持っている奴らがいるんだよ。“道”……“門”の秘術とも言われているな。で、それ系の術はさ、空間を渡る妖魔の力を参考につくられたものだ。参考にって言っても、捉えた妖魔を……」
「サトー」
「おっと、わりぃ」
言いかけたサトーさんを、月下さんが遮った。
なんでだろう? 嘘を言ってるっぽかったから?
あたしにはその意味が分からなかったけれど、サトーさんには分かったみたいで、特に文句も言わずに、素直に謝っている。
首を捻っていると、隣で心春がふむ、と頷いた。
「なるほど。妖魔を捉えて、口では言えないような残虐非道な実験を行って、“道”の秘術を編み出したと! 解剖とかも、したんでしょうか!? 妖魔の臓器って、どうなっているんですかね!? そもそも、臓器とかあるんでしょうか!? 空間を渡るのに臓器がどう関係するのかは分かりませんが!?」
「~~~~~~っっっっ!!!」
さらっととんでもないことを言う心春に、あたしは声にならない悲鳴を上げた。
涙目で月下さんを見ると、月下さんは人差し指でこめかみをぐりぐりしながら、苦笑いを浮かべている。
どうして月下さんがサトーさんの話を止めたのかと、サトーさんが意外にも申し訳なさそうに謝った理由は分かった。今、分かった。
お気遣いは、そもそも気遣う必要がまるでなかった心春によって無駄になったけどね!
心春は、もうちょっとこういうところで、あたしを気遣ってほしい。
「あー、悪い。ちょっと、配慮が足りなかった。足りなかったが……、心春ちゃん、だっけ? あの子も大概どうかと思うが……」
「それについては…………、諦めてちょうだい。いろいろと、ね……」
「はあ? まあ、いいけどよ。それより、その華月って妖魔、何をやらかしたんだ? ずっと、引きこもってたお前が、わざわざアジトの外まで出てくるくらいだ。よっぽどなんだろ? 聞かせろよ?」
「………………」
いいけどよ、でガリガリと頭を掻いたサトーさんは、それより、でスッと背筋を伸ばして、真っすぐに月下さんを見つめ……たようだった。
声に真剣さが籠っている。
あたしが知っているサトーさんらしくない。
ちゃんとした大人の人みたいだ。
月下さんは、押し黙り、揺れる瞳でサトーさんを見つめ返している。
「俺はよ、そりゃ妖魔と戦う力はお前や月華には遠く及ばないし、一門の中でも落ちこぼれの末端だけどよ。だてにおっさんなわけじゃないって言うか、一応、経験だけはお前らよりもあるぜ? 俺を呼んだのは、“道”のことを聞きたいってだけじゃない。俺の意見を聞きたかったんだろ?」
「………………そうね。悪かったわ、尋問なんてして。全部、話すわ。だから、その上で、サトー。あなたの意見を聞かせてほしいの」
月下さんは、マナー教室でお手本にされそうな完璧さでサトーさんに頭を下げる。頭を上げた時には、月下さんの瞳からは迷いのようなものは消えていた。
萎れかけていた花が、たっぷりと水を与えられて再び生気を取り戻した、みたいだった。
一言でいうと、美しい!
びゅーてぃふぉー!
かぐや姫も裸足で逃げ出す!
おまけに、真っすぐにサトーさんを見つめる綺麗な瞳には、信頼……の光が浮かんでいる、ような気がするのだ。
後ろで見てるあたしだって、こんなに心臓がぎゅっとしてドキドキするのだ。
真正面に座っている当事者のサトーさんは、ひとたまりもないだろう。
てゆーか、見とれてるよね?
そうだよね?
ああん、もう!
妖魔とは関係ない、二人の大事な話が始まりそうな雰囲気なんですけど!
内心で、きゃ~! と悶えかけたところで。
右隣で何かが動く気配を察知して。
「ぎゃああああああああ!!!」
叫んで、心春に思い切り抱き着いて、キノコの上に押し倒した。
スッと掲げられた心春の左手に、どこかの原住民辺りが持っていそうな槍が握られていたのだ。切っ先はもちろん、サトーさんの首の後ろ辺りに狙いを定めていた。
「どうして、止めるんですか、星空さん!! あの男! 月下美人さんに頭を下げさせるとは、許すまじ! おまけに、なんですか!? あの、これから告白どころかプロポーズとかまでいっちゃいそうな雰囲気は!! 許せません!! 今すぐ! この場で!! 塵も残さず殲滅すべきです!!!」
「お、おおお、落ち着いて!! 心春!! これは、あれだ、その! そう!! あたしと月下さんが深く結ばれるためのイベントなんだよ!! これを乗り越えることで、二人の絆がより一層深まるんだよ!! 何をどう乗り越えるのかは、さっぱり分からんけど!」
何を言っているんだろう、あたし。
とは自分でも思うけど。咄嗟のことだし、暴れる心春を押さえつけながらのことなので、これしか止める方法を思いつかなかったのだ。
この後、面倒なことになりそうな気もするけど、殺人を見逃すわけにはいかないし。ここは、仕方ない。あたしは、いろいろなものを諦めることにした。
ここまで言って、効果がなかったらどうしようかと思ったけれど。
何の問題もなかった。
てきめん過ぎるほどてきめんだった。
「〇×△&#!!!!!!」
心春は、意味の分からないことを叫んだ後、ビクンビクンと体を震わせ、その心をどこか遠いところへ旅立たせた。
よかった。
大人しくなった。
でも、いつまた復活するか分からないし、どういう復活の仕方をするか分からないから、とりあえず話が終わるまでは、あたしがこのまま拘束具としてキノコの床の上で心春に絡みついているしかない、かな。
なんか、獲物を捕らえたタコになった気分だよ。
「な、なあ。あの子、一体なんなんだ? 今、後ろで何が起こってるんだ?」
「妖魔と男は殲滅すべきっていう思想の持ち主なのよ」
「はあ!? あ、あー…………。なんか、分かった気がする。それでもって、百合志向ってわけか……。また、えらいのが加わったもんだな」
「百合志向? どういう意味かしら?」
「ん? あー、百合っていうのはな、女の子同士がイチャイチャしてるのを楽しむ一つの文化だ」
「………………文化?」
「そう、文化だ」
脱線している。脱線しているよ、二人とも!
「月下さーん! 早く、お話終わらせちゃってくださいよー! 解き放っちゃいますよ!?」
「あ! ごめんなさい、星空。すぐに終わらせるわ。えーと、それで、何の話をするんだったかしら? 心春には気を付けて?」
「いや、それはそれで大事な話もしれんが、違うだろ……」
だからー! 早くー!
もう、解き放っちゃおうかな。今は、意識をユリイロの世界に旅立たせて大人しくしているんだし。
それか、あたし自身が拘束具の代わりをしなくても、何か他のもので拘束しちゃえばいいんだよね?
んー。どうすれば、いいかなー。
いつ始まるのか分からない二人の大事な話のことは、一旦忘れて。
あたしは、如何に心春を拘束すべきかに思いを巡らせるのだった。




