そんなわけないでしょ!
「よお、久しぶりだな。おまえがアジトを出て、その上、俺を呼び出すなんてなぁ。どういう風の吹き回し…………」
高まる緊張の中、黒い楕円から現れた人影は、ヨレヨレのスーツを着た冴えないおっさん……あたしたちの待ち人であるところの、自称魔法使いのサトーさんだった。
楕円から出てきたサトーさんは、へらりと笑いながら片手を上げて月下さんに挨拶し、なぜかそのまま固まった。体は楕円から出てきているけれど、リヤカーはまだ楕円の向こうに残したままだからか、楕円はまだ閉じることなくその背後に存在している。
出てきたのがサトーさんで、ちょっと安心したけど。その楕円がそのままだと、何か他のものが出てきそうで怖いから、早いとこ閉じてほしい。
でも、サトーさんは楕円から出かかったままの状態で、じっと月下さんの顔を見つめ、それから月下さんの頭上へ視線を移し数秒何かを凝視した後、また月下さんの顔へと戻し。そのまま呆然として、足を動かそうとする気配はない。
何? 何なの?
「月下。何、してんだ? おまえ? 一体、何があったんだ?」
そして、上げた片手でそのまま後ろ頭を掻きながら、戸惑ったように力なく笑う。
いや、何なのはこっちのセリフなんですが?
「あなたに聞きたいことがあるのよ」
「聞きたいこと? 言いたいことじゃなくて、か?」
「聞かせてもらった話の内容によっては、もちろん言わせてもらうこともあるわね」
「え? 俺が、話すの? いや、そっちに報告したいことがある、とかじゃなくてか? いや、俺から言えることは、まあ、何があったのかは分からんけれど、とりあえずのところは、おめでとうございます? とか、なの、か?」
「歯切れが悪いわね。さっきから一体、何を言っているの?」
訝し気な声を出す月下さんだが、月下さんの顔をその頭上に、視線を行ったり来たりさせるサトーさんに、あたしはなんとなく分かったような気がした。
原因は分からないけれど、とりあえず犯人は。
あたしは、スッと無言で立ち上がって振り返り、視線を上げる。
「こ、こ、こ、心春――――――っ!!!!」
ニワトリになりかけながら、絶叫した。
なー、ななななな、なんじゃこりゃ――!?
わなわな震えながら、ベンチの隣、空飛ぶブランコに座ってやり遂げた笑みを浮かべている心春の両肩を掴んで激しく揺さぶる。
「あまりにも二人が、仲睦まじげでしたので、つい。少し、気が早いかとは思ったのですが。ほら、いずれは、ね?」
ガクガク揺さぶられながらも、心春は満足げに笑っている。
あたしと月下さんが二人で座っていたベンチの頭上には、いつの間にか、淡く発光するお花で作られた真っ白いボードが浮かんでいたのだ。
ベンチには、蛍光ピンクに光る小さなキノコで文字が書かれていた。
「…………はっぴーうえでぃんぐ……。ほしぞら、はーと、げっかびじん……」
さすがに何かを察知して、あたし同様立ち上がった月下さんが、ボードに書かれた文字を、たどたどしく読み上げる。
月下さんは、あたしみたいに大声を出したりはしなかった。
ただ、疲れたようにため息をついて、人差し指でこめかみをぐりぐりしている。
「そんなわけですから! あなたの出る幕はありません! 早々にお引き取り下さい!! 闇底のすべての女子は星空さんのもの! これから! 闇底には!! 星空さんの一大ハーレムが築かれるのですから!!! この闇底に、男など不要なのです!!!!」
「こ、心春―――!!」
あたしらのガクブル攻撃をものともせず、心春があたしに何の断りもなく、あたしの予定を勝手に宣言とかしてくれちゃってる。
何してくれちゃってるの!?
何してくれちゃてるの!?!?
「え? それを伝えるために、俺はここに呼び出されたのか?」
「そんなわけないでしょう!」
困惑したサトーさんの声に被せるように、月下さんがぴしゃりと言い放つ。
そんなわけないでしょう!
そんなわけないでしょう!!
ああ、もう。
一体、あたしたちはここへ、何をしに来たんだっけ?
もうなんか、サトーさんの後ろにある黒い楕円にすべてを放り込んでなかったことにしたい!
今! 切実に!!




