魔法少女モドキ
「そこの妖魔! 滅する前に、聞きたいことがあります。正直に答えなさい」
「いいよ。答えてあげる。何が知りたいの? こういうの、君たちの言葉で冥途の土産って言うんでしょ?」
心春が、ビシッと剣の先を突きつけると、華月はようやくツインテールをいたぶるのをやめて、こっちを見た。生理的に受け付けない類の笑みを浮かべて、余裕な感じで心春に答える。
「その子は一体、何なんですか? 人間? 妖魔? 魔法少女?」
剣先が、つ、と地面に倒れ伏すツインテールへと移る。
あの子が何なのかは、妖魔の方を殲滅してから、ツインテールに聞いてみるようなことを言っていたけれど。どうやら気が変わったらしい。
一方的にいたぶられているツインテールを見るに見かねて、っていうのもあるのかもしれない。
…………もしも妖魔だったなら、まとめて一緒に殲滅しよう、とかじゃないことを祈りたい。
「こいつ? くっふふ。こいつはね、ボクの下僕。ボクが作った魔法少女さ。出来損ないだけどね」
出来損ないという割には自慢そうに胸を反らす華月と、その華月を射殺さんばかりに睨みつけるツインテール。
え、と?
つまり、どういうこと?
答えは、心春がくれた。
「つまり、こういうことですか? 元は闇底に迷い込んだだけの普通の人間の女の子が、妖魔と契約して、妖魔の魔法少女になった……と? いえ、この場合、魔法少女モドキというべきでしょうか?」
「モドキだなんて、失礼だな。まあ、出来損ないではあるけどね」
ああ~。モドキに反応して、ツインテールが心春のことも睨んでる~。
「最低ですね。やはり、あなたは殲滅するしかないようですね」
ハラハラしているあたしをよそに、心春は剣を構えて走り出す。
「立て、出来損ない。ボクの盾になるんだよ」
「分かり……ました……」
「ひ、卑怯な!」
華月に鎖を引かれて、ツインテールがよろよろと立ち上がり、ノロノロとした動きで嫌々華月の前に立つ。盾になんてなりたくないっていう気持ちが、滅茶苦茶伝わってくる。
心春が、だったら二人ともまとめて殲滅――とか、言い出さないか心配したけれど、よかった。大丈夫だった。ちゃんと、手前で立ち止まってくれた。
ほっ…………としている場合じゃない!
ピ、ピンチだよ!
どうしよう。どうしたら。
あっ。そうだ!
一つ手を思いついて、あたしは走り出した。
心春の少し後ろで立ち止まり、スプレー缶をツインテールに向かって吹きかける。
もちろん。妖魔を撃退するアレだ。
「スターライト・シャワー!」
「きゃああああ!」
「心春、今だよ!」
「ナイス連携プレーです! 覚悟してください、やあ!」
「くっ。この役立たず!」
ふっふっふ。ツインテールにはシャワーが効果あるみたいだからね。ツインテールを怯ませておいて、その隙に心春が本体……じゃない、華月に攻撃する作戦!
大成…………功、してない!?
「くっ、あっははは! なんだい? そのへなちょこな攻撃は? 盾なんて、そもそも必要なかったね。あっはは! 当たらない! 当たらないよ!」
「くっ。おのれ、ちょこまかと! 往生際が悪いですよ!」
盾を封じられて一瞬、焦った華月だったけれど、すぐに調子を取り戻して、あたしでも避けられそうな心春のへなちょこな攻撃をひょいひょいと交わしていく。ちなみに、ツインテールは後ろに突き飛ばされて、またしても地面に倒れ込んでいる。普通だったら、心春の攻撃を避ける邪魔になりそうだけど、攻撃がへなちょこすぎてまったく問題がないところが問題だ。
なんていうか、あれだよ。小さい子が新聞紙を丸めて作った剣を振り回してくるのを、年上のお兄さんが大人げなく全部かわしちゃってる、みたいな。
なんか、遊んでいるようにしか見えないんだけど。
あたしは、一体、どうしたらいいんだろう?
どう手を出していいものやら分からなくて、困惑しながら見守っていると、がむしゃらに剣を突き出していた心春が、動きを止めた。
「次で、最後です。この一撃で、必ず仕留める! くらえ!」
大きく険を振りかぶって、華月へと振り下ろす。
ああー、それ。あっさり避けられて、地面に剣を思い切り打ち付けて、手がビリビリしちゃうやつじゃない? てゆーか、ビリビリしている隙に、反撃されちゃうんでは?
ど、どうしよう!?
効果がないのは分かっているけど、それでも一応、スプレー缶を構える。
目くらまし、くらいにはなるかもしれない。
大きく振りかぶった剣が、華月の頭上へと振り下ろされ。
華月は、華月は――――。
う、受け止めたーーー!!??
セ、セーフ! いや、違うよ! これはこれで、アウトだよ!
「なっ。私の剣を、素手で受け止めて、まだ実体を保っているなんて。今までの妖魔は、かすっただけで、塵となって消えていったのに」
か、かすっただけで、塵!?
こ、心春……。運動神経は、イマイチみたいだけど、やっぱり魔法少女力はすごく高いんだな。
そして、その心春の剣を受け止めて、全然何ともない様子の、華月。
もしかして、こいつ、あたしたちより強い?
呆然と突っ立っていると、華月が掴んだ剣先をぐいと上に持ち上げた。心春ごと。
そして。
ぶん、と大きく剣を振る。
「あ!」
「んぎゃ!」
短い悲鳴を上げて、心春の体がこっちに向かって吹っ飛んできた。
避けようか、受け止めようか、咄嗟に判断が出来なくて、あたしは心春アタックをモロに受け、心春ごと後ろに吹き飛ぶ。んで、二人で地面をゴロゴロする羽目になる。
うう。魔法少女じゃなかったら、大けがしているところだよ。
よろよろと立ち上がって、華月の方を見ると。
華月は――。
なんか、自分の体を抱きしめるみたいにして、恍惚モードに入ってる!?
「弱い、弱すぎる! いいや、ボクが強くなったってことかな? くっふふ。そうさ、ボクは強くなった。何人もの魔法少女を喰らって、強くなった! 圧倒的じゃないか!」
い、今の隙に、逃げるべきだろうか、と思ったら。
察知されたのか、偶然か。
どこだか分からないところを見ていた華月が、ヒタリとあたしたちを見据える。
「くふ。くふふ。おまえたちを喰らってもいいけれど、新しい下僕にするっていうのもいいかもね? 今のボクなら、きっと月華の契約を上書き出来る。おまえたちは、この出来損ないよりは役に立ちそうだしね」
地面に倒れたままのツインテールを引きずりながら、こっちに向かってゆっくりと歩いてくる。
ど、どうしよう。どうしたら?
華月の下僕になるってことは、あたしたちも首輪をされて鎖で繋がれちゃうってことだよね?
い、嫌だ! 絶対に、嫌だ!
何より、あの華月とずっと至近距離でいなきゃいけないっていうのが、生理的に受け付けない!
食べられちゃうのも嫌だけど、下僕になるのは、もっと嫌!
くっ、どうすれ…………ば、あ!
思い、ついた。
これなら、もしかしたら!
ツインテールのことは、一回見捨てることになるけれど。
でも、今、あたしに出来るのは、これしかない。これしか、思いつかない。
ごめん、ツインテール。
あたしじゃ、助けてあげられないけれど、月華なら、もしかしたら……!
だから、今は。
「心春! 目を閉じて!」
「え?」
叫んで、心春の腕を掴む。
閉じたかどうだか確認はしてないけど、まあ、閉じてなくてもとりあえず問題なし!
あたしは、反対の手を華月に向かって突きつける。
「スターライトぉおおおおお!!!!」
手の中に現れた大きめの懐中電灯のスイッチをオンにすると。
照明弾みたいなとんでもない閃光が炸裂する。
魔法少女の目もくらませる閃光が。
華月に効果があったのかどうかは、分からない。
それを確認するより前に、あたしは。
あたしは。
逃げた。
心春を連れて。
たぶん、華月が追って来られないはずの。
闇空へと――。




