妖魔とツインテール
「あっは! 何のつもりさ?」
黄色く輝く星型の粒が混じった、白い霧のシャワー。
いつもなら、これでプシューすれば、妖魔はみんな逃げていくのに。
華月には。
全然、なんも、効いてないみたいだった。
え、ええ!?
なんで?
何にもありませんでしたみたいに、全然、平気な顔しているんだけど?
「星空さん。よく見てください。華月には効果がないようですけれど、後ろのツインテールには若干とはいえ、効いているみたいです」
「え? あ、ほんとだ……。でも、どうして? あの子は、妖魔じゃないんだよね? スターライト・シャワーは妖魔限定の撃退スプレーのはずなのに……」
心春に指摘されて、華月の後ろを見ると、ツインテールが胸を押さえて、苦しそうに顔をゆがめていた。
でも、なんで?
あの子は、魔法少女……じゃないにしても、妖魔じゃなくて人間、だよね?
人間、だと思うんだけどな。思ったんだけどな。ちょっと、怖い子だけど。
「まあ、考えていても仕方ありません。とっとと華月を殲滅して、あの子に直接聞いてみましょう。あの子を殲滅するかどうかは、その後で決めればいいですし」
「…………………」
こ、心春さん?
い、いや?
頼もしい。頼もしくは、あるよ?
でも、本気で殲滅しちゃうつもりなのかな?
あの妖魔、ぱっと見人間みたいなのに、殲滅しちゃうのかな?
ちょっとくらいは、ためらいとか、ないんだろうか?
うう。人型の妖魔を殲滅するところは見たくないし、出来れば撃退したかった。
なーんて、ごちゃごちゃやっていたら。
妖魔御一行様(?)の方にも、動きがあった。
華月が、鎖を掴んで思い切り引き寄せたのだ。
アッと小さく悲鳴を上げて、ツインテールがよろけながら2・3歩前に進み、そのまま地面に膝をついてへたり込む。きちんと膝をそろえた、正しい女子のへたり込み方だ。
「おまえ、本当に役に立たないなあ。あの程度の攻撃で、だらしない」
「くっ……。申し訳……ありません…………」
鎖を右に左に振り回しながらツインテールを罵る華月。
鎖に振り回されながら、こんなこと本当は言いたくないのに、っていうのがアリアリなツインテール。滅茶苦茶、悔しそう。ギリリって音がしそうな目で華月を睨んでいる。
一応、謝ってはいるけれど、態度はあまりよろしくない。でも、華月はその辺はあんまり気にしていないみたいだった。それとも、それすら楽しんでいるんだろうか?
だとしたら。
あの妖魔。かなり性格悪い。
感じの悪い妖魔に眉を顰めながら、あたしは。
ツインテールに対する罪悪感で胸がいっぱいだった。
だって、今ツインテールがシバキ倒されているのって、あたしのせいだよね? あと。今更気が付いたけど、もしも華月を無事に撃退出来ていたら、あの子は助けられなかったよね……。二人は鎖で繋がれているんだから、華月を撃退したら、当然あの子も一緒に退場することになるし。
ごめん。そこまで考えてなかった。
とにかく華月を撃退したい一心で!
ツインテールもちょっと怖い女の子だけど、だからって、あんな目にあっていいわけない。
「最低ですね。下がっていてください、星空さん。あの下衆は、私が殲滅して見せます」
一人で頭をぐるぐるさせていると、心春が固い声でそう宣言した。そのまま、あたしを庇うように前に出る。
…………えーと、心春さん?
あの人型、妖魔。本当に殲滅しちゃうの? なんか、あんまり見たくないんですけど。それに、この人。うっかり間違って、ツインテールまで殲滅しちゃったりしないよね? 手が滑りました、とか言ってさ。ツインテールは、シャワー缶が効いていたし、今は半分妖魔になりかけ? かもしれないけどさ。あの鎖から解放したら、もしかしたら人間に戻れるかもしれないし。事情を聞くまでは、殲滅したらいけないと思う。
分かっているよね? ね?
いろいろ不安はある。あるんだけど、シャワー缶が効果なくて、打つ手なしのあたしには見守ることしかできない。
ああー。神様、仏様、月華様! あんまり、えぐいことになりませんように。
心の中で合掌した手を激しく擦り合わせる。
この時の、あたしは。
心春の勝利を、微塵も疑ってはいなかった。




