第91話 幻の大地 その3
すみません。遅くなりました。
『……薄暗いな』
『狭い……』
『こんなところで戦ったら落盤してしまうのではないかのう……?』
「まぁまぁ。入り口は狭いけどもう少し進めば広くなるよ」
魔王の言葉を信じて先に進む。エルドラド金鉱は金鉱とは言っているが
なんてことはない。ただの洞窟のように思える。
俺にはそう思えるのだが、龍達は違うようだ。
『ふむ。確かに金の匂いはする』
『そういえば龍って光物に目がなかったりするのか?』
『個体次第だと思うが……。
金を溜め込んでいるうちに自身が黄金のようになった龍もいるにはいるが』
『そんな龍がいるのか……』
『大分昔の話じゃないか?ほら、あの……
ジーク何たらとかいう人間の英雄が殺した龍のことだろう?』
『ファフニールのことかのう。奴は成金趣味で好かんかったな』
アビスは思い出したように呟いた。ファフニールということは……。
きっと、ジークなんたらさんもかの有名な戦士なのではなかろうか。
……この世界、所々地球で聞いた覚えがある話やそれに似た話が出てくるよなあ。
一体どういうことなのだろうか。魔王を一瞥する。
「ジークフリートは女神が創り出した勇者の一人だねぇー。
人間達からは金色龍ファフニールを討伐した英雄とされてるよ」
『ファフニールは人間共から金銀財宝を奪っていたらしいし
神々の財宝をも狙っていたと言われるほど欲深い奴だったからな』
『同じ龍種ですらこの評価だ。人間達なんて怨敵のように見てたんじゃねえか?』
レッカやクライも微妙な顔でファフニールについて語った。
『私としても心苦しくはあるが……世界の秩序を乱すような
悪龍にまで慈悲を与えるほど寛大でもない』
龍種に肩入れするフラードさんがこの判定を出すということは、
ファフニールはアウトだったんだろう。むしろ何をやらかしたのか……。
今まで興味なさげな感じで話を聞いていたクロがボソリと呟いた。
『……広く……なってきた……』
『……ミカン。そろそろ警戒しておくぞ』
『おー』
「金鉱内の魔物は大人しい子ばかりだけど?」
……魔王。……俺達の警戒心を返せ。てか、先に言えよ!
「まあまあ。安全なんて保障はどこにもないんだから。
油断せず常に警戒することは悪い事ではないと思うよー?」
『……はあ……』
「それに大人しいと言っても、襲われたりすれば普通に攻撃してくるし」
『いや、そりゃそうだろう』
『それに、金鉱はともかく、山脈や大森林は
強力な魔物が徘徊してるよ。今の内に英気を養っておくことだねー』
『……』
……例えばだが、仮にヴァルハラナイトクラスの魔物を複数同時に
相手することになるとしたら?まず勝ち目はないだろう。
と、なればせめてこの金鉱内で体力や魔力はもちろん、
体調含めて色々と準備しておけ。と……そういうことなのだろうか。
金鉱を進むと、クリスタルゴーレムという水晶で出来たゴーレムが現れた。
しかし、魔王を一瞥し、その後俺達をジッと見つめた後に去っていった。
……一応パスされた、ということなのだろうか。
「金鉱で落盤とかがあると困る魔物もいるからね。整備員みたいなもんだよー」
『整備員……が必要な割に、魔物の気配や魔力がかなり希薄なんだが……』
「穴を掘って地下に潜んでいたり、小動物だったり、
或いは茸のような目立たない生物だったり、さっきのゴーレムだったり。
金鉱にはそんな目立つような魔物はいないねぇ」
『……ここは結構平和なんだな』
「平和かは分からないけど静かではあるかもね」
『しかしこれじゃあ飯は期待できそうにねえな』
「うーん。金鉱を抜けるまで我慢してもらうか……。
金鉱の小動物でも根こそぎ狩るか……。
それでも龍四匹とその他の腹は満たされるのかなあ?」
『やめとこう。金鉱内では獲物を狩っても仕方なさそうだ』
『仕方あるまい。龍種は一月程度飲まず食わずでも死にはしないしな』
雑談を交えながら金鉱内を進んでいく。
しかし、雪原といい相変わらず日差しがない。
時間も感覚頼りになるし長時間いると気が滅入りそうだ。
「お馬さんが暇そうだし、さっさと抜けようか」
『……そんな暇そうにしているように見えるのか?』
魔王とクロから頷かれた。龍達は特に人……
じゃない馬の表情はあまり分からないらしく、少し首を傾げていた。
いや、ミカンも傾げて……ぷるぷる震えているようにしか見えない。
「そうだなあ。じゃあ最短距離で行くよー。
途中でエルドラドに遭うけどまあ、無視してくれれば何もないから」
『エルドラド……ああ、金鉱の守護者だか何だかだったか』
「うん。まあ見たら驚くかもしれないけどねー」
魔王がクックッと笑いながら先へと進む。嫌な反応だ。
とはいえ、魔王の歩くペースがかなり上がった。
流石に馬や、一歩の幅が大きい龍で追いつけないわけはないが、
魔王の奴、ワザと遅く歩いていたのか?
……だが質問する気にはならない。面倒な事になりそうだしな。
しばらく歩いていると、段々金鉱の天井が上がり、
空間的な広がりを感じるようになった。
そして、その広がりの先に、一匹の魔物がいた。
その魔物は、全身が黄金でコーティングされた機械の魔物だった。
今は活動している様子がなく、ただ岩に腰を下ろして座り込んでいるように見える。
『……魔王。……まさかこれが……』
『そう。金鉱の主……"エルドラド"だよ』
エルドラドは俺達が近くに来ても動く様子はない。
皆がその横を興味深そうに通り過ぎていく様、俺はコッソリ"鑑定"を飛ばした。
【鑑定が遮断されました】
それは予想の範囲内だった。だが次の瞬間だった。
【鑑定が察知されました】
『……!』
俺は、鈍く赤色に輝く電子的な一つ目に睨まれていた。
今まで閉じていた瞳からは、何とも言えない威圧感を放っていた。
『……申し訳ない。つい、興味本位でやってしまった』
俺は魔王達に感じ取られない程度の念話をエルドラドに飛ばして謝罪した。
エルドラドは反応を返すことはなく、ジッと俺を見つめ続けていた。
自業自得とはいえ、居心地悪くなった俺は
足早にエルドラドのいる広めの空間を去っていった。
やがて金鉱を抜けたところで、魔王が小声で俺に話しかけてきた。
「君。エルドラドを"鑑定"しようとしたでしょ~?」
『……』
「気を付けなよ。"鑑定遮断"で鑑定を弾かれることもあれば、
"鑑定察知"というスキルによって鑑定した相手を逆探知する者だっている」
『……勉強になったよ』
「鑑定は敵対行動と取られることもある。
すぐに謝罪したおかげで君は要注意人物で済んだねー」
『……それは良かったのか?』
「エルドラドに即刻排除されるよりはマシだと思うけど?」
『…………そうだな』
どうやら忠告しに来たらしい。俺の鑑定や念話に気付いていたわけか……。
流石に魔王というだけはあるようだ。
それに、正直エルドラドは、全く未知数の相手だった。
戦っても勝てる構図も浮かばない。
魔力を全く感じ取れないのは機械故だからだろうか?
いや、ガード恐竜ロボットからは微量だが魔力を感じ取れる。
すなわち、エルドラドは何らかのジャミング、隠蔽機能があるのだろう。
気配も魔力も実力も感じ取れない相手と戦うのは、正直無理だ。
『……はぁ』
魔王の言う通り、本当に俺は命拾いしたのかもしれない。
迂闊に何でもかんでも鑑定するもんじゃないと、反省しながら俺はそう思った。
「さあ。ここからは山脈地帯だよ!……もう日暮れだけど」
『……今夜はここで休むとしようか』
フラードは苦笑しながら言った。
『……ミカン。明日も頑張ろうな』
『ん~?……うん!』
俺達はこうして、山脈の入り口で一晩を過ごすのであった……。




