第9話 目玉を抉る
フラードに絡みつかれてから少し経つと、
フラードは俺から離れ、俺をジッと見つめて……。
少し考える様子を見せると、俺に話しかける。
『……ふむ。アスは鑑定が使えるのか。
うむ?ランクの割には随分と能力が高いな?……な、なに?転生者だと!?』
ちょっ。コイツ何で俺のことを!?
問いただすと、少し落ち着いたのかフラードが教えてくれた。
『私の目は"神龍眼"というスキルになっていてな。
鑑定を妨害するスキルをもすり抜けてあらゆる情報を見ることができるのだ』
おいまて。何だそのチートスキル。
鑑定さんの存在意義を真っ向から否定してくるスキルだろ、それ。
……ん?鑑定を妨害するスキル?
(そういえば、フラードを鑑定しようとしたとき、
鑑定を遮断されたっていう表示が出たんだが)
『おやおや。
女子の情報を盗み読みしようという態度は感心せんぞ?』
あ、はい。てかやっぱり女の子なのね。声色とかから判断してたけど。
(そんなつもりじゃないよ。
ただ怪しい奴だったり危ない奴だといけないから鑑定しただけだ)
フラードはそれを聞くと少し呆れたようにしつつも教えてくれた。
『私には"鑑定遮断"という鑑定を不発させるスキルがあるのだ』
おいおい便利だな。俺も欲しいわそのスキル。
そしてフラードはその蛇の目。神龍眼だっけ?で俺を見つめている。
黄金色に輝く瞳がすごく奇麗だ。トパーズとかそういう宝石みたいだな。
『……ふむ。アスさえよければなのだが』
(何だ?)
『神龍眼ほどではないが、ある程度はその能力を再現した眼を
私の魔力で与えることはできるぞ。』
俺がフラードの眼に気を取られたことを気にしたのかそんな提案をしてくる。
(……どんなふうになるんだ?)
『見た目は私と同じように金の瞳になるな。性能は少し劣ってしまうが』
性能については仕方がないだろうと思った。
とはいえ、その効果は強力な物に違いない。
それに、せっかくのフラードの提案を蹴るのも少し申し訳ないしな。
俺は提案を受けることにした。
(両目は……流石に怖いから、片目だけやってくれないか?)
『……ククク、元より今のお主では両目やると
魔力の変形に耐えられずに死んでしまうが?』
(カタメデオネガイシマスコノトオリ)
『ククク、相分かった。ではどちらか目をこちらに向けてくれ』
俺は言われるがまま左目をフラードに向ける。
すると、フラードは尻尾の鱗を一枚口で引き剥がし、
尻尾でそれを掴むと……。
『そおい』
ずぶしゃッ!!
「ッッッーーーーーー!!!!」
ぎぃやあああああああああああッ!!!!!
左目が!!左目があああ!!!!
左目になんか突っ込まれたアアア!!!めちゃくちゃ痛ェェェェェ!!
その後も左目から、
グチャッグチャッ バキキッ。……とやばい音が響くが
やがて、左目に入ったものを引き抜かれる。
俺は最初の進化以来久しく感じなかった激痛に悶えながら起き上がる。
というか左目から何か垂れてる感じがする。
半端なく気持ち悪い……。
【条件を満たしました。スキル「苦痛耐性:LV1」を獲得しました】
それどころじゃねええっ!!
左目を閉じたまま痛みを堪えながら右目でフラードを睨む。
(……はぁ……はぁ……。フラード……これは、いったい……どういうつもりだ……?)
『……すまん。説明不足だったな。久しく"龍眼"を作ったものだから
つい浮かれてしまっていたようだ……』
フラードは割と本気で反省しているらしい。
名付けの影響かフラードの心情が何故かよく理解できた。
ということは逆の見方をすれば、俺の怒りもフラードに
よく伝わっている、ということになるだろうが。
そのままフラードは申し訳なさげに説明を始める。
『……アスの左目を一度潰し、
そこに私の魔力を練り込んだ鱗を刺し込み、
私の魔法で魔力を適合させた後に"龍眼"として左目を再構築させたのだ』
(……つまり。)
『……アス。左目を開けてみよ。きっと違う世界が見えるだろう』
俺はそう言われて、恐る恐る左目を開く。
まだ左目は痛むが、ちゃんと視界が開けた。
それも暗い隠し部屋の中なのに、かなりクリアだ。
俺の様子が少し落ち着いたことに安堵したらしいフラードが話し続ける。
『その左目の龍眼であれば、
鑑定遮断を解除した今の私を見ることもできるだろう』
そうなのか。と思っていると、
身体の認識がようやく追いついたのか、頭に情報が響く。
【条件を満たしました。ユニークスキル「龍眼」を獲得しました】
ユニークスキル?というワード。聞き覚えのない単語だ。
俺は一度ユニークスキルについて鑑定する。
「ユニークスキル」
通常のスキルと異なる効果を持つ、特殊なスキル。
多くは種族特性や、進化などで獲得したものである。
ふむ。多くの場合は種族特性や進化で得る特殊なスキル…か。
龍眼はフラードの眼球移植?いや、創造?なのだろうか?
まあ、特殊なのには変わりないか。
まあ、それはさておき。龍眼を使ってみたいな。
(フラード。試しに龍眼で見ていいか?)
『……う、うむ。良いぞ』
フラードが少し恥ずかしそうに返事をする。
……この、龍眼という眼、使い方は何となく分かる。
俺は左目の龍眼に魔力を流して、フラードを見つめた。