第85話 魔王の勧誘
『……それは何だ?俺に、お前の手下になれってことか?』
「冗談じゃない。神龍や神馬が仲間にいる奴に手下になれとは言えないよ。
万一、反逆されたらボクはともかく、ボクの配下達がただじゃすまないからね」
『……じゃあなんだ?』
「これは、相互対等の契約だよ。いやむしろこちらが譲歩しても良いくらいだ」
『その理由は?』
「ハッキリ言えば、神獣二体に、神獣の卵一体。数多の古代兵器。
そして、龍族丸ごと一つが味方になる。これを逃す手はない」
『……貴様、私の同胞を尖兵に使うつもりか……?』
フラードが魔王を強く睨みつけながら問う。
「いや。……何も、勇者と戦えとは言わないよ。そもそも勝てないだろうし」
『……』
『……なあ……勇者って、一体なんなんだ?
今代は知らないが、かつては神龍……フラードよりも強い奴もいた。
……勇者とは、何だ?』
「……勇者。それは、人族の希望であり、魔物達の絶望だ。
魔物に蹂躙される凡人を守るために、異界から招かれる人間。
……それが勇者だ」
『勇者は、所謂転生、あるいは転移を通してこの世界に現れるのだ……』
フラードが忌々しげに呟いた。
「あえて勇者に役割を与えるなら、魔物が人族を狩りすぎないように
しておくための抑止力、というところかな?
……人間の神獣と考えれば、その能力の程も分かると思うけどー?」
『……人間の……神獣……』
「そう。だから少なくともSSランククラスの魔物でないと相手にならない」
『……ムチャクチャだな、おい』
「うん。ホントデタラメだと思うよ。とーこーろーがー!
お馬さんには、あの機械や龍王、それに神獣がいる!」
『…………』
「クク。別に戦わせるつもりはないよ。それはボクらの役割だからね。
ただ、予備戦力として、是非とも引き入れておきたいなって、ね?」
『……チッ。……さっき、譲歩すると言ったな?どう譲歩するつもりだ?』
アスの呪龍眼が魔王を映し出す。魔王はニヤリと笑みを浮かべた。
「まず、魔力と素材の提供。君は空島で色々な兵器を生み出せる。
その材料とエネルギーを提供しよう」
『……本気で言っているのか?』
「ああ。それから、ボクら魔王軍の本拠地にも案内しよう。当然だけど」
『……本拠地……』
「うん。人間達の伝承では、"幻の大地"と呼ばれている場所だ」
『……なるほどな。ブラント大陸を越えた、霧の海の先か』
「あらら、詳しいー。空島って、そこまで調べ付いてたんだ」
『……』
「……ま、この島のかつての主はハイエルフのようだし、仕方ないか」
『……ハイエルフ?』
「うん。エルフという亜人の中でも、さらに優れたエルフ。
悠久に近い時を生き、圧倒的な魔力を誇る存在。それがハイエルフだ」
『……それが、この空島の前マスターだと?』
「そうだね。しかも恐らくずっと空島に住んでいたんだろうね。
起源文字は遥か昔に初代勇者が広めたものだから……。
その頃から生きていても、ハイエルフなら別に不思議ではない」
『…………ハァ。話が壮大すぎてついていけん』
「ただ、幾らハイエルフでも、この空島の兵器は流石に作り出せない。
……恐らく、初代勇者が、機械の設計に関わってるんじゃないかな?」
『……なるほど、暗号にもなるし、
日本語でやり取りするのは、勇者とハイエルフにとって都合が良かったのか……』
「……まあ、そうだろうね。転生者、転移者が後に現れると踏んで、
文字を残しておいたんだろう。そして龍に島の都市が滅ぼされた時、
自分だけ生き残ったことを悟った、
ハイエルフもまた、島の人々の後を追ったんじゃないかなあ」
『……そうか』
「少し逸れてしまったね。まあザックリ言えば、
君達が望むことはある程度何でも叶えてあげるつもりなんだ。
決して悪い話ではないだろう?」
『……フラードやクロは、どうだ?』
『……私は、龍達に無茶を言わないのであれば、どちらでもいい。
……ただ、勇者には借りがある。私はこのまま引き下がるつもりはない』
『……私は……興味はない……けど……。
……あなたがやるなら……。……ついていく、よ?』
……フラードは、どちらかと言えば賛成で、クロは俺に委ねるつもりのようだ。
『……お前は、死んだ奴を生き返らせることはできるか?』
「……突然とんでもないことを聞いてくるね?……因みに、それは不可能だ。
形はどうあれ一度生を全うした者を生き返らせることはできない」
『……そうか…………』
「……そうだねぇ。今のボクらに出来ることの限界は……うーん……。
…………君に、人の姿を取り戻させることが、精一杯かなぁ?例えば、だけどー」
『…………俺の身体を今更、か?』
「厳密には、一時的にその馬の肉体を人型に作り替えるんだけどねー」
『……"変化"か』
「うん。ご名答」
変化のスキルは、様々な制限があるが、
自身の姿を変えることができるスキルだ。
……そうか。変化があれば、一応は人の姿も取れるだろうな。
……その仮初の姿に、意味があるのかは分からないが。本当に今更だし。
『他は?』
「戦闘訓練。君はまだその身体を上手く扱えていないからね。
心のどこかで自分が人間だという思いがあるからこその弊害だね。
まあ、その思いが無ければ、ちょっと頭が回るだけのただの魔物だけど……」
『……』
「まあ、その身体が君に馴染めば、もっとやりようがあるよ。
龍の身体能力と魔力、飛行能力に加えて、馬の速度。
微量とはいえ、神力も扱えるんだから……もしかしたら勇者に匹敵するかもね?」
『……だから、俺を神獣の卵と言うんだな?……買い被りすぎだ』
「そうかい?ボクは、そうは思わないけど?
一年もしない内に、Sランクにまで昇り詰めてるんだから」
『パワーレベリングもいいところだ。格上には俺の力は通じない』
「その辺は、今からでもどうとでもなるって。
ボクは、お馬さんのこと、そんなに低くはみれないよ?」
『……魔王が、か?』
「うん。うん!他でもない、魔王エデンが一目置いてるんだから、
もっと誇っていいんじゃないかな!」
『……言葉巧みな奴だな』
「いえいえ、お代官様ほどでは」
『……それ、今使う言葉じゃないぞ』
「え?違うの?」
『違う。……というか、どうやって知ったんだ?その言葉』
「初代魔王は転移者でした」
『……サラッと、爆弾発言するの……止めてくれないか?』
アスは深く、溜息を吐いた。魔王はケラケラと笑っている。
間違いなくコイツは、自分の反応で遊んでいるな。と思った。
「ま、転生者、転移者は皆勇者ってわけじゃないしね」
『……それも、そうか』
「あとは……残りの神龍の居場所を教える、くらいかな」
その言葉を聞いたフラードが魔王を食い気味に見つめた。
『……お前……それを最初に言うべきだろ……』
「アッハハハ。ごめんごめん~」
『……コイツ……いや……もう、いい』
「……さて、アスくん。……ボクの提案、受ける気になったかい?」
『…………受けてやるよ。どうせ、フラードの力の解放以外に、
やることもないしな。……そうだな。暇潰しだ。遊びだな』
「おおぅ……遊び……そうか遊びかぁ……。魔王最大の大仕事を……。
元とはいえ、同じ人間を大虐殺するかもしれない仕事への誘いを……
遊び……暇つぶしだったかぁ……」
「もしかして、提案する相手を誤ったか?」と魔王は小声で呟いた。
……この姿になってから、
耳もかなり良くなったらしく、バッチリ聞こえていたが。
シャングリラもそれに気付いていたようで、
申し訳なさそうに俺をチラリと見て、軽く頭を下げた。
俺も釣られて会釈した時、外から念話が響いてきた。
『あのー!お取込み中すいませーん!』
ミスリルが外から声をかけてくる。何かあったか?
『どうした?』
『外に、何か、来てるんですよ!なんか、燃えてる大きな鳥がッ!』
『……それって……?』
『……神鳥フェニックスのことか?』
俺はフラードと顔を見合わせた。
そして、全員で外の様子を見に行くのだった……。




