第84話 魔王が語る世界の仕組み
「さて、本題に入る前に君の状態について話そうか」
『……』
アスは、フラードやクロと共に、
例の白亜の家で魔王の話を聞くことにした。
魔王の隣には、色白で金髪の女性……人化したシャングリラが座っていた。
「申し訳ございません。魔王様のわがままにお付き合いくださって」
『……いや。……いい』
アスはシャングリラにそう返して、魔王を見つめた。
「君はそうだね……人間にやられた後の意識がなかった、そう言ったね?」
『……ああ』
「厳密には意識を乗っ取られていたんだよ。君の中に蠢く、神龍に」
『……私……の、祟神……か……?』
フラードは、眉を顰めさせながら静かに口にした。
「そうだね。今は、人間を虐殺してスッキリしてるみたいだね。
僕も幾分君の魂を修正しておいたから、今はそれほど左眼も問題なく扱える」
『……今は?』
「そう。今は。……それはあくまで一時的な処置に過ぎない。
君はこれから先、定期的に……人を殺さなくてはいけない」
『……なッ……』
「そうだな……数ヶ月に一度、最低一人は殺さないと、
呪力が表に出始めるかな?そうなると記憶が噛み合わなくなったり、
突然意識を失ったり、頭で考えていることとは、
違う行動を身体がしたりするかもね?」
『……随分と具体的な例を出してくれるな……』
「クックク。その方が、分かりやすいだろうー?」
『……ああクソ。名実ともに、殺人馬……凶馬ってワケかよ……』
いつの間にか自分の称号にあった、"人族の殺戮者"や"凶馬"の称号。
それが、決して飾りではないことを
知ったアスは、何とも言い難い気分になった。
『……まぁ、もう、良い。……どうせ、人には戻れないだろうからな』
「……随分と諦めの早い…………」
『……俺のことはもう良いだろう。さっさと本題に入れ』
苛立ちを隠そうともせず、アスは声を凄ませて言った。
「やれやれ……。じゃ、そうさせてもらうよ……」
魔王はそう言って、わざとらしく咳き込み、声を整えて、言った。
「単刀直入に言えば、だ。我々"魔王軍"は近々、人類を討滅する」
『……は?』
『……そう……』
『……む、もう、そんな時期なのか……』
アス、クロ、フラードは三者三様の反応を見せた。
アスは、クロとフラードがこの話を知っていることに気付き、尋ねた。
『どういうことだ?具体的な説明をしてくれ』
『……魔王は、何万年毎、という単位で、魔物を率いて人類を脅かすのだ』
『……その……理由は……数の……増えやすい……
人族の……人数調整……と……。……この世界に……魔力を……還元する……ため……』
『……もう少し、詳しく説明してくれないか?』
「ボクや先代達もそうだけど。魔王は魔物を統べる王だ。
同時に、世界の管理者である神の代行者である神獣の一体でもある」
『……世界の管理者である、神の、代行者?』
「……神龍、君まだ説明してなかったのか?」
『……う、あ……いや……神馬の名を受けたことの
責任を果たすようには、以前伝えた……』
「そんなんで、分かるわけないでしょーがよ。説明下手か。
頭四つもあるのに、その多頭は飾りかよー……」
魔王が呆れたように答えた。
フラードの豆腐メンタルがかなりのダメージを負った。
「……ふう。まぁ、もう良いや。
神獣という、神力を行使できる特別な魔物がいる。
君はそれは知っているよね?」
『……ああ』
「その中でも特に、"Gランク"と割り振られた神獣は、
この世界の神である、邪神様達の代わりに、この世界のバランスを保つ、
神の代行者たる役割が与えられるんだ」
『……G……ランク…………。……確かどこかで……。……そうかッ!』
アスは、かつてフラード……神龍と、
初めて出会ったあの洞窟のことを思い出した。
そして、フラードを鑑定したときだ。
ランクの所には、Gと表示されていたはずだ。
以前、フラードにGランクについて聞いた時も、はぐらかされた覚えがある。
結局、そのまま忙しくて忘れていたが……。
そうか、そういうことだったのか……。
『この世界の真理に触れる内容だから、はぐらかさざるを得なかった。
……そういうことなんだな、フラード』
『……ああ……。……そう、だ……』
フラードは力なく俯いて、答えた。
「クック。神龍はまあ、神獣の中じゃかなり真面目だし、
感情に左右されやすい質の子だ。そう責めないでやってくれ」
「魔王様。そういうあなたは子供っぽいところがあります」
「うるさいシャングリラ」
シャングリラのツッコミを受け流した魔王は話し続ける。
「そういうわけで、そんな神の代行者である神獣の代表者が、
こうして魔王を名乗るわけだね……。魔王になることで、ある能力を得るけど、
その代わり、人族を討滅する使命を背負うことになる」
『……そう、なのか』
アスは、自分よりも小柄な、普通の成人男性ほどの身長しかない、
魔王の姿が、何だか大きく見えてくるような気がした。
「人族は、とにかく数が増えやすい。なんせ人間と亜人。
これぜーんぶ、ひとくくりで人族って言うからね」
『……そうなのか。……しかし、人間と亜人、具体的には何が違うんだ?』
「ん?一番弱いけど数が増えやすいのが人間。
亜人は人間よりは増えにくいけど、
身体能力や魔力の面で優れているのがって感じかな」
『……なるほど、微妙には違うが、結局はどれも人間か、それに近いのか』
「そうだね」
「私達は、そんな人族を滅ぼすことを粛清の刻と呼んでいるのですよ」
シャングリラが補足した。
「何分、人が増えると魔物も動物も根こそぎ狩られるし、
世界の資源も根こそぎ採掘されるし、それこそ資源や土地を巡って
世界規模の戦争になりかねない。そうなる前に、
人間達に魔王という共通の敵を作らせて、
その度人間を処理して、世界の均衡を保ってきた」
「生物は死ぬと、その能力は世界に還り、世界のエネルギーになるのです。
そのエネルギーが、世界のバランスを保つのですよ」
「そして、そのエネルギーが魔力という形で、
こうしてボクらにも循環し、恵みを与えてくれているんだ」
『……へぇ……魔力のルーツを、ここで知ることになるとはな……』
「さらに生命には、魔力を増幅させる力があるんだ。
だから、強い生命体ほど死んだとき、膨大なエネルギーを
世界に還してくれる。つまるところ……。
それを分かりやすくしたのがレベルであり、スキルなんだよ」
魔王が以前夢で口にした、「だてにこの世界を運営していない」は、
ハッタリでも何でもなかったことに密かに驚きつつも、
アスはふと浮かんだ興味を、魔王に尋ねてみた。
「……因みに、俺が死ぬとどのくらいのエネルギーなんだ?」
「今の君なら、並みの人族が一万人死んで、同じかどうかってところかな?」
『……何か、そう言われると、人を一万人減らした方が得な気がしてくるが……』
「生命体の格を上げるのは、簡単なことじゃないからね……」
魔王がしみじみと呟いた。
「さて、この世界と、神獣の役割についてはこんなところか。
……ちょっと脇にそれ過ぎたかもね。今度こそちゃんと本題!」
『まだ、話があるのか……』
アスは露骨にゲンナリした。
しかし魔王はそれを気にすることもなく、声高々と言い放った。
「お馬さん!魔王軍の一員として、粛清の刻に参加してみないかい?」
『…………ハアアアッ!!?』
今日一番の、驚愕の声が、白亜の家に響くのであった……。




