第83話 魔王との邂逅
『ぅ……う……ん……?』
「やあ。気分はどうだい?」
『……あぅ……う……お前は……』
アスは目を凝らして、その顔を見つめた。
「やだ。そんなに見られると照れるなぁ」
『……げぇっ魔王』
「その反応はないと思うんだけど」
ジャーンジャーンジャーン。と、どこからか聞こえてきそうな反応だった。
『……すまん』
アスは謝罪しつつ起き上がった。
『……ん?妙に周りの景色がよく見える……』
「それは君が大きくなったのと、左目を普通に使えてるから、だね」
『えッ……?』
アスは、自身が左眼を開いていても、
何も体調に変化がないことに気付き、驚いた。
「君の身体が、闇属性の適性を得たのもあるし。ボクが細工したのもあるし。
君の中の神龍の魂に、祟神の呪力を溶かしたのもあるし……」
『え、え?どういうことだよ?』
「……はぁ。まあ、周りを見てごらん」
「えっ……?」
魔王に促され、辺りを見渡す。
すると、かつては一国の首都であった都市が、
瓦礫と死体の山に成り果てていた。
さらに見れば、ガード恐竜ロボットやキラーアントフライ達が、
あまりいない。相当な数がいたはずなのに。
龍達はどこか、俺を見る目が痛い。
クロは、無表情で。
フラードは、ここに在らずというような、念話をかけても返答が曖昧だった。
それは半分眠っていたからであるのだが。
そして、その隣には光輝く巨龍が、俺を注視していた。
『おうまさん。おかえり』
『お、おかえり?……た、ただいま?』
何故ミカンにおかえりと言われたのか、分からなかったが、
とりあえずただいまと返答してみる。
「うん。彼はもう大丈夫。魂の綻びも補修したし」
『……というか、お前何でここに……?』
周りの魔物達に何か伝えていた魔王に問う。
「いやー。君達の様子を見てたらね、何か凄いことになってたし。
特に君がね。でもこれはちょっと不味いねーって思ったので、来ましたー!」
『いや、分かんねえよ』
アスは溜息をついた。
『……俺は、人間達にやられた後の記憶がないんだが。
何があったのかを詳しく説明してくれよ。頼むから……』
『……分かった……』
クロがアスへ説明を始めた。
それを見届けた龍王が結晶を解除し、咆哮をあげた。
『うおッ!?なんだ!?』
『気にするな。我が同胞達へ知らせるためのものだ』
龍王はアスへ説明すると、再び咆哮をあげた。
しかし、昆虫達やクロは首を傾げた。
『……何も……聞こえ……ない……』
『え?そうか?「龍達よ!復権の時だ!」って叫んでるけどあの龍』
『……聞こえるの?』
『ああ』
クロは龍王を見つめた。視線に気付いた龍王が、答えた。
『彼は、龍の特徴を持った馬……と言えるような魔物になったからでしょう。
私の今の声は、竜や龍にしか、聞こえませんから』
『……なる……ほど……』
『え?龍?……って、何だこれッ!?』
アスは自分の身体を見て……赤黒い色合いの鱗に覆われていることに驚いた。
さらに翼を見てみると、龍種のようにゴツゴツとした……。
一部分に僅かに、蒼い羽が名残のように残っている……。
赤黒い翼を見つめて……叫んだ。
『な、ななな、なななん……何じゃこりゃーーーッッ!!?』
『……やっと。自分の現状を……把握……したの?』
「……どうもそうっぽいね」
『えッ。何コレ?よく考えたら……クロ、小さくなった?』
『……あなたが……大きくなった』
改めてクロはアスに説明した。
アスの赤黒い鱗に覆われた顔が、今度は蒼白になっていく。
そして、アスは前脚、後脚を奇麗に折りたたんで、
皆の前で頭を地面に叩きつけた。所謂、土下座である。
『すまない!皆!本当にッ!謝って許して貰えるとは思っていないが!!
謝罪させてくれ……!俺の気が、済まない……いやもう、それすら自己満足だよな。
何でも言ってくれ、死ねというなら死んだっていい』
『『それはダメ(だ)!!』』
クロとフラードがストップをかけた。フラードはどうやら目を覚ましたようだ。
『お前が死んだら、私も死んでしまうではないかッ!』
『あなたが死んだら……私も消される。……生きて』
『……えぇ……?めっちゃ個人的な事情……』
『……我々は、神龍がそう望むのなら、口を挟むことはないのう』
アビスの呟きで、龍達は頷いた。……お前らそれでいいのか。
『……我らは、既に命をアス殿に預けた身。
アス殿ノ手で死ぬのナラ、それもまた本望』
「……こやつらは、そういう意味でも戦闘狂じゃ」
ハイパーホーンに運ばれていたヤマヒメが苦笑気味に答えた。
『我々ハ、アス様ノオ役ニタツコトヲ命令サレテイマス。
将軍モ、アス様ノ攻撃デ死シタコト、
誇リニハ思ッテモ、恨ムコトハ、ナイデショウ』
生き残っていたキラーアントフライや、アントマジシャンが相槌を打った。
『……ジェネラルアント…………』
『将軍ハ、名誉ノ死ヲ遂ゲラレタノデス。気ニ病ム必要ハアリマセン』
『……』
魔物達は、人とは感性が違う。分かってるつもりだ。
だけど、それに甘えてちゃ……ダメだよな……。
『……一度、戻ろう。……空島に』
『……ああ。そうだな……』
消滅した帝都に残ったのは、瓦礫と幾ばくかの死体。
そして、濃密な魔力だけであった……。
そして、帝都郊外の、辛うじて被害を免れた森の中では。
「……はぁ、はぁ……はぁ……ゴホッ……」
「……大丈夫か?」
「……はぁ。……少し休めば……はぁ……大丈夫……ですから……」
「……これほどまでとはな」
「王よ。これからどうする?」
「……国境に早急に兵を集め、各国に早馬を出す。
癪だが、かの魔物達の危機を煽り、同調させる」
「記録用の魔道具は、壊れていないしな」
「……まずは、最寄の街に行くぞ。そこで体勢を立て直す」
魔術師の女の転移で、辛うじて帝都から脱出した彼らは……。
後に周辺の都市が、既に壊滅していることを知り、
苦虫を嚙み潰したような顔をすることになるのだった……。
一方で、空島へ戻った彼らは。
「ふうん。ここが空島かあー」
『……ああ。……っていうかなんでいるんだ』
「えぇ?折角だし観光でもしようかなーと」
『アンタ、自分の乗って来た龍放置でいいのか……?』
「ああ、"シャングリラ"のこと?いいのいいの。彼女、口煩いからさ……」
『誰が口煩いですって?』
後方から声がして、振り向けば……魔王が乗っていた
白金色の龍が空島の前に佇んでいた。……帝都から空島まで、
少し離れているのだが、もう追いついてきたのか……?
「うわ、もう追いついてきたのか……。しまったな。
一番速度の遅い"ホウライ"に乗ってきた方が良かったかな……」
『魔王様。ホウライはそもそも飛べません。
そんな事より、魔王ともあろう方が
こんなところにフラフラと行かれては困ります』
「あーもう、分かってるよ」
『いいえ、分かっていません!そもそも魔王様に何かあったら、
後で周りから袋叩きにあうのは私なんですからねッ!』
『……アンタ、帰った方が良いんじゃないか?』
「うわー、そういうこと言っちゃうんだー。へー?
暴走したお馬さんの修正をしたのはどこの誰だっけー?」
『知らん』
「うわっ。真顔で言われた。酷すぎない?」
『私に振らないでください』
『……お前ら、喧嘩するなら帰ってくれない?』
アスはシャングリラという龍と、揉め始めた魔王を無視して歩き出した。
それにならって、クロや、大きさを縮めたフラード達が続いていく。
「ちょ!置いて行くってのはないでしょォー!」
『こらこらー!帰りますよーッ!』
後ろを見れば、シャングリラが光魔法で魔王を拘束していた。
しかし魔王は拘束されながらも前進している。
『まーおーうーさーまーァーッ!』
「シャングリラちゃーん!一生って程のお願いでもないから!
離してくれよッ。何、話せば分かるって!」
『ダーメーでーすー!』
「粛清の刻に関わる大事な話をしたいんだよー!」
『……ヘッ?』
シャングリラが、その言葉で一瞬、拘束を緩めてしまった瞬間だった。
「……ふう。まあ、少しお話しようじゃないか?ねえ、アスくん……」
『……』
魔王は、アスの目の前へといつの間にか回り込んでいるのであった……。




