第77話 結界
「……そうか」
皇帝は、帝都に起こっている事態の報告を聞き、顔を顰めた。
「王よ。どうするつもりだ」
「……」
皇帝の傍に控える男が砕けた口調ながらも真剣な声色で問う。
「……護帝将を出す」
「いいのか?俺達はいざという時、王の懐剣となる者だぞ」
「国を失えば、王の地位に意味はない」
「それもそうか」と、皇帝に返した男が頭をポリポリと掻いた。
「俺は一応、王の身辺にいなきゃなんねえ」
「……今護帝将は何人いる?」
「俺を除くと、三人だな」
「……すぐに出撃させろ」
「分かった」
男は特定の人物に連絡を飛ばせる魔道具を持ち出し、指示を出した。
それから、程なくして帝都の状況が変化し始める。
「オラァッ!」
「ギガッ……」
「……"灼熱"ッ!」
ガード恐竜ロボット達が瞬く間に倒されていく。
蹂躙する側から、される側へと変わったのだ。
「ギギィッ!」
「おっとォ!」
ガギィン、と金属同士がぶつかる音が響く。
高い能力と数による暴力を展開していたガード恐竜ロボット達が、
たった三人の人間に次々と倒されていく。
『……ふむ』
空島から、ガード恐竜ロボット達の様子を見ていた者……。
アスは、その様子を見て少し驚いていた。
『盾役、魔導士、そして槍術士……ってところか?
……ガード恐竜ロボットを貫く槍……アダマンタイトか……オリハルコン製か?』
『……感心してる……場合……なの……?』
クロは、呑気に考察をしているアスに疑問をぶつけた。
『放っておいてもそのうち元に戻る。完全に粉々にされない限りは……、
まぁでも、やられっぱなしは癪だよな。ウィズダム!』
『ハイ』
『防衛システムOS1.0をアップデートする。OS2.0を実行せよ!』
『承知シマシタ……システムアップデート……。
……アップデートガ完了シマシタ。
防衛機ノ戦闘能力、スキルノ効果上限ヲ引キ上ゲマシタ』
『よし……』
アス達が、地上の光景を映すウィズダムのモニターを見ると、
攻撃力、耐久力、スピード、スキル効果、再生速度に至るまで
あらゆる基礎能力が格段に向上したガード恐竜ロボット達が動き始めていた。
機械の独特のハイライトのない仮初の眼球が、仄かに赤く発光している。
そして、その強化は、先ほどまで猛威を
振るっていた三人組の反撃速度を完全に殺した。
「グッ、コイツラ、急に攻撃が重……それに、速い……!』
「「「ギギギギギ……ガガガ……ハ……イ……ジョ、スル!!」」」
「わ、私の魔法でも……先ほどよりも
明らかに多く撃ち込んでいるのに……耐えてきます……ッ!」
「さっきまでは、本気じゃなかったってわけか!
お前ら、へばるなよッ!」
「「当然ッ!!」」
アスは、ガード恐竜ロボット達の能力を引き上げたが、
それでもなお彼らはたった三人で戦況を膠着状態に持ち込ませた。
『……思っていた以上にやるな……これ以上は時間をかけたくないんだが』
アスは、驚き半分苛立ち半分で呟いた。
『あの三人が奮闘したことで、各地で孤立している騎士や
冒険者の負担を減らしつつ、士気の上昇も図れているな……。
奴らを仕留めない限りは、この戦線は崩れないだろうな』
フラードは淡々と複数の頭で考察し、出した結論を述べた。
『……それも……無駄……だけどね……』
帝都には、複数の影が迫りつつあった。
『……ここですね』
ミスリルは、アスに指示された位置に辿り着き、地面から這い出てくる。
銀色の金属ボディが陽の光に反射し、眩しく輝いている。
『ダマスカスさんと、ヒヒイロカネさんも、定位置に着いたようですね』
他の龍が定位置に着いたことを確認したミスリルは、
体内の魔力を圧縮しつつ、大きく息を吸い込んでいく。
その息を限界まで貯め込んだ後、全身のミスリルが一層輝くと
同時に強大な魔力の潮流が口内から溢れだす。
『ガアァァァッッ!!』
"息吹"が放たれる。それは三方向から放たれ、
一直線に帝都のある建物へと向けて伸びていく。
その建物は、ずばり王城。しかし、三方向からの息吹は
王城を目前にして、壁のような何かに阻まれ、掻き消された。
『これが、アスさんの言っていた"結界"ですか』
ミスリルは目を細めた。
あの結界は、王城を包むようにドーム状に展開されており、
普段は透明で見えないが、攻撃を受けると薄っすら見えるらしい。
そこまでなら「ふ~ん」で流せたが、しかし、その後
アスから受けた説明は、思わず顔から表情が消え無表情になるものだった。
『あの結界の魔力は、やはり
"龍王ドラギエナ"から抽出しているものらしい』
ミスリルの、いやミスリル以外の龍達にも、暗い怒りの感情が宿る。
龍種は、別に仲間想いというわけではない。
一匹一匹が非常に能力が高く、それゆえ我が強い。
そのためむしろ折り合いが悪くなることの方が多い。
しかし龍王となると話が変わってくる。
龍王は、龍種を創造した神である龍神が、直接生み出した
神龍が、唯一一匹の龍にだけ、名乗ることを許す特別な称号なのだ。
そして、龍王は個性豊かな龍種を龍神、神龍に代わり治めるのだ。
神龍のお墨付き、という龍種にのみ伝わる、圧倒的カリスマ性と、
龍王に継承される特別な魔法と共に。
故に、龍王に危害を加えるものが何であれ、龍たちは強い反感を覚える。
それは、もはや遺伝子レベルで刻まれた、本能のようなモノだった。
『ガァァァァッ!!』
先ほどよりも、より威力を込めた息吹、しかしそれでも結界は割れない。
仮にも龍種の頂点である龍王の魔力である。
一介の龍の息吹では、砕けないか。
ミスリルは歯ぎしりをした。
銀色のミスリルの歯がギリギリと音を立てる。
しかし、そこに三つの空駆ける大きな影が現れる。
それは、帝都からも、王城からも見えていた。
「おいおいおいおい。……王よ、これはちょいとヤバいんじゃねぇか?」
「……」
帝都に飛来した三つの影。そして、その影の背から、
次々と小型の魔物達が飛び立っていく。
「ふむぅ。これは中々壮観じゃなぁ。ところでアスはどこにおるのじゃ?」
『どーせ空島で、マロ達のことをガン見してるマロ。キモイマロ』
影の背に乗っている二匹の魔物……。
グレッシャースライムと、ヤマヒメが会話を交わす。
『お前ら、いつまでもそこにいたら邪魔だ』
影……火龍レッカに促され、グレッシャーとヤマヒメは、
ガード恐竜ロボット達と人間達の混戦により、
騒音と血が飛び交う帝都へと降り立った。
「ふむ。……ここからどうするのじゃ?」
『アスの作戦によれば……』
『結界をぶち抜く』
グレッシャーの言葉を繋げる形で、転移で地上に降り立った、
アスが答える。
『久しぶりだな、ヤマヒメ』
「うむうむ。達者そうで何よりだ」
『それと、その様子だと……今回の話を受けてくれたみたいだな』
アスは空を飛び交う、昆虫族……特にカブト虫一族を見ながら答える。
「うむ、カブト虫の一族はお主に
会いたいと言うので連れてきた。クク、慕われておるな」
『ありがたいことだよ……さて』
ヤマヒメと少し会話している間に、
火龍レッカ、海龍アビス、闇龍クライが、魔鉱龍達の隙間を埋めるように
さらに三方向に、空中に浮かびながら佇んだ。
『フラード』
『ああ』
そして、城を見据えた正面。そこには……。
変化を解いて現状なれる最大の大きさに戻ったフラードが
城を包む結界を、複数の首で睨みつけていた……。
※魔物解説
・魔鉱龍ミスリル
Sランク。ドラゴン系の魔物。
地竜、または地龍と呼ばれる龍種が、魔法金属の一種である、
"ミスリル"を多量に取り込んで、異常進化した結果誕生する龍種。
基本的な生態は地龍と同様で、地下を移動し、鉱石等を食料にする。
ただし、定期的に体内にたまる不純物をミスリル鉱石を精製する形で
放出しないと、身体に悪影響が起こる。
因みに、水属性と風属性の適性(才能)を持たない地龍が
ミスリルを多量に摂取すると、魔鉱龍に進化するどころか、
最悪の場合魔法金属を体内で処理できず死に至る可能性もある。
比較的温厚だが、龍種らしく圧倒的な能力を誇る。
また、身体の殆どがミスリルに覆われているか、
ミスリルで出来ているため 物理、魔法系ともに高い耐性を持つ。
ただし、それは魔鉱龍全般に共通する。
また、水と風の属性には、さらなる耐性を持つ。
他にも、ミスリル精製の応用で、ミスリルを弾丸のように撃ちだしたり、
ミスリルの壁を創り出したりすることも可能ではある。
総じて防御能力が高い龍種と言える。
その希少さから、人間からは実験対象、権力の象徴、
動く金山、等様々な目的で狙われ続けている。
アス達といる魔鉱龍ミスリルは、比較的若い個体で、
それ以前に魔鉱龍ミスリルという龍の存在が
人間達の間で確認されたのは今からおよそ300年前であるという。




