第75話 開戦の仕込み
お話の最後の方に、魔物解説を付けてみました。
まぁ、「ふーん」と流してくれて構いません(笑)
「……ここか。ミレーヌの反応が途絶えたのは」
「はい。この地点で殺されたか。
それか探知出来ないような特殊な場所、
或いは離れた場所にいるかと思いますが……。
この二つは考えにくいと思います」
「周辺をくまなく探せ。だが決して単独行動はするな。
敵はかなり強力な……それも気配等の遮断にも
長けた魔物の可能性も高い」
「「「はい!」」」
人間達が数人のグループを作り、それぞれの方向へと分かれた。
一人残った男が溜息を吐く。
「……アイツらに、この先には行かせられないな」
男はぶっきらぼうに地面に付いた蹄の跡をなぞった。
「……馬型の魔物は最低でもCランクはある。
しかしこの足跡の大きさ……恐らくBランク……」
Bランクの魔物。ある程度高難易度のダンジョンや、
辺境、魔境と呼ばれる地では特別高ランクな訳では無い。
ところが、帝都近郊はせいぜい、高くても
Dランクの魔物が最高ランクだ。
強大な魔物が闊歩するような危険な土地が、
都として発展出来るかと考えれば、その理由も分かるだろう。
冒険者の仕事も、魔物退治よりは
日雇いの雑事の方が圧倒的に多い。
そのために冒険者が中々育たないのが、
頭の痛い問題である……話が逸れたな、
と男は思いながら、足跡を見つめた。
「途中で消えていることを考えれば、ペガサスが妥当か?」
ペガサスと言えば、Aランクに相当するという馬の魔物だ。
魔物としては穏やかな性格とされるが、
若い個体は気性が激しい。
水と風、そして光の属性を持ち、飛行能力に長けた厄介な魔物だ。
……実際の場合、アスは新種のペガサスであり、
上記に加え雷属性も加わるが。
また、足跡が途切れているのは、
ウィズダムで転移したからであり、別に飛んだわけではない。
男が足跡を辿り、予測し移動していく。すると……。
「……何だこれは」
森に抉れたような窪みが出来ており、
そこに水が溢れるほど浸かっていた。
「……まさか、本当にペガサスなのか……?
だとしたら、これは何なのだ……?」
男はその光景を見て、頭を捻るのだった。
そして、空島の一角。
急遽建造された檻の中に、一人の人間が入れられていた。
『……そうか』
アスは人間がやって来たこと。
そしてミカン達が気絶させ、捕縛したこと。
この人間はとりあえず急造した檻に入れた。
ミスリル製なのでこの人間に破ることは出来ないだろう。
それよりも、この人間が戻ってこないことを
不審に思って大規模に調査されては堪らない。
そこで入口を縦に深くし、ミスリルで地下に蓋をした。
その後、水で入口を埋め立てた。
多少は時間を稼げると良いのだが……。
中にはガード恐竜ロボットのティラノサウルス型、
トリケラトプス型、ラプトル型が混在している。
プテラノドン型は飛べるから地下に仕込む必要は無い。
『もう少し情報を持っていないか?』
『……無理……洗脳しても……
知らない事には……答えられない……』
クロが闇魔法で先程この人間の精神を乗っ取り、
色々口を割らせた。
その結果、この人間が冒険者ギルドの
受付嬢という立ち位置だと分かった。
おかげでギルドの機構や帝都支部、
その周辺の内情を把握出来たのは収穫だった。
帝都周辺には高ランクの冒険者がいない。
これだけでも随分動きやすくなる。
しかしまぁ、後半になるほどめぼしい情報は無くなり……。
好きな食べ物やギルドマスターの癖とか、
ぶっちゃければどうでもいいような事も
言い出した辺りで洗脳をやめた。無意味だと思ったので。
『あの場所の様子はどうだ、ウィズダム』
『ハイ。現在成人男性一名ガ調査ヲ行ッテイルヨウデス』
『そうか。早いな……冒険者なのか?』
『冒険者ギルド帝都支部、ギルドマスターノヨウデス』
『……ギルドマスターだと?』
『ハイ』
『……強いのか?』
『人間トシテハ』
『……じゃ、まあいいか』
アスの人間の評価は、「知恵が周り、
経験や知識は厄介ではあるが、単独では
大した能力を持たない」というものである。
仮にこのギルドマスターが水の中のミスリルの蓋を
発見出来ても、一人で破壊するのは難しいだろう。
また、水を出すのにも多少は時間をかけるだろう。
そして、ミスリルの蓋を取り払ったところで、
Aランククラスの魔物に匹敵し、"自動修復"を持つ
ガード恐竜ロボット達になぶり殺しに会うだけ。
そう判断したアスはギルドマスターから
興味を失い、別のものを見据えた。
『そうだ。その人間は返してやれ。
ここに至るまでの記憶を飛ばしてからな』
『……分かった……』
これでこの人間の介抱や事情聴取なりでもう少し
ギルドを後手に回らせられるだろう。
これ以上は無理だろうが。
『さて……』
アスは、火龍レッカ、海龍アビス、闇龍クライを呼んだ。
アスの作戦を聞き、三匹は空島を離れた。
続いて、魔鉱龍ミスリル、ヒヒイロカネが呼ばれる。
『……ん?ダマスカス?どうしたんだ?』
『いや、何、痛みは取れたので、
良ければ手を貸そうと思って……』
『病み上がりだろ。無理はしなくても……』
『そうはいかない。獣人達に追われてから、
助けられてばかりだ。……俺を使ってくれ』
『……分かったよ。でも無理はするなよ?
不味いようならすぐにミスリルや
ヒヒイロカネに助けを求めろよ?』
『分かった。そうしよう』
アスの作戦を受けたミスリル、ヒヒイロカネ、
ダマスカスがウィズダムの転移で空島を離れた。
『さて、ジェネラルアント』
『ハッ。何時でも!』
ジェネラルアントの背後には、
羽を生やしたキラーアント……
"キラーアントフライ"が無数にいた。
彼らは蟻族空中強襲部隊である。
ジェネラルアントが指揮官の大部隊だ。
『他の昆虫族達もそろそろ戻る頃だ。
それまで、悪いが時間を稼いでくれ』
『ハッ!』
ジェネラルアントが敬礼し、
キラーアントフライ達がジェネラルアントや、
アントマジシャンを乗せて、空島を飛び立った。
『……』
『……どうしたのだ、アスよ』
アスが指示を飛ばしていた様を眺めていた
フラードが、アスに声をかけた。
『……帝都に龍王がいる。それはあの国の問題だ。
だから、国の上層部を潰すことに問題は無い。
ただ……無関係で無力な一般の人間を、
なるべく巻き込みたくはない……』
『それは理想論だ。敵地でそんな
気を遣っていては、命が幾つあっても足りん』
『分かっている。……腹を括るか……』
『……』
『……もう俺は"元人間"じゃない。
……人間の知識と、感性を持った……魔物だ』
『…………アス……』
『……行くぞ』
『……ああ……』
二頭のペガサスと、一匹の多頭龍。
ここに、一国と魔物達の戦いの幕が
切って落とされるのだった……。
*魔物解説
・ガード恐竜ロボット
モデルとなっている恐竜によってランクに幅があるものの、
基本的に魔物ランクはAランクに相当する。
空島のマザーコンピュータを防衛するために
設計、量産された防衛システムの尖兵。
空島防衛システムのリミッターによって
強さのセーブを行っており、
防衛システムOS1.0においてはLV30相当、
ステータスは各10000前後。
OS2.0においてはLV50相当、
各ステータスは約16000ほど。
OS3.0によってリミッターが外され、
LV75相当のステータスとなる。
数値で言えば各23500前後となり、
並の魔物や冒険者よりも遥かに強い。
ただし、ラプトル型のみ、15、25、35という上昇である。
これは、ラプトル型の魔物ランクが
Cランク程であるためである。
また、当然だがラプトル型はステータスも低い。
全身がミスリル、オリハルコン等の
魔法金属の合金で出来ている、機械系の魔物。
基本的にその操縦は空島のマザーコンピュータである
"ウィズダム"のコントロールか、または自動操縦になっている。
魔法金属のボディであるため、軽く、硬く、時に重くなる。
その上物理だけでなく、魔法等の属性攻撃にも高い耐性を持つ。
攻撃性が高いティラノサウルス型、
盾の飾りによる防御型のトリケラトプス型、
飛行能力を持ち、雷、風の魔法も扱うプテラノドン型、
戦闘力は低いが小柄で隠密性に長け、
毒などを持つラプトル型の四種類が存在する。
当たり前だが機械なので痛みで怯むこともなければ、
状態異常にもならないので、搦手は通じない。
その上、ウィズダムの"付与"スキルにより、
破壊されても自動的に修復し、再活動する事が出来る、
"自動修復"のスキルを各機体が有しており、
敵に対して、人海戦術と無限復活による
消耗戦を押し付けられる。
アスは、この機能を「アンデットよりアンデットしている」
と評価している。




