第73話 それぞれの思惑
最近、妙な情報が入った。それも眉唾物ばかりの
不確実な噂のようなものばかりだ。
曰く、何処かの国の都市が龍に攻め滅ぼされた。
曰く、天変地異の前触れとも思える強大な魔力が放たれ、
その影響で魔物の活動が活発になっている。
曰く、伝説に伝わる魔王が、動き出したのではないか?と。
「はぁ……」
一体、何処からここまで話が飛躍するのか。男は思わずため息をついた。
この男こそ、現アルベリオン帝国皇帝とされる男である。
最近、帝都近辺に関する妙な噂もよく聞く。
噂は所詮噂だと最初は報告を聞いても、
特に気にすることはなかった。だが、最近はそうでもない。
帝都はもちろん、地方に至るまで最近魔物の動きが活発になっているという。
ダンジョンについてはあまり目立った変化は見られないものの、油断はできない。
また、最近帝都と、その周辺都市等の近隣の地域で見慣れない
魔物の発見報告が数件入ってきている。
こういうものは本来なら冒険者ギルド管轄の話なのだろうが……。
どうにも報告を聞くと引っかかる。
その姿は遠巻きに見ると、ティラノサウルスやラプトルといった
恐竜の魔物に見えるらしい。……全身が、銀色に輝いている、という点を除くと。
しかし、その魔物が冒険者に気付いても、
襲い掛かったという報告は聞いていない。
単純に温厚な性格の魔物だろうか?
……いや、それは希望的観測というものだろう。
魔物には確かに臆病だったり、温厚な性格のものはいる。
しかし、大抵は自身より弱いと見るやたちまち襲い掛かる
狂暴なものばかりだ。残念ながら帝都の冒険者は一部を除き
冒険者の質としてはそれほど高くない。
強力な魔物が闊歩するような所に都市など築けないからだ。
所謂開拓地のような辺境ならばともかく。
「騎士は冒険者ほど魔物退治の専門でもないしなぁ」
冒険者上がりの騎士はいるが、そんなものは少数だ。
皇帝は、現状警戒の引き締めを命じるに甘んじた。
……世の中には、それではどうにもならない事もあるのだが。
一方……人里離れた火山の奥では……。
『ちょっ……崩れるッ!マジで崩れるッ!!』
ゴゴゴゴゴ、と地響きを響かせながら火山が崩落していく。
『ひぃーッ!やってられるか!退避だ退避ッ!』
アスは叫びながら空中へと逃れる。それと同時に起こった。
ドオオオオオオンンンッッッ……!!
『ヒィィィィィ噴火しやがったァァァァッ!!』
アスは柄にもなく全速力で逃げ出す。いくらステータスがあっても
"火耐性"のスキルも無いのに火山の噴火に巻き込まれたら死んでしまう!
凄まじい熱を感じ、後方を見れば……火山弾ッ!
『ウッソでしょォォォッ!!?』
弾丸の如く飛んでくる岩を必死に避けつつがむしゃらに逃げ続ける。
「「「「グオオオオオオーーーーッッ!!!」」」」
強烈な咆哮と共に、闇の魔力が四方に解き放たれる。
『どわあああああぁぁぁぁッッ!!?』
猛烈な勢いで放たれたソレにアスはあっさり吹き飛ばされてしまった。
『む?……スマン。少し強く撃ち過ぎたようだ』
噴火の勢いすら掻き消す強烈な息吹。否。
火山が半分、消し飛んでいた。
流れる溶岩を煩わしそうに顔を顰めつつ、その龍は這い上がる。
『ゼェハーッ。ゼェハーッ。……ゲホッゲホッ……。
いくら何でもちょっと、やりすぎだろ……』
白い身体がすっかり汚れたアスが、
息を切らしながらフラフラと戻って来ながら呟いた。
『スマンな。どうにも、同化すると一度元の大きさに戻ってしまう……らしい!』
ポンッ。と音を立てながら龍の姿が光り、小さくなった。
『……ついに、四つ目だな。フラード』
『うむ。……これで半分だ』
『やっと半分か、それとももう半分なのか……』
『私がアスと会ってからまだ一年も経っておらん。相当早いとは思うが』
『……そうか……。で、フラード』
『うん?』
『……これ。どうするつもりだ』
『…………』
アスとフラードの後方には、半分ほど吹き飛んで、溶岩があちこちから
溢れ流れる、変わり果てた火山の姿があった。
『火山を住処にしていた魔物達も逃げ出してる始末だ。どうするんだよおい』
『『『『…………』』』』
四つ首フラードは、一斉に顔を逸らした。
『……ああ、そうですか。……どうにもならないんだな。神龍さんよぉ……』
アスは深く溜息を吐くのだった。
それと同時刻。ある場所では一人の男が魔物を屠った。
「……チッ。呆気ねぇ。この程度じゃ足しにもならねぇ」
既に息絶えた魔物から得物を抜き取る。
魔物は瞬く間に干からびて、そのまま塵になり、消えた。
「もっと力のある奴じゃねえとな……。
あの時の魔力は間違いなく神獣の魔力だった。
……さて、どこにいやがるのか。
時間がねぇ。このままだとこの時代も……」
静かに溜息を吐き、男は得物を肩に担いだ後、
そのまま何処へと消えた。
ヒュゥゥゥゥ……。
ヒュォォォォオオ…………。
凍てつくような冷気が立ち篭める。
大地は雪に沈み、水は氷塊と化した、一面白銀の大陸。
暗雲に包まれ、吹雪が薙ぎ払い、
生き物の影も形も見えないこの大陸。
ブ、ブゥン。
ガシャァンッと、音が響いた。
『…………』
蠢く"ソレ"は、瞬く間に吹雪の中に消えたのだった。
一方、この魔物。全身氷塊のようになっており、
氷柱を飛ばすことも出来る魔物。
グレッシャースライムと呼ばれる魔物である。
グレッシャースライムは、ハイパーホーンを始めとした
昆虫族長達を連れてある場所を訪れていた。
『……久しいな』
「おや……随分懐かしい顔が揃っておるのう」
『そちらもお変わりないようで何より、と言っておくマロ』
「そうか。それで、此度は何用じゃ?」
『手を借りたい』
「……詳しく、話を聞こう」
グレッシャー達は、建物の中へと消えた。
『……なんで、俺達がこんなことを……』
『仕方ないですよぉ~……アダマンタイトさんは、子育てがありますから……』
魔鉱龍ヒヒイロカネとミスリル。この二匹は、
グチグチ愚痴をこぼしながら活動していた。
『おっさんの奴、「俺はアビスとクライに会いに行ってくるから頼んだぞ」
とか言って、こんな面倒事を押し付けやがって……』
二匹は文句を言いながら、"掘削"スキルで穴を広げていく。
周りには大勢のキラーアント達が黙々と働いている。
見習ってほしいものである。
『おーい!あたらしいのがーきたよー!』
『ゲッ、もう来たのかよ!これじゃすぐに満杯になっちまうぜ……』
「「「ギギギ……ギギギ……ギア……」」」
ヒヒイロカネは溜息を吐きながらミカンが運んできたソレらを見つめる。
全身がミスリルやオリハルコン等の魔法金属で、
高ランクの魔石も使われているという機械。
そう、これは空島の地下にあった"ガード恐竜ロボット"達だ。
ヒヒイロカネ達はこのガード恐竜ロボットを隠す場所を作るために
ひたすら地下を掘削し続けていたのだ。
『アスさんの目的が分からないですね。龍や神獣なるやばいのもいるのに、
とっとと正面から滅ぼした方が早いんじゃないんですかねー』
『って、言われてもな。まあ、でも理由があってこういうことをやるんだろ。
……ところでそこの蟻、アンタ理由知らねえか?』
『ハァ。申し訳ありまセン。私共モ詳しくは……女王様ならばご存知カト』
ジェネラルアントはこの場にいないクイーンアントの名前を挙げた。
つまり、この場にはこの作戦の目的が不明の奴しかいないのか……。
と、ヒヒイロカネは思い至った辺りで、考えることをやめた。
魔物の社会は超超、実力社会である。力のある奴がトップで然るべきである。
……のだが、肝心のトップである神獣、龍種がアスにある程度従っているので
キラーアント始め昆虫族もアスに従っているという、どこか奇妙な階層構造だ。
そもそも、異種族が乱立して出来ている魔物の群れ、という時点でかなり歪だが。
元人間で、その感性があるためにグローバルな感覚で接しているアスは
そんなことはまるで気にしたことはないのである。
トップが気にしていないのなら、我々が気にすることはない。
魔物達は今日も平和に敵地で工作作業をしていたのであった。




