第60話 魔鉱龍を捜索しよう その3
★Side:フラード
冒険者ギルド。そこには冒険者と呼ばれる、
魔物退治専門の傭兵とも言えるような者達が闊歩する。
フラードは、そんなギルドのとある一室へと通され、
その部屋にある柔らかなソファに腰掛けていた。
向かいには、引き締まってよく鍛えられているのが
分かる身体付きの中年の男がいた。
「自己紹介からいこうか。俺はフリッツ。
辺境都市"ハミダシ"のギルドのマスターをやっている」
「私はフラードとでも呼べばいい」
フラードはギルドの職員が添えた茶を飲みながら
平坦な声で答えた。
「単刀直入に聞こう。まずあのミスリル鉱石は
どこから手に入れた?」
「魔鉱龍から得た物、と言ったら信じるか?」
嘘ではない。今回たまたま、魔鉱龍ミスリルが時折創り出す
ミスリル鉱石を金替わりにと持ってきただけである。
「魔鉱龍……。アダマンタイトといい、
その希少さから多くの人間の標的にされるが、
討伐例は少ない魔物だ。その魔鉱龍から得ただと?
しかも話によるとお前が腰に下げている
その銀の袋から出したらしいじゃねーか。
両腕でやっと抱え込める大きさだ。
普通その袋には入り切らねえだろ。魔道具か?」
「そうらしい」
正確にはアスが知らぬ間にウィズダムのスキル
"付与"を使い、"容量拡張"の効果を付与していたのだ。
その効果で見た目に反してかなりの容量がある。
高純度のミスリルの袋なので、
魔道具の触媒としての価値は相当高い。
なので容量拡張の他にも"時間遅延"や"腐食防止"、
"自動洗浄"等の便利機能まで付いているのだ。
なのでその価値はというと……。
「……はあ。マジックバッグの類かよ。容量や
付与された効果次第じゃ国宝級の価値がある代物だぞ。
……お前、本当に何者なんだよ」
「さて。それを答える必要は無いな」
「……まあな。そりゃ、秘密にしたいだろうよ」
「ああ。めんどくせえ奴が来たもんだ」と
フリッツは愚痴をこぼした。
「お前、確か廃鉱山に行きたいんだったか?」
「廃鉱山に用があるわけではない。
魔鉱龍アダマンタイトが目的だ」
「ああ。魔鉱龍狙いで来たのか。ランク最底辺だけど」
「ランク等、所詮目安だろう。
高ランクの魔物でさえ人間に狩られることもあるのだからな」
「まあな。確かにランクはそういう意味では目安だろうよ。
その点お前は、本物だな……。
そのモヤシみたいな細腕の内にどれほどの力を秘めている?
……お前みたいなのを、化け物っていうんだろうな」
「化け物か……案外、そうかもな」
しかし、そのフラードの呟きは、フリッツには届かなかった。
ギルドの職員が叫びながら部屋に入って来たためである。
「ギ、ギルマス!大変です!!」
「あ?どした。こっちは今少し立て込んでんだよ」
「それどころじゃありませんよ!魔物暴走が発生したんです!!」
「な、何だとッ!?」
フリッツは思わず立ち上がった。そんな火急の情報、
今の今まで一切聞いていない。つまり……、
突発的に……急に起こった、ということだ。
「発生元は?」
恐らく、郊外に出ていた冒険者が魔物の群れを
発見したのだろう。あまりにも時間が無いが、
すぐに情報を集めて対処しなければならない。
ギルドマスターであるフリッツの元、
冒険者が緊急招集され、都市には避難勧告が起きる。
フリッツは、いつの間にか姿を消した一人の少女のことが
すっかり頭から抜けてしまっていた……。
★Side:クロ
魔鉱龍ダマスカスは逃げていた。
自身に傷を追わせるほどの強敵から。
ダマスカス自身、龍種という観点で見れば
飛び抜けて強い魔物ではない。
ただ全身を覆う魔法金属のおかげで
同レベルの龍種を遥かに上回る防御力はあった。
しかしながら、ダマスカスは適わなかった。
人間というのは、知恵を使う。道具を使う。
ダマスカスと対峙した相手は、龍種にダメージを与えやすい
特殊な武器を用意してきていたのだ。
そもそも魔鉱龍は戦闘慣れしておらず、どちらかと言えば
地下等でひっそりと暮らす人畜無害な面が強い。
なので敵が来たら抵抗はするが、敵わなければすぐに逃げる。
…………ダマスカスは逃げることも許されなかった。
「グルル……ッ」
「……はぁ。はぁ、やっと追いついた」
「魔鉱龍ダマスカス……悪いが、捕まってもらうぞ」
息を切らせながら、ダマスカスを取り囲む数人の男女。
よく見ればその頭には、猫や兎のような耳が生えている。
毛深いのか顔がモジャモジャの犬耳の男もいる。
(……獣人……?……)
クロとハイパーホーンらは、ダマスカスとそれを取り囲む
獣人達の姿を木々の隙間から覗き見ていた。
クロは、獣人がいることからここはアニマ大陸なのだろうと
推測する。人間至上のヒューマ大陸では獣人なんて
真っ先に奴隷かなんかに落とされるからだ。
彼らの装備を見るに、相当に腕が立つのだろう。
魔鉱龍ダマスカスが重症なのを考えれば、後ろにいる
B、Cランクの昆虫さんでは厳しいだろうとクロは判断した。
『……行って……来る……』
クロはハイパーホーン、バーサクワガタに告げる。
ハイパーホーンらも、彼らとの実力差を感じ取っていたので
今回はクロの実力を測るつもりで傍観に徹することにした。
クロが小さく嘶きながら飛び出る。
人間に比べ五感に優れた獣人はすぐにクロの存在に気付いた。
クロは獣人達を飛び越えて、ダマスカスの目の前へと着地する。
『……ダマスカスだね……?』
「!……グルルゥッ!」
ダマスカスは弱々しいが精一杯に威嚇した。
クロは静かに闇魔法を発動する。
『"擬似治療"』
ダマスカスの身体に漆黒の霧が纒わり付く。
傷口が霧によって塞がっていく。
苦痛が消えたことで目を見開き、驚いた様子で
ダマスカスはクロを見つめた。
『……一時的に……苦痛や流血を……感じない。
でも……後から……余計に痛くなる……から』
ダマスカスはその説明で表情が固まった。
「闇の救いには……対価が必要……」とクロは一蹴した。
ダマスカスは内心「悪魔!」と思い、クロを睨んだ。
「"閃光斬"ッ!」
「!」
その間に犬耳モジャモジャの獣人が剣を素早く振り抜き、
クロへと斬りかかった。ご丁寧に剣術スキル付きだ。
だがクロはそれを冷静に見切り、僅かに身体を逸らして躱す。
「……チッ、速ェ」
クロと獣人達、そしてヒロインと化した
ダマスカスの戦いが幕を開けようとしていた。
★Side:アス
『あー、腹減ったなぁ』
『おなかがグー。さいしょはぐー?』
『ああ、そうだな。最初はグー。ジャンケンポンだ』
アスは魔鉱龍ヒヒイロカネが潜むという火山の中を
ミカンとともに進んでいた。
……何故かジャンケンをしながら。
ジャンケンと言っても彼らには手がないので念話で
イメージだけを飛ばす変わったジャンケンだ。
何となく暇潰しで始めたがミカンが事の他のめり込み、
アスは空腹に悩みながらジャンケンの相手をしていた。
『『最初はグー、ジャンケン……』』
『チョキ!』
『ぱー!』
『俺の勝ちだな』
『ぱー!ぱー!』
『ミカン、さっきからパーしか出さないじゃないか。
グーとかチョキは出さないのか?』
『ぱー!……ぐー?ちょき?』
『そうそう。グーとチョキ』
『ぐー!』
そう叫ぶとミカンの身体の一部が鋭利な
針状になり、それが伸びた。
ついでのようにその伸びた針に貫かれ、絶命する
"マグマスライム"と呼ばれるスライム。
身体がマグマで出来ており、普通であればとても
触れるような魔物ではないが、"火耐性:LV10"を
持ち、しかもどうやら針を"超硬質化"のスキルで
金属のように強固にして、マグマスライムを貫いたようだ。
ミカンがすごく褒めて欲しそうにしてたので褒めた。
すごい。すごいよ?でもさ。……ジャンケン、関係なくない?
マグマスライムの魔石をミカンから貰いながら、そう思った。
……ヒヒイロカネのいる横穴まで、まだ遠いなぁ。
俺はマグマスライムの魔石を噛み砕き、気合いを入れ直したのだった……。




