第56話 望まぬ春の来訪
とりあえず空島に戻り、ミカンを虫族達や
ミスリルらに紹介し、当分様子を見ることにした。
グレッシャースライムはミカンのスライムボディに
興味があるようだが、ミカンはまだ幼いからか
妙に高いテンションにたじろいでいる。
『ミカンは、どうやら馴染めそうだな』
キラーアントやスモールバタフライ等と
戯れているミカンを眺めながら呟いた。
敵味方の分別は付くし、悪い事をした時、
注意して自覚させればキチンと謝る。
褒められれば笑顔を浮かべ、悲しければ泣き出す。
ミカンは何とも純粋な奴だな、と思った。
虫族の長達はミカンを見て怯えた表情を浮かべている。
まぁ、放つ魔力の質が違うからな……。
能力的にも俺やミスリルともいい勝負だ。
ミカンは善悪の区別分別の付けにくい
幼子のようなものだ。
育成にはそれなりに注意を払わなきゃいかんな。
それからミカンが馴染むまで、数日ほど様子を見た。
俺もたまには交流を育もうと思い、外に出歩いて
虫族達と談笑していた時だ。
不意に強力な魔力を感じ取った。
何故か、空島の外から。
しかも、空島……つまりこちらに向かって接近している。
その魔力は空島にいる者達も感じ取っていたらしく、
俺以外にもフラードやミスリル、グレッシャー、
ハイパーホーンやバーサクワガタ、そしてミカンが
一同に会し、接近している存在へと向かった。
『かなり強力な魔力だな……』
フラードが呟いた。この魔力はかなり強力だ。
最悪、ウィズダムの機能を使って
迎撃するのも吝かではないほどだ。
それから数分もしないうちにその正体が現れた。
『……黒い……ペガサス……?』
『……初めて見るな……』
フラードですら初めて見るらしい。
なら、"鑑定"は通るのか?龍眼に魔力を込めて視てみた。
【鑑定が遮断されました】
……最近、"鑑定遮断"持ち多くない?
これ一応ユニークスキル何だよね?
その辺どうなの?誰か教えてください。
思わずそんな悪態を心の中で吐いた。
黒いペガサスが空島に上陸し、俺達を見回した。
ハイパーホーン等は臨戦態勢だ。
すぐにでも攻撃しそうな雰囲気になっている。
フラードやミスリルは、このペガサスの魔力が
思った以上の強さなので警戒している。
ミカンはよく分かってなさそうだ。
まあ、ある意味その方がいいかも知れない。
黒いペガサスと目が合った。
…………。
………………。
……………………。
…………えーと……。
『…………何か用か?』
念話を振ってみた。黒いペガサスは首を捻り、
その後少し考える素振りを見せて、答えた。
『……貴方が……アス……?』
『……何で俺の名を知っている?』
俺は警戒心を高めた。しかし次のペガサスの発言は
無視出来ないものだった。
『……魔王から……聞いた……から……』
『…………魔王……だと?』
黒いペガサスはコクリと頷いた。
『……エデンの……おじさんから……
貴方が……何処にいるか……聞いた……』
『……魔王の手先か』
ペガサスが首を横に振った。
『……魔王は……知り合いってだけ……。
私は……やんごとなき方の……命令で……来た』
『……魔王も十分やんごとないだろ』
『……そう……かも……?』
…………何だコイツは。
何か、話しにくいというか。独特な感じがする。
『……で、そのやんごとなき方の命令ってのは?』
『……私……貴方に会うように……言われた……』
『俺にか?』
黒いペガサスが頷く。
『……私で……貴方の境遇の……罪滅ぼし……?らしい』
『……ちょっと待て、意味が分からん』
フラードら周りの者達もよく分かっていないようで、
顔に疑問の色が浮かんでいる。
『……貴方……この世界に……迷い込んだ。
人間なのに……馬になった……。
神龍に縛られた……その……罪滅ぼし』
フラードとミカンを除いた全員と目が合った。
その目は「え?人間?」「馬にされた?」「聞いてないよ」と
いった抗議の視線だ。そういえば俺も転生者だった事、
ハイパーホーン達に話してなかったな……。
まぁ、仮に話してもややこしい事になりそうだしな……。
そう、例えば今の状況のような……。
まあ、それはさておき、もう少し
このペガサスから話を聞いてみる。
『……で、罪滅ぼしってのは?』
『……私を……貰う』
『…………?』
『……つがいになる?……こと……らしい』
その瞬間、空気が凍った。気がした。
……え。つがい?つがいって……。
……アレだよね?人間で言うところの、夫婦。
夫と嫁。…………エエェェ?
『……あのーちょっと……よく分からない、
もとい分かりたくないんだが』
『……分からない?……教える……?』
『……違うそうじゃない。分かってる、分かってるよ。
でもね、分かりたくないんだ。そもそも急すぎるぞ?
いきなり会って、「夫婦になりましょう」って言って、
「はい、そうですか」と夫婦に成れるわけないだろ!』
『……私じゃ嫌……?』
『違うッ!そうじゃ、ねぇ!!
嫌かどうか以前に好きか嫌いかの判別も
つかないのに夫婦になるって、下手すると
人間の政略結婚よりも酷いぞッ!?』
『……そもそも、何故つがいになる事が罪滅ぼしなのだ?』
フラードさんが絞り出すような声で答えた。
お願いしますもう少し強く主張して下さい。
黒いペガサスが首を捻り、少し考えた後、答えた。
『……男は、女が好き。……だから?』
『答えになってないとお兄さん思うなッ!』
俺は全力で突っ込んだ。まるで
男には女あてがっときゃいいや、みたいなノリか!?
もしそうならかなり質悪いぞやんごとなき方ァッ!
フラードも「それは無いだろ……」という顔をしている。
そして俺は内心突っ込み続けて疲れた。
『……私……強いから……大丈夫。
色々……役に立つ……から……』
『……あー。出来ればまずそっちの方から
言って欲しかったかなぁー?』
この黒いペガサスが強いのは魔力を感じ取れば分かる。
恐らく今の俺が全力で戦っても勝てないだろう。
フラードや、ウィズダムでやっと
何とかなるのでは無いだろうか?
ただ、ここにいる者達の大半はそれを
理解しているのか、怪しい気がするが。
……主に、今までの話のせいで。
ミスリルなんて小声で、「アスさんに春が来たー」
とかほざいてる始末だ。後でシバく。
『……私、つがいに……ならないと……怒られる……』
『……だから、急にそんなこと言われてもだな……』
『……大丈夫……乱暴にしても……平気……!』
『ソレ何の話ッ!?乱暴ってなんだ乱暴って!』
『……アスよ』
『ヒッ……フ、フラードさん……?
ど、どうかしましたか?』
フラードから感じ取れる感情がやばい。
様々な感情が入り交じって形容し難い物になってる!
異形なる者になってる!アザトースしちゃう!?
『……つがいに、なるのか?』
『……エェ……?』
底冷えするような、冷えた声色で問われた。
俺は今、フラードの三つの頭と、黒いペガサスと、
その他大勢に視線を向けられている。
…………一言言わせて欲しい。
『……どうしてこうなった?』
いや、マジでどうしてこうなった。
俺は明後日の方向を見ながら、
深々と溜息を吐くのであった……。




