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第50話 心

『……頼む。……来ないで、くれ……』


『フ、フラード……俺は気にしてないから、さ。

そんなこと、言わないでくれよ……』


『ダメ……だ。わ、私は……私は……』


『ちょ、フラード!待ってくれ!』



 フラードは俺の静止も聞かずに走り去ってしまった。



『宜シイノデスカ?』



 ウィズダムが問いかけた。



『……いや。今、追いかけても逆効果だろう。

……そもそも、追いつけないだろうし』



 フラードが走り去って行った方向を見ながら返答する。


 まぁ、いくらフラードでも空島から飛び降りるなんて

 ことはしないだろう……多分。



『……はぁ。困ったな』



 そもそも何故俺とフラードがこんな状況になっているのか。

 ……まぁ、一言で言えばフラードがちょっと、

 気の迷いを起こしたっていうか……。


 死霊龍を倒し、黄色い龍の遺志を感じたあの後。


 フラードの魔力が凄まじい量を放ちながらも

 すぐにも壊れそうなほど不安定になっていた。


 そのまま龍の亡骸の前に双頭を叩きつけながら

 嗚咽まみれで懺悔と後悔の言葉を口にしていた様は、

 形容し難いものがあった。

 俺は、分かるというか、伝わってしまうのだ。


 後悔、悲しみ、憤り、自己嫌悪……。

 様々な感情が混ざり合っていた。


 フラードにとって、あの光景は……

 自分の存在を否定するに等しい光景だったのだろう。


 龍を護る。土地を浄化する。そういった役割が神龍にはあるらしい。


 だが結果はどうだろうか。

 龍を護れず、結果生み出された

 死霊龍が瘴気を生み出し、土地が汚染される。


 ハッキリ言えば真逆の結果と言えるだろう。

 加えて言えば、今のフラードは本来の力が戻っていない。


 天叢雲剣により、多少瘴気が薄れているが

 百年単位で汚染された土壌を浄化するにはどうも弱いらしい。


 ……フラードは、その現実を突き付けられて、

 心が折れてしまっている。


 彼女は、見た目とは程遠いほど繊細だ。

 あるいは、失敗慣れしていないとも言える。


 あの光景に映っていた、人間達が介入するまでは

 恐らく自身の役割を問題なくこなしていただろう。


 今まで出来ていたことが、出来ない。

 力を失った自身の情けなさ。護るべき対象に護られる弱さ。

 仲間を救えない愚かさ。役割を果たせない無念さ。


 ……そして、仲間を傷付けかけた、自身の醜さ。


 そんな負の感情に、フラードは押し潰されかけている。


 洞窟でひたすら懺悔し続けていたフラードの姿が見ていられなくて、

 どうにか励まそうと思って、俺はあの時声をかけた。



『……ッ!!お前に、何が分かるッッ!!』

 


 無意識だったのだろう。

 フラードは未だ解除していなかった天叢雲剣を

 気付いた時には俺に振りかぶっていた。


 死ぬ?


 恐らく今の俺では避けきれない。


 死霊龍すら両断する剣だ。助からないだろう。


 時が止まったかのような気分になった。


 だから、見えた。見えてしまった。


 その時のフラードの顔が……。


 今まで見せたことの無いほどの『絶望』に染まっていた。


 今更剣筋を変えること等出来ない。


 俺も避けられない。


 もうダメだ、と思った時だった。



『マスターノ生命危機ニ相当スル攻撃ヲ感知シマシタ。

プログラムニ基キ、防御ヲ実行シマス』



 ……ウィズダムが転移して現れ、

 俺へ向けられた剣を結界で弾き返したのだ。



『…………あ……。……あ、ああ……』



 カラカラン、と乾いた音を立ててフラードは剣を落とした。


 そして剣は薄れて消えていった。


 フラードは、震えていた。


 顔も、体も、精神すらも。



『違……こ、こんな……つもりじゃ……』



 フラードの宝石のような黄色の眼には、光が無かった。


 俺は気にしてないぞと、懸命に伝えたが

 フラードはとうとう聞き入れてくれず、そして現在に至る。



『……とりあえず、一旦出直すしかないか……』


『承知シマシタ。オ送リ致シマス』



 ウィズダムが転移を発動する。


 空間が歪み、洞窟内から一瞬で

 マザーコンピュータルームに戻った。



『……ウィズダム、ありがとな。

あの時フラードの剣を止めてくれなかったら、

俺は多分死んでた』


『マスターノオ役ニ立ツノガ務メデスカラ』


『反撃しなかったのも、ありがとう。

俺の意志も感じ取れるんだな』


『ハイ。念話ノ応用デス。

マタ、マスターガフラード様ヲ害スルコトヲ

望マレ無カッタノデ』


『……ありがとうな。優秀で助かるよ』



 さて……。フラードは、どこに行ったんだろう……。



************************************



 最悪だ。最低だ。

 私は……剣を、向けてしまった。


 友で、仲間で、私の命でもあるアスに……。


 いっそ、自害しようか。いや……それではアスも……。


 …………アスが死ぬことを、言い訳にしている様にも思える。


 ……私は、どうしてこんなに愚かなのだろう。


 剣を機械が止めてくれた後のアスの言葉にも

 私は素直になれなかった。当然だろう。


 結果的には、当たれば命を奪っていたから。


 そうなっていたら……私はあの世で、ようやく救われた

 リンコウにどう詫びれば良いのだ……?


 既に、思いつく限り詫び続けたのに自分で増やすなんて、

 ……そんな、馬鹿な話があるのか……?


 ……私の事だな。自嘲せざるを得ない。


 情けなくて。悲しくて。悔しくて。申し訳なくて。


 ……どれほど移動したのだろう。


 すっかり日は落ち、見覚えのない場所まで来てしまった。


 ……今日は、もう一匹で休もう……。


 ……アスに、合わせる顔がないが、詫びなければ。


 私は適当にその辺で寝ることにした。

 不用心だろうが、周辺に強い魔力は無いので構うまい。


 やりきれない思いを無理矢理抑えてどうにか眠りに着く。



 ……。


 …………。


 ……………………。


 ……?……あたた、かい?


 未だ眠気を感じながらもどうにか目を覚まし、

 とぐろの中から顔を出した。


 …………え……。



『……どうして』


『それはこっちのセリフだな』



 ……私の目の前には、アスがいた。いつの間に?

 アスほどの魔力なら、気付かないはずがない、のに。



『随分、疲れてたんだな。

俺が近付いても全く起き上がらなかったからな』



 そう、なのだろうか。

 視界がハッキリしてきて、よく見ると

 私はアスにまたがられているのがわかった。



『……何のつもりだ?』


『こうしたら、逃げないかなって思っただけだ』


『……夜這いみたいだぞ』


『……言うな』



 アスが返答しながら翼で私を包んだ。

 淡く、蒼い魔力の光が灯った翼だ。


 柔らかく、暖かい翼だ。


 羽の一本一本が魔力を帯びていて、

 まるで私の鱗のようだな、と何気無く思った。


 アスが、私に身体を乗せて預けた。



『重くないか?』


『……構わない』


『そうか』



 …………。



『……なぁ』


『どうかしたか?』


『……済まなかった。取り乱した、

では済まない……が。剣を、向けてしまって』


『……それくらい、大丈夫だって言ったろ。

お前の気持ちは、俺も良く分かる……

というか、伝わるからな』


『……それでもだ。

私は、今日ほど後悔した日は、無い』


『……フラードは、気負いすぎだと思うぞ』


『……』


『今出来ないことを無理にやったり、

無理にやってその後後悔するより、

力を付けて、出来ないことを出来るように

なった方が良いと思うんだ』


『……ああ、そうだ、な』


『……今は我慢するしかない。

でも、少しずつだけど前に進むことは出来る。

だから、気をしっかり持とう』


『……う、ん』



 私は、いつの間にか落ち着いていた。


 …………アス、だったら……私も……?



『どうした?』


『……いや、何でもない』



 私達は、そのまま寄り添い合って眠った。


 アスのおかげで、私は冷え切った

 心も身体も、少しずつ暖かくなっていった……。


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