第45話 予想だにしないモノ
『ふざけんなぁァァァ!!』
『!?な、何事だ!何があったのだ!』
『……ハッ。ゆ、夢……か?』
『……アス』
『あ、悪い。起こしちゃったか……』
怪訝そうな目線を向けるフラードを見て俺は慌ててフラードに謝った。
『……いや、もう朝のようだからちょうどいい』
『そ、そうか』
『それより、その頭にくっついたままの植物の葉は何だ?』
『え?』
フラードに指摘されて頭を振ると
頭から大きな葉っぱが一枚はらりと落ちてきた。
……えぇ……?
『ゆ、夢だけど夢じゃなかったァー!?』
『さっきから何を言っているのだ。夢とはどういう事だ?』
『……ああ、実はな……』
俺は夢の中で起こった出来事についてフラードに詳しく説明した。
『……ああ、そういうことか。……ということは、
その土産だと言われた葉もただの葉ではあるまい』
『そうなのか?』
試しに葉っぱを鑑定してみたが、なんと弾かれてしまった。マジかよ。
『……それは世界樹の葉だ』
『世界樹の葉?』
『世界樹とはこの世界にただ一本だけ存在する木だ。
見た目はただただ途方も無いほどの巨大な木だな。
その葉はその世界樹の葉なのだ』
『へぇ、世界に一本だけの木の葉っぱなんだな。
そう聞くとスゴい貴重な物に思えてきた……』
『実際とても貴重な物だ。その葉には
世界樹が取り込んだ膨大な量の魔力が蓄積されている。
その魔力が生命に絶大な活力をもたらす。つまり早い話が万病薬だ』
『何でそんな物がお土産何だよッ!?』
『……お前が会った男はそういう奴だ。
その世界樹の葉は文字通り幻の薬。
不治の病から死を待つのみとなる程の重症を受けたところからでも
たちまち全快するほどの効能がある。大切に持っておくと良いだろう』
『……今こんな大事なものを持ってはいられないぞ……』
『どこか、風に飛ばされなさそうなところに置いておくか?』
『……いいのかなあ、それで……』
『まあ、いいんじゃないか』
『……絶対良くないと思うぞ』
『では持ったまま行くしかあるまい』
『……手が欲しいなあ』
結局風魔法の風で葉っぱを包んで運ぶことになった。
いや、ほんと人間だった時にあった手がないのが悔やまれるな。
……馬に手があったら流石に気持ち悪いか。
『というかフラード。この葉っぱ渡した男の事、知っているのか?』
『ああ。知っている。何だ、聞かなかったのか?』
『聞けなかったんだよ。夢の中では』
『アスが出会ったのは恐らく魔王"エデン"だろう。
奴はこの世界の魔物を統べる王だ。故に魔王という』
『……魔王って、もっと禍々しいイメージがあるけどな』
『奴はそんな邪悪な存在ではないが。
魔物の王だが、感性は人間のソレだしな』
『……しかし、その魔王が何で貴重な世界樹の葉をくれたんだろうな』
『……さっき、世界樹は世界に一本しかない、と言ったな』
『ああ。そうだな』
『魔王エデンはそこにいる』
『……え?』
『魔王は、世界樹に住んでいるのだ』
『……マジですか』
『ああ。奴はそういう奴だ。
世界樹に住まい、この世界を見届けているのだ』
『……魔王っていうか、世界樹ってどこにあるんだろうな』
『それは流石に私にも分からん。
ただ、世界の果てのどこかにある楽園に生えている、と伝え聞くな』
『……現実味が薄いな』
『今度空から探してみたらどうだ』
『……それで見つかるなら、苦労はしないんだろうけどな』
その後、世界樹の葉を丁重に運びつつ、空島探索を再開する。
フラードの微弱な魔力を探知しながら進んでいる。
しかし……。
『村の次は……ここは、街か都市か……?』
『……ふむ。恐らくここは都市だろうな。
ここは街の果ての洞窟内にまで続いている巨大都市のようだな』
『……古代遺跡って奴か?』
『ああ、そうとも言えるだろうな』
俺達は移動しつつ廃墟の古代都市の見物する。
途中、巨大なクレーターのようなものを飛び越えた。
『……恐らく、あれは龍の息吹で出来たものだろう。
都市の中心が爆心地では……この都市が崩壊しても致し方あるまい』
フラードが浮かない顔で呟く。
……そういえば、夢の中で魔王……魔王なのかアイツ。
まあ、いいか。
その魔王が……神龍は龍族を見守る?導く?
……ちょっと記憶に自信がないけど、とにかく龍族の行いを
監視する役割があることは間違いないはずだ。
確かに上位の龍は普通の生物と比べても
かなり逸脱した高い能力を持っている。
その高い能力が無暗に振るわれることがないように、
神龍が圧倒的な力で抑えつけている……ってとこだろうか。
つまり、龍族の傍若無人な振舞いは、
神龍であるフラードにとっては
自身の役割を果たせていないということになる。
もし封印されていなかったら止められていたかもしれない。
あるいは……。
『フラード。あんまり気に病むなよ』
『……!……エデンめ、余計な事まで話したらしいな。…………』
俺が声をかけた後のフラードの思案顔は、
今度は別の何かに対して向けられているようにも見える。
ただ、何か深刻な悩みのようで、
ぐるぐると渦巻くような重い感情が伝わってくる。
『フラード……大丈夫か?』
『……ああ。大丈夫だ』
『……』
『……』
それっきり、会話が途絶えてしまった。
お互い無言のまま、先へと進み、
都市の奥にある洞窟のような場所へ足を踏み入れていく。
先へ進んでいくと、次第に何かの
パーツのようなモノが散らばり始めた。
そして、何か文字の掘られた巨大な扉の前に辿り着いた。
「…………!??」
ただ、俺はその扉に掘られた文字を見て……この世界に来て一番驚いた。
『……この文字は……何だ?……見たことがない文字だ』
「!?」
フラードのその発言が、俺に更なる追い撃ちをかけた。
『……フラード。この文字、知らないのか……?』
『……ああ。分からなかったので"鑑定"してみたが……。
起源文字というらしい。この世界の始まりの文字のようだ。
……流石に、この文字が存在した原初の時代には
私は生まれてはいないからな。……さて、どうしたものか』
起源文字……だと?……いやでも、この文字……。
どこから、どうみても……。
『……日本語、というか平仮名、片仮名、漢字にしか見えねぇ』
そう、それにしか見えないのだ。
不思議そうにフラードが尋ねてくる。
『にほんご……?アス。この文字が分かるのか?』
『ああ。この文字は、平仮名、片仮名、漢字の
三つの種類の文字を使って物事を表す文字だ。
そして、俺が人間だった時の……常用語だ』
『三つの種類の文字を使った文字か……複雑なのだな』
『……はあ。まさか、こんなところで出会うとは……。
感傷とか郷愁とかよりも驚きの方が勝るよ』
『……はは。読んでみたらどうだ』
『ああ。……"ここより先は空島の地下研究施設。
関係者以外の立ち入りを禁ずる。
また、職員は自動防衛システムに排除されないように
専用のバッジを装備すること"』
『……自動防衛システム、か』
『……どうやら、ここから先は戦いになりそうだな』
俺達は、お互いに頷いて、扉を開いて先へと進んでいく。
……まさか、こんなところで日本語に出会うとは……。
予想だにしなかった、な……。
そんなふうに思いながらさらに歩を進めていった……。




