閑話 邪神と女神
ちょっと短めですみません。
「……あーーーーーッ!クソックソッ!!」
一人の女性が声を荒げた。
長く煌びやかな金髪をなびかせ、天人を思わせる薄い羽衣を纏っている。
背中は大きく広がった白い翼を折りたたんでいる。
顔立ちは絶世の美女と言えるもの。……最も、怒りの形相で歪んでいるが。
彼女は女神"レクレス"。とある世界の神々の一人である。
そんな彼女が怒気とともに強大な神気を放っている。
それだけで彼女が住まう天界の館が崩壊した。
「ま、またですかーっ!?」と誰かが叫んでいるのが聞こえる。
「クソが!今度こそいけると思ったのに……」
女神が憤っている。彼女は口調はアレだがこれでも
彼女が管轄の世界の神々の中では上位神という立ち位置だ。
そんなブチ切れ女神に一人の来訪者が現れる。
「ッッッこんッのクソ女神がァァァァァァッッッ!!!」
「うげッ!?」
邪神のアッパーカット!会心の一撃!
「テ、メェ……邪神ハードワーク!」
「違うわ!!ハードシップだ!」
「どうでもいいわ!よくも殴ってくれたな!?
主神にも殴られたことないのに!!」
「自分より神格の高い神には敬称を付けんかァァァァッ!!」
邪神のボディブロー!ミス!攻撃が外れた!
「そう何度も喰らうかっつーの!ベロベロバー!」
「……」
邪神の闇属性のオーラが解放される。
それを察知した女神も光属性のオーラを解き放つ。
天界……神々が住まう天上の世界。
その世界の一角が阿鼻叫喚の世界となる。
上位神たる邪神と女神のエネルギーの余波だけで天界の
神殿に亀裂が走り、倒壊し、下位神は吹き飛ばされ、
中位神はどうにか踏ん張るのが精一杯で、神獣たちは狼狽した。
邪神ハードシップと女神レクレス。
二人がこうして争うことは別に珍しい事ではない。
が、今回の邪神の怒り方は相当なものだった。
下位神も中位神も思わず固唾をのんで見守る。
見てないで止めろよと思うかもしれないが、
止められるならとっくに彼らは止めているのである。
邪神と女神を止められるのは今は天界に不在の主神しかいないのだ。
「ねえ邪神さんよ。魔物とかいう人間より強い生き物
創ってくれるおかげでこっちは人間一応守らなきゃいけないんだけど」
「は?魔物でも強いのは一部だけだ。その一部も多くは
私の管轄にある。無暗に地上や人間を傷つけることはない」
「あ?知るか!人間どもが魔物に襲われるから何とかしろって言うんだよ!」
「人間に逆らわれたら面倒だと思って
能力を与えなかったのはどこのドイツだ?」
「……うるさああああい!!
と、に、か、く!人間を一応魔物から守るために勇者なんていう
特殊な人間こさえてんだよこっちも!」
「地上世界の生命体の比率は
人間5割、動物3割、魔物2割だと取り決められている。
魔物が特別能力が高いのは人間や動物が増えすぎた時に、
その個体数を調整するためでもある。
もし勇者によって魔物が絶滅すれば地上世界は終わる。
そして地上世界の終焉は我々の消滅と
同義でもあるのだぞ!分かっているのか!?」
「キーッ!この規律男……ムカつくわ。
そもそも人間が魔物に襲われてるの、アンタんところの魔王が
原因なんじゃないんでしょーね!?」
「アホか!いや、アホだったか。
いやそれはともかく魔王は
一部のダンジョンだけが管轄なんだよ!
自然に生まれた野良ダンジョンや野良魔物は管轄外なんだよ!!」
「どーだかねえ?」
「……はあ。それよりもだ!
お前、また地球から勇者召喚という
聞こえだけは良い拉致行為をしただろ!」
「あああ!!クソッ余計な事言いやがって!
思い出したらムカついてきたぞ!召喚しくじったんだよ畜生!」
「地球管轄の神々が大層お怒りだったぞ!!
私がどれだけあちこち謝罪してまわったと思ってるんだ!!?」
「ふん、いい気味じゃん」
「アホか!?特に地球の日本ってとこの担当である
天照大神様がキレて地球が一日異常気象になってたんだぞ!?」
「私には関係ないしー」
「消滅したいの!?神判の炎で
焼き尽くされたいの!?馬鹿なの死ぬの!?」
「オッサンがうっさいんだよさっきから!!」
「誰のせいだと思ってる!!
大体お前の召喚にしくじった人間の魂の処分だって私が、
動物神とかとやったんだぞ。お前がやるべきことだというのに!」
「はいはい!ご苦労様でーす♪」
「……はぁぁぁぁ。もう、いい。
……なんでこんなのが光属性の神なんだか。
デスクワークと誘拐しか出来ないくせに……」
「なんだと……!」
「おっと余計なことを言った。じゃあな」
そうしてワープして女神の元を後にした
邪神の顔には、酷い気苦労の跡が見えた。
その後彼は下位神の動物神や中位神の龍神にやんわりと労われた。
その後、崩壊した天界の一部を協力して(ただし女神を除く)
再建し、自身の神殿に戻った邪神は深いため息を吐いた。
そして、思い出したかのようにポツリと呟いて、
魔力を練り込んでいく。
「……ふう。そろそろ、この件も解決させなければな……」
「……"魔物創造"……神馬"黒天馬"」
邪神が放った魔法陣から漆黒のペガサスが現れる。
そして、そのペガサスは邪神の指示に従い、
天界を離れて地上世界へと降りて行った。
……邪神ハードシップの戦いはこれからだ!




