第39話 フラードさんのスパイ大作戦 帰還
フラードさんがギルドで冒険者となってスパイとなって既に数日が経った。
そしてある日、ギルドでとうとう目当てにしていた情報が張り出された。
それは、アスが追い払った冒険者達の報告に対するギルドの対応。
現状直接的な被害がほぼ皆無であることや、
これからサンダーバードが街に飛来する時期に入ることもあり、
アスの件は緊急を要しない限りは様子見程度に留めるというものであった。
もちろんこれに疑問を抱く冒険者もいた。
人間が大勢住む街からさほど離れていないところにAランク冒険者を撃退する
強さを持つ魔物がいるのを放置するのはどうなのか、と。
ギルドとしては、定期的に監視の依頼を出す方針らしい。
山に赴き、危険ではないと思われる位置から様子を観察する依頼。
しかし相手は最低でもAランク級、下手すればSランクに迫る強さを持つ。
例え監視でも進んでやりたがる冒険者はいなかった。
そう、地竜レンゲを率い、仲間からも
研究バカと言われる男、チョーサを除いて。
「やろう」
「「い、や、だ」」
ロナウドとネルソンは抵抗した。
彼らはアスに若干のトラウマ意識が芽生えていたのだ。
しかしレンゲやメタルワイバーンに囲まれながら脅され、渋々折れた。
「ハーブライフが何度でも癒してくれるから
安心してレンゲに踏まれろ」とはとんだ脅し文句である。
フラードはその光景を魔力を微塵も流さないほどに抑えて
存在を悟られないようにしつつ眺めていた。
(……当分は、何かあっても大丈夫だろうな)
フラードはそう結論付けた。
ボチボチ、アスのところに戻って報告でもするか、と
思い、ロナウド達が去り、魔物がいなくなったのを見計らってから
歩き始めた。しかし外に出ようとしたところで
ギルドに急てて入ってきた男にぶつかった。
「痛ぇ……。ああ、嬢ちゃんぶつかっちまって済まねえ。怪我はねえか?」
「……ああ。何ともない」
「そうか、そりゃよかった」
「うん?」
フラードは本を拾い上げた。かなり古臭いボロボロの本だ。
「ああ、そりゃ俺の本だ。落としちまったか」
「……ふむ」
フラードが本をめくった。所々破れたり、薄汚れている。
男はフラードが本に興味を持ったと思ったのか、本の説明をし始める。
「その本は、大昔の人間が書いたらしい本でな。
ただボロボロだし、そもそも時代が古すぎて文字の解読もままならないんだ」
「……"遥かなる海を越え私、マーマレード・ルルーは
ついに誰も知らぬ孤島へと至った"」
フラードは本の内容を読み始めた。男は思わずギョッとした。
横からこっそり話を聞いていた冒険者たちも驚きを含みつつ様子を見ている。
「"ここに我が生涯を賭して得た余りある金銀財宝を全て隠すことにする。
この手記にはその隠し場所も記しておこう。
宝は見つけた者が好きにするがいい。財宝の在処は……"」
「「「在処はッ!!!?」」」
「うわっ。何だお前達は」
いつの間にか話に釘付けとなっていた冒険者達が一斉に叫んだ。
「……千切れてて、分からん」
「「「「「な、なななな……何だとーーーーーーッ!!?」」」」」
フラードは端っこが千切れて無くなっているページを
ヒラヒラさせながら返答した。
冒険者たちの悲しみの叫びがギルド中に鳴り響いた。
本の持ち主である男がハッとしてフラードに詰め寄る。
「じょ、嬢ちゃん。何でこれが読めるんだ!?
もしや高名な考古学者か何かか!?」
「……いや、別に……単に知識として知っているだけだ。
この文字は今から恐らく一万年前に書かれたシルエット文字という文字だな。
確か千年ほど前には、女の身でありながら海賊の王にまで上り詰めた
海賊、"マーマレード・ルルー"が海を騒がせた時代があったか。
わざわざ古代文字を使った理由までは知らんがな」
「……ま、マジか……?マジでマジなのか!?」
「私は嘘は好かん。気になるなら知り合いにでも頼んで千年前の
海賊について調べればいいだろう。言っておくが
私は財宝に興味はないから、文字の解読はこれ以上はしないからな」
フラードの有無を言わせぬ気迫に押された男が渋々という感じで頷く。
「わ、分かった……何だったか、シルエット文字って言ったよな!?
俺、シルエット文字に精通してる人間探す旅に出る!!」
「ちょ、待て!」
「俺も行くぞ!」
「俺も俺も!!」
こうしてギルドはお祭り騒ぎになった。
対応にギルド長までもが出てくる始末となり、
古文書を解読した張本人……つまりフラードだが、
彼女はそのどさくさに紛れてギルドを去っていった。
そしてギルドはいつの間にかフラードがいなくなっていたために
再び騒ぎになるのであった……。
因みに彼女にとってはこの時代では古代文字として
扱われる文字の方がむしろ常用語である。当然書くこともできなくはない。
フラードは最後に一騒動を加えておきながらも、
こうして街を去り、山へと戻っていった。
フラードさんが走る。走る、走る。
人間時の能力でも山までなら一日足らずで辿り着ける。
フラードはしばらく走り続けた。
……ん?あれは……?
フラードが千里眼で見た光景。それは……。
「……アス!」
フラードは思わず全力で走った。何だかんだ
一週間近く会っていないので姿を見かけた時、ちょっと嬉しくなったのだ。
さて、そんなアスは旅人を襲っていた賊を倒していた。
怪我を負っていた場合は治癒魔法によるケアまでしていた。
人間達の間で人を助ける馬の魔物が噂になり、
人間達にとって益のある存在と認識されれば攻撃されないのではないか?
と考えての行動だった。
キラーアント達に山道や賊の根城を見張らせて、
動きがあれば直ちにアスに連絡が回るようになっている。
そして大義名分で賊を倒し、
人間の撃破によるレベルアップまで狙っているというものだった。
そんなアスにフラードが近付く。
『アス』
『……ん?……フラード、か?』
『ああ』
『久しぶりだな。早速話を聞きたいところだが、
ここでは何だし、話は山で聞こう』
『そこで気絶してる冒険者っぽい人間は放っておいていいのか?』
フラードが気絶している冒険者を指差した。
『ああー、多分山賊に襲われてパニックになったところに戦闘の余波の
俺の魔力を浴びたせいで頭が追いつかなくなって気絶したんだろう』
『思い切り被害者じゃないのか』
『いいのいいの。山賊は始末してあげたんだから
気絶した後の面倒くらい自分でやればいいの』
そう言ってアスは山へと戻っていった。
気絶してたら自分で面倒はみれないだろうとは思ったが、
口には出さずにフラードもそれについて行く。
およそ一週間ぶりに戻ってきたアスの白亜の家は特に変化はなかった。
いや変わっているところがあった。
ミスリルが地面に埋まっていた。
アスの光魔法による拘束を受けながら。
『何があったんだ』
『俺が埋めた。魔石盗み食いしやがったんだコイツ』
『……それは仕方ないな』
『仕方ないで済まさないでー!もうしないから許して!助けてー!
というかフラード様お久しぶりですー!』
結局ミスリルの懇願をスルーして家へと戻る。
「鬼、悪魔、人でなし、デブ、さでぃすとー!!」と念話で叫んでくるが
アスもフラードも聞こえなかったことにした。
家の中に戻ったフラードは
装備を外して、元の龍の姿にフラードは戻った。
「また裸か俺は見ない、見ないぞ」とアスはぼやいていた。
気を取り直したアスはフラードを労うことにした。
『フラード、お帰り』
『ああ、ただいま。一応街に行ってみた結果だが……』
『……』
『監視は付くものの、当分討伐対象にされることはなさそうだ』
『……あー。監視ね。……まぁ討伐隊とか組まれるよりはマシだな』
『そうだな』
『ところで、人間の街はどうだった?』
『人がゴミのようだった』
『……人が多かったって言いたいのか?』
フラードは頷いた。人混みのことである。
『冒険者になった』
『ふぁっ!?』
『敵を欺くにはまず味方を騙すというからな』
『いやそれ今関係ない……ん?』
『……冒険者フラードのスパイ大作戦、か』
アスはフラードの行為に突っ込むのはやめた。
そもそも街での行動をフラードに委任していたので
文句を言ってもしょうがない。
それならば冒険者になったというフラードの立場を
上手く利用してやる方がよっぽど得だと考え直した。
『フラード。これからも何らかの出来事があれば、
人間の街に行ってきてもらう可能性があるけど、構わないか?』
『……あまり、長居でなければな』
『分かった。一週間以内とかでいいよ』
『……そうだな、それくらいなら』
『そうそう、俺も山賊を倒して金になりそうな物や貨幣を
ついでに集めているから、街に行くことがあったら
持って行ってくれ。何かの役に立つかもしれないしな』
『分かった』
『それじゃ、色々あって疲れてるだろうし、
フラードものんびり休んでくれて構わないよ』
『うむ。そうさせてもらう』
そう言ってフラードは俺に寄りかかってきた。
重い。冗談抜きで重い。
『フラードさん。何でそんなことされるんです』
『んー。魂繋がってるから?』
『初耳だよ。魂繋がってる奴と離れると
そんな寄りかかってくるの?反動?何かの反動なの?』
『……分かった分かった。普通に寝る』
『そうしてくれると助かります』
『……ま、真面目な話アスが死ぬと私も死んでしまうので
離れられると困るのだがな』
『……早く一匹でもフラードが安心できる強さに
成れるように善処するよ』
『目指せ全ステ10万』
『ハードル高すぎるぞ』
『SSランク目指すならそれくらいなくてはな』
『え、いつからそういう話になってたの!?』
『違うのか?』
『ちゃうわー!俺は安心できる生活を送りたいの。
その為に自衛できる能力を養ってるの!
後、フラードの身体元に戻すためなの!!』
『感情の起伏的に最後が本命じゃな。ありがと』
『ちくしょー。気持ちをすぐに汲み取られるこの契約術
誤魔化しがきかねえよ、今更になって少し恥ずかしくなってきたよ』
『ハハハ。お前も私の気持ちが分かるではないか』
『たまーに底冷えするほどの闇に包まれるよな』
『……さて、何のことやら……』
『おいおい……』
そうしてアスとフラードは二匹で笑い合った。
彼らは今日も気ままに過ごしていたのだった……。




