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第37話 フラードさんのスパイ大作戦 その2

 アスの頼み事で、人間の街へと潜入捜査をすることになったフラードさん。

 

 さて、そんな彼女だが通りがかりで自身の能力確認を兼ねて

 山賊に襲われていた馬車を助けてみた。


 そんなフラードさんは現在馬車に(無理矢理)乗せられ、

 少女の従者から紅茶っぽいもの……フラードに馴染みはないが。

 とにかく、結構なおもてなしをされていたのである。

 

 フラードさんが出発した馬車に揺られながら

 適当に足をぶらぶらさせながら座っていても

 少女は微笑みながら話をする。



「先ほどはお助けいただき、ありがとうございました。

私の名はエリーヌ・フォン・マヌビス。マヌビス子爵家に名を連ねる者です」


「……そうか。お前は貴族なのか」



 従者の男がフラードの言い方に眉を顰めるが、

 エリーヌは気にする素振りを見せないので大人しくしている。



「はい。私はこの通り貴族でございます」


「ふん。私は貴族は嫌いだ」



 かつて自分を倒した勇者が、当時はどっかの国の貴族だったらしいからだ。

 大方自分の討伐を命じたのも貴族か、王族の誰かだろう。

 

 そう考えるとフラードは機嫌が悪くなった。

 

 エリーヌ的には貴族嫌いな人間など幾らでも見てきたので気にはしていない。

 従者の男の顔は怒りで赤くなっているが。 



「まぁ、そんなことをおっしゃらないでくださいませ。

私は、危ないところを助けていただいた貴女にお礼をしたいのです」


「……ふむ」


「私、父からは、相手の心からの善意には報いよ。と教えられていますから!」


「そうか」



 フラードの返事が曖昧なのは、貴族に興味がないこと、

 そしてお礼とやらをどうするか、考えていたからだ。



「では、私を冒険者のいるところに案内してくれ」


「……ギルド、ということですか?」


「ああ、そのギルドという奴でいい」



 冒険者の施設なんか知らないフラードさんはとりあえず返答した。



「……あの、貴女は冒険者の方ではないのですか?」


「ああ。私は普段は山に住んでいてな。

今日は友の頼みで街に用事があって、ここまで来たのだ」


「まあ、はるばる山から……。

それにしては、装備も含めて身綺麗なような……」


「……」



 フラードが目を細めた。

 何故か背筋が凍る思いがした少女は

 それ以上フラードの見た目を指摘するのはやめた。


 日々の貴族との格闘で培っている直感が働いたのだ。



「そうですね。……では、もしかして

街に入る税金をお持ちではないのでは?」


「税金……金がいるのか?」


「はい。今この馬車が向かっている"セール"の街は、

我がマヌビス家が治める領地ですので、通行税がかかります」


「そうなのか。それは困ったな。金は持ってはいないのだ」


「でしたら、お礼の一環として

今回の通行税は免除、というのはいかがでしょうか?」


「それは助かるな」


「分かりました。そのように手配させます」



 少女が従者に指示を飛ばす。

 フラードはぼんやりとしながらその光景を眺めていた。


 やがて、馬車が街に辿り着く。エリーヌが取り決めた通り、

 フラードの通行税は免除され街に入る許可が下りた。


 

「次回からは街に入るのに税金がかかりますので、

何かお金を用意しておく方法を考えた方が良いとは思います」


「分かった。何かしておくとするよ」


「こちらをお受け取りください。

僅かではありますが、銀貨を用意させていただきました」


「銀貨……」


 

 フラードは神龍眼の鑑定を入れた。



「スサノオ銀貨」

人間の国で共通で用いられている銀貨。

価値は銅貨100枚分で、小金貨の100分の1。



 フラードは顔がこわばった。

 銀貨の名前が、かつて自分を倒した勇者の名前だったからだ。


 ……フラードはこの時、黒い感情が魔力として溢れそうになった。

 

 それを感じ取ったエリーヌやその護衛達が一瞬周囲を見たが

 正気に戻ったフラードがその時には魔力を霧散させていた。


 フラードは何とか正気を保ち、ぎこちなく礼を言った。


 その後、馬車は貴族用の専用の門を通って行き、エリーヌとは別れた。


 ギルドへの案内はエリーヌの護衛の一人がしてくれた。


 護衛の案内に従い、やがて大きな建物の前に辿り着く。

 剣と盾が交差する看板がトレードマークの建物に。



「こちらが冒険者ギルド、セールの街支部になります」


「ありがとう」


「では、私の案内はこれにて。お気をつけて」



 護衛はそう言って足早に去っていった。


 フラードはその後ろ姿を軽く見送り、ギルドの扉を開けた。


 カララン、カララン。 軽いベルの音が鳴り渡る。


 中には多くの人間達がいて賑わっている。

 ベルに反応して何人かフラードの方を見て、物珍しそうに眺めた。


 しかし、多くの人間は何やらギルドに

 張り出されている大きな紙に釘付けのようだ。


 どうやらその紙には何か書いてあるようなのだが……。



「……読めん」



 そう、読めないのだ。これでは情報収集どころではない。

 アスからは、冒険者がどういう活動をするのか、

 また、アス達に関係がある話がないかを調べるように言われている。

 なのに文字が読めない!


 これは困ったと内心焦ったフラード。

 その様子を気にしたのか、ギルドの受付から女性が一人近付いて

 フラードに話しかけてきた。



「こんにちは。初めての方ですよね?何かご用件でもありましたか?」


「……ああ。その、あの紙……何が書いてあるのか読めなくてな」



 フラードが張り出されている紙を指差す。

 女性は納得したような顔をして、説明してくれた。



「あれは情報板に貼られている紙です。危険な情報から

意外な情報まで、ギルドに報告された様々な報告が書かれています」  


「あの紙には、何て書いてあるのだ?」


「はい。あの紙には……

"クリスタルケイブの謎の魔物"について書かれていますね」



 フラードはその言葉を聞いて、これだ!と思った。



「代わりに読んでもらうことはできるか?」


「構いませんよ。今は受付も少し空いてますから。ええーと……」



 そして、フラードが説明してもらった内容はこうである。



 クリスタルケイブで発生した事件調査報告


・ダンジョン内で突然謎の爆発が発生したという報告があった。

 謎の爆発について調査はしたものの原因不明。ただ魔力の残滓から

 闇属性を用いた何らかの攻撃と推測。


・クリスタルケイブの主、ミスリルゴーレムが消息不明。

 主の間は激しい戦闘の痕跡があり、

 魔力の残滓が主の間から発生しているため、

 正体不明の爆発自体は主の間で起こったと考えられる。

 ミスリルゴーレムの存在が確認できないことから、

 何者かに討伐された可能性も否定できない。 


・主の間に至る道中でD、Eランクの冒険者混合パーティの全滅を確認。

 戦闘の痕跡からは何かに貫かれた跡や、風魔法らしき裂傷を確認。

 クリスタルケイブ内では風魔法を使う魔物は生息していないため、

 冒険者同士による戦闘か、あるいは未知の魔物の攻撃の可能性あり。  

 また、何名かの遺体は骨の一部が粉々に粉砕されており、

 何らかのよほど強い衝撃を受けたことが推測される。

 いずれにしても情報不足であるため、ダンジョン潜入には十分に注意されたし。


・また、一部の冒険者の間で治癒魔法を使う

 複数の魔物を引き連れた馬の魔物がいる、という噂があるが真偽は不明。



 フラードは思わず眩暈が起こりそうになった。

 だって100%主犯なんだもの!


 だがここで怯んでいるわけにはいかない。

 ここにいる冒険者達はこの報告に対してどう行動を取るつもりなのか?

 それも調べなくてはいけない。



「なあ、その報告を冒険者たちはどう思っているのだ?」


「そうですねー……。ダンジョンの中、というのは何が起こるか

分からないのが常識ですし、それほど大事とは認識されないと思いますよ。

ただ、治癒魔法を使う馬の魔物、というのはもしかすると

ダンジョンに迷い込んだ野良の魔物なのでは、という見解があるようですね」



 実際その通りである。



「……そ、そうか……色々教えてくれてありがとう。助かった」


「いえいえ。他に何かご用件はありますか?

例えば何か依頼を出しに、とか……冒険者登録をしに来た、とか」


「……冒険者登録?」


「はい。ギルドに所属して冒険者稼業を行うためのものです」


「それは、金が貰えるのか?」


「ええ。依頼の達成や、魔物の素材や魔石の納入等で

収入を得るのが冒険者ですので」


「冒険者、というのは今すぐなれる物なのか?」


「ええと、簡単な試験を受けてもらって、

それに合格することができれば晴れて冒険者になることができますよ」


「試験?」


「はい。具体的には"常設依頼"という、

主に街の雑事に関する依頼を達成することが試験内容ですね」


「そうなのか」


「ギルドに所属する、というのはギルドがその人間の

身分を保証する、ということにもなりますからね。

ギルドとしては出自を問わずあらゆる人間の身分を保証するわけには

いきませんから、このような試験があるのですよ。

特に街の人間と問題を起こすような

人物に所属されてはギルドの沽券に関わりますし」


「なるほど」


「はい。ですので入団試験というのは、ギルドの依頼掲示板に貼られている

常設依頼にある街の雑事をどれか一つ達成することです」


「それで、街の人間と揉めない人物かどうか見極めるわけか」


「そういうことです。依頼は達成すれば試験に合格、

当然冒険者として身分を保証しますし、

依頼の報酬や冒険者ランクの昇格ポイントも付くことになっています。

この辺りの説明は、冒険者になられた時にすることに

なってるんですけどね。どうですか?興味は湧きましたか?」


「うむ。とりあえず金を得る手段が欲しい」


「……あー……まあ、冒険者になるのは手っ取り早いと言えば

手っ取り早いですが、危険な仕事ですよ?」


「問題ない」


「分かりました。では入団試験、早速やってみますか?」


「うむ」


「分かりました。それではこちらへどうぞ」



 そうして受付へと案内される。

 用紙に必要事項を記入するよう言われるが

 字が読めなければ書くこともできないので代筆してもらった。



「お名前はフラードさん。ええーと、職業は特になし。

特技は剣と魔法。武器は剣……うん、大丈夫そうですね。

では、何か一つ常設依頼を選んでください。

討伐系ではなく町のお手伝い系の依頼ですよ?」


「分かった」



 そうしてフラードは依頼の貼られた掲示板の前に立った。

 受付の女性に依頼内容を解読してもらい、依頼を決める。



「薬作りの手伝い、ミルクの配達……ふむ。……これにするか」



 フラードは依頼を一枚剥がして女性に渡し、受付に戻った。

 それは、ペットのお世話という依頼だった。

 

 判断基準は他の常設依頼よりも報酬が多いから。


 フラードはギルドを後にした。

 こうしてフラードの入団試験が始まったのだった。


(貴族の名前については深く考えない方が良いかもしれない……)

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