第36話 フラードさんのスパイ大作戦 その1
俺はフラードに、ある厄介事を引き受けて貰おうと何とか説明していた。
『……何故わざわざ人間の街に潜入するのかというと、人間達が……
特に冒険者って奴か。アイツラが今後どんな動きをするか知る必要がある。
今後俺達に危害を加える可能性が高いからな。
相手の動きを知る為に、フラードは人間の街に潜入して、調査してほしいんだ。
"変化"のスキルで人間の姿に変装できるのも、フラードしかいないからな……。
難しいことを頼んでるつもりではあるが、どうか受けてくれないか?』
『なるほど。そういうことか』
アッサリ納得された。嬉しいけど俺の気苦労は何だったのか。
そう思っている間に、フラードの全身が光り輝いていく。
光は段々小さくなっていき、そして光の中から……。
一人の少女が……って!裸だァァァァッ!!?
俺は顔を背けて叫んだ。
『フラード!服、服は!?』
『服……さて。そんなものずっと前に無くした』
『マジかあああ』
『あのー』
ミスリルがおずおず、といった感じで念話を挟む。
『服、作りましょうか?』
『え、作れるの!?』
俺はミスリルの方を素早く向いた。
『ミスリルを繊維状に創り上げれば、可能かと……』
『なるほど。金糸ならぬミスリル糸……魔銀糸ってところか?』
『そーなのです!』
というわけで、人間の姿になったフラードの採寸を
マザーとミスリルにしてもらう。
一応ハイパーホーンの顔も隠した。グレッシャー……性別あるんかな。
そう思いながらミスリルの服作りを見守る。
『"錬金"!』
ミスリルの鉱石化した身体から糸状のミスリルが生み出され、
それが纏まって形を創り上げていく。あっと言う間にパンツとブラになった。
……あるんだ。ブラとか……。
その後、緩めの服とスカートを創り出す。
一瞬チラッと見えてしまっただけだが残念ながら(?)
人間形態のフラードは身体のラインが控えめだったのだ……。
『私は元は龍なのでな。人の造形をそこまで気にする必要はあるまい。
……デカイのは、動くのに不便だしな』
フラードさんの目から光が消えていた。本来の姿のフラードは
とにかく巨大らしく、どうやらギガボディに良いことはなかったようだ……。
純度100%ミスリルで作られた服を纏ったフラード。
改めて俺はその姿を見る。
鱗の色が移ったような蒼い長髪。金色に輝く神龍眼。
神秘的な銀色の光を放つ服。整った顔立ち。
元人間目線だが、美人だと思う。見た目は15歳くらいに見えるけど。
『奇麗だぞ。フラード』
『ありがとう。このままいけばいいのか?』
『いや、ちょっと待ってくれ』
俺はミスリルに頼んで防具も創ってもらった。
軽鎧とかそういう簡易的な奴だけどな。参考は冒険者の装備デザイン。
『これも着ればいいのか?』
『ああ。流石に装備無しの人間が山道を歩いてくるのは、多分不自然だ』
『ふむ。そういうものなのか』
『武器もあった方がいいな』
『それなら、コレがある』
フラードは手に魔力を込める。すると天叢雲剣が浮かび上がった。
『……確かにその剣があれば、大丈夫だろうなあ』
それ龍眼でも鑑定できなかったし。でもさぞかしチート武器なのだろう。
『じゃあ、各自の行動はさっきの説明通りだ。解散!』
『『『おおー!』』』
『おー』
『マロー』
こうして、俺達は新たな動きに出るのだった。
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「さて、と」
山の麓の山道。そこには一人の少女がいた。
蒼い長髪を魔銀糸のオシャレな髪留めでポニーテールにし、
同じく魔銀糸制の服とスカートを着用し、上に銀色の軽鎧等
簡単な防具を纏い、腰にはこれまた銀色の鞘に収まった剣を装備している。
靴から小物入れの袋に至るまで銀色装備で統一している少女。
我らがフラードさんである。
彼女は現在人間の姿に"変化"している。
彼女の魂の友であるアスの頼みなので断る理由などない。
『一応、ステータスを確認しておくか……。
何千年ぶりかの変化だしな。何か変調があると困るし……』
そう言って自身に神龍眼の鑑定をかける。
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名前:フラード
種族:八相神龍・ヤマタノオロチ(人化)
系統:神龍系
状態:分裂/人化
LV :20/99
HP :7257+1323/8580(73893)
MP :7257+909/8166(73479)
攻撃力:5805+3177(59005)
防御力:6531+2360(65870)
魔法力:6531+1310(71324)
魔防力:5805+2063(58913)
素早さ:5152+1763(53233)
ランク:G
装備:
E.天叢雲剣(分裂)
E.魔銀の髪留め
E.魔銀の軽鎧
E.魔銀糸の服
E.魔銀糸のスカート
E.魔銀糸のブーツ
攻撃系スキル
「剣術:LV6」「鞭術:LV3」「全力攻撃:LV7」
魔法系スキル
「土魔法:LV8」「闇魔法:LV8」
技能系スキル
「魔力感知:LV10」「魔力操作:LV9」「変化」「念話」
「魔力覚醒:LV8」「気合法」「魔戦法」「竜闘法」
「龍闘法」「HP自動回復:LV8」「MP自動回復:LV8」
「掘削:LV2」「威圧」「隠密:LV8」「忍び足:LV8」
耐性系スキル
「土耐性:LV8」「闇耐性:LV8」
ユニークスキル
(「竜麟:LV10」)(「龍麟:LV10)」「神龍眼」「鑑定遮断」
称号
「神龍」「魔物殺し」「魔物の殺戮者」「魔物を滅ぼす者」
「人族殺し」「人族の殺戮者」「竜殺し」「龍殺し」
「龍王を従えし者」「最終進化」「覇者」「災害」
「理不尽」「天災」「転生馬の盟友」「生還者」
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「……ステータスは……十分の一、ほどか……?
人間はやはり脆すぎるな。……いや、その人間に私は敗れたのだった、な」
かつて勇者に敗れたことを思い出し、一瞬気が沈んだフラードさん。
しかし、同時に彼女には普段は雀の涙程度に見える
アスの魔力連結のステータス補正が、よりありがたいものに見えた。
もちろんミスリルが創った装備品や天叢雲剣の補正もあるが、
それでも彼女は龍生初めての友人の事を考えると、何だか胸が暖かくなった。
「……同族からも異常な力を恐れられ、
それで避けられるのが嫌で、誰かと共にありたくて練習しておきながら、
とうとうまともに使うこともなかった"変化"が
こうして日の目を見る日が来るとはな……」
フラードの闇はまだまだ深かった。
彼女はネガティブ思考を振り払い、移動し始めた。
「歩く、というのは慣れないな。能力も落ちているし、
今のうちにこの身体に少し慣れておかねば……」
一歩一歩丁寧に移動しているフラード。
暫く山道を歩いていると、遠目に何かが見える。
神龍眼の能力は人間時でも健在なので千里眼で見える。
どうやら人間が争っているようだ。
馬が繋がれた乗り物……つまり馬車を守っている人間と、
それを狙って襲っている人間がいるようだ。
「なるほど。山賊という奴か」
知識としては知っているがこの目で見るのは初めてである。
「ふうむ。このままだと馬車を守っている者達がやられてしまうな」
フラードは軽ーく走る。まだ能力に慣れきっていないので
彼らを跳ね飛ばしてしまうかもしれないと思ったからだ。
フラードが思案した通り、すぐに馬車のところまで辿り着く。
少女が高速でやってきた光景に山賊も馬車を守る護衛もギョッとした。
そのままフラードは山賊(と思われる人間)に腹パンをお見舞いする。
もちろん手加減している。全力で殴ると内臓が破裂……を飛び越えて
恐らく肉体が爆散する。剣もこの程度の人間相手では
威力が高すぎるので迂闊に使えない。
小突くつもりで軽く軽ーく殴る。
それでも山賊たちの意識は一瞬で刈り取られた。
そうして瞬く間に十人近い山賊を蹴散らしてしまった。
「ふむ。これは普段は相当力を抑えねば……」
フラードが冷静に考察している横で、馬車の護衛達が驚いている。
「し、信じられん。俺達が苦戦していた山賊達がこんなアッサリと」
「冒険者か?しかしあんな少女がか……?」
そんな中、馬車から人が降りてくる。
どうやら少女のようだ。後から従者らしき男も降りてくる。
少女と従者はフラードの元へ優雅に近付く。
護衛達が慌てて少女の傍に付いた。
「お助けいただき、ありがとうございます」
少女は優雅に礼をする。身分のある人間である証拠である。
が、正体が龍なために人間社会の常識に疎い
フラードさんにそんなことは分かるわけもない。
「いや、礼はいらん。じゃあな」
「え。あの、お待ちくださいませ!」
少女は去ろうとしたフラードを呼び止めた。
「何か用か?」
「あの……」
少女がフラードに話しかけようとしたその時。
そこにキラーアント達が現れる。
慌てて、魔物の襲来か!?と身構えた護衛達。
しかしそれを無視してキラーアント達は
のびている山賊達を回収してサッと退却していった。
彼らはこの不可解な行動がイマイチ理解できなかった。
因みにこれはアスの指示である、とだけ言っておく。
(……もう少し何か上手くやるべきではないのか……?)
フラードはキラーアント達に対して若干の呆れを含みながらも、
とりあえず目の前の少女が話したがりそうに
していたので、話を聞いてあげることにしたのだった。




