第2話 魔物
吾輩は馬である。名前は忘れた。
名前どころか自身が人間であるという「確信」以外は
全て忘れた。いや、ないわぁー。
……そんな感じでしょげていた。しょげていたが
今現在ものすごく喉が渇いていた。なので水を求めて移動している。
移動しながらも「鑑定」で気になったものを調べつつ…
殆ど情報は得られないが……。
とにかく「鑑定」を使いながら水を探していた。
喉の渇きが酷い。馬ってこんなしんどいの?
そんなことを思いながら洞窟を進んでいると、
洞窟の先の壁の亀裂のような部分から
ぬるりとした半透明の物が出てきた。
なんだなんだと思い慌てて「鑑定」を仕掛ける。
頭の中にその物体の情報が入る。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
種族:スライム
系統:スライム系
ランク:E
状態:通常
【鑑定LV1ではレベル、ステータス、スキル、称号の鑑定は不可能です】
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
ス…スライム?スライムっていえばあれだよな。
ゲル状の粘液のモンスター。
この洞窟にはこんなのがいるのか?……少なくとも、
俺の住んでいた日本では
スライムがいる洞窟という話は聞いたことがない。
……しかし、スライムか……。
コイツ、とりあえず応急の水分になるか?
……このまま水が確保できなければ死ぬのは目に見える。
ならここで大した量ではなくても
水が向こうから出てきたのなら……。
それに正直もう喉の渇きが限界だ。喉が痛くて仕方ない。
……馬は、スライムに勝てるのだろうか?
……いや、仮に勝てなくて、逃げれば……。
恐らく水が確保できなくて結果としては死ぬだろう。
……どうせなら、俺は今馬だとしても死ぬわけにはいかない。
正直分からないことだらけだけど、
できるなら俺が馬になった理由も突き止めたいからな。
スライムは身構えている様子だ。明らかに俺を認識している。
しかしスライムは地面を這って移動するようで、
そこまで素早い動きではなさそうだ。
俺は馬としての素早い走りを存分に利用する。
全速力で走り、一気にスライムに接近する。
そのまま前脚を持ち上げて前脚の蹄で思い切り踏み付けた。
だって、攻撃手段が思い浮かばないんだもん。
ぐちょり、と気持ち悪い粘液が足に沈み込む。
スライムに打撃が効くのかわからないが、
何か抵抗される感覚があるのは分かった。
思ったよりもスライムの抵抗が強い感じではないので一気に
小刻みにジャンプしながら前脚と後脚で何度も踏み付けた。
もっとクセを出して走れ!って奴だ。…何言ってんだ俺?
何度も何度も踏み付けているうちに
次第に感じる抵抗が弱まっていく。
やがて水が潰れる不快な音と共に、スライムは動かなくなった。
同時に粘性を帯びていた、
スライムの肉体……体液?もスッとサラサラの水に変わった。
……これなら、飲めそうだな。「鑑定」しても水溜まりとしか出ないし。
それと同時に頭の中に情報が入り込んでくる。
【条件を満たしました。
レベルが1から5に上昇しました。レベルが最大になりました】
レベル……そんな概念があるのか。
そういえば確かに「鑑定」を使うとそんな表記があったような。
……何だか、スライムといいやたらとゲームっぽいような。
でもゲームを当てはめるならレベルが上がったという事は
強くなったということなのだろう。
それは別に悪い事じゃない。
そう思って気を取り直してスライムの水溜まりを舐めると、
少し舌がピリッとしたような感覚もあったがすぐに慣れた。
しばらく水溜まりを舐めていると、
水溜まりに赤い小さな石が沈んでいるのに気付いた。
何だろうと思い「鑑定」するが、魔石という表示だった。
魔石?……なんだそりゃ?
そう思っていると、
頭の中にさっきと同じような感じで情報が入り込んで来た。
【条件を満たしました。「鑑定LV1」が「鑑定LV2」に上昇しました】
鑑定のレベルが上がったのか。
移動しながらもしばしば
鑑定を使っていたのが良かったのかもしれない。
レベルが2に上がった鑑定。
これでもう一度魔石を鑑定すれば何か分かるかもしれない。
そう思って「鑑定」を再度魔石にかける。
「魔石(小)」
魔物の核となる魔力の塊。取り込むことで成長や進化を促す。
なるほど。ちゃんと説明が出てきた。使いやすくなったな。
んで、これは魔物の核……ね。さらに、これを食べると成長できるのか。
……この説明からするとつまり魔物とか普通にいるってことだよな。
スライムに勝てる程度では、
どうにもならないことも起こりうるだろうな…。
ぶっちゃけ、スライムそんなに強くなかったし…。
そう思い、しばし考えたが、
結局俺の答えは一つだった。
俺は意を決して、
スライムの魔石を噛み砕いて一気に飲み込んだ。




