0. 俺とJKが出会いました。
永江 悠志 年齢、26歳。
中学と高校は男子校の中高一貫校。大学は私立のそこそこいいところ。
現在は企業に就職して経理を担当している。
ちなみに彼女は今まで、できたことがない。
そんな童貞26歳の俺はなぜか今……
女子高校生にストーカーされています。
***
時は年末、12月31日の午後六時過ぎ。
俺、永江悠志は都内で行われた「コミフェ」に参加して地元の駅に帰る電車に乗っている。
「コミフェ」とは「コミックフェスティバル」の略称である。夏と冬にそれぞれ3日間、都内の大きなイベントホールにて行われる同人誌即売会のことだ。一般参加のサークルはもちろん、プロの漫画家やイラストレーターもサークル参加している。また、アニメの制作会社や出版社、ゲーム会社等企業コーナーもありオタクにとっては幸せなイベントなのだ。
ちなみに俺は野菜を女の子に擬人化したゲーム「ベジタリアンガールズ」の大ファンだ。
元々中学の頃にライトノベルが好きで、そこからどんどんアニメをみたり漫画を読んだりするようになった。
今回の「コミフェ」ではこの作品の同人誌を大量に購入。壁サークル(人気の高いサークル)の本もすべて手にいれてある。前日に会場近くのネットカフェで時間を潰し、早朝の始発組が来る前に並びはじめて良かった。
戦利品をはやく読みたくてしょうがない。
『まもなく古河、古河に停まります。お出口は……』
年末なので込み合っている車内にアナウンスが俺の耳に入る。
お、もう着くな。普段会社も電車で通っているので家は駅に近い。徒歩で3分位だ。都内ではないので家賃も高くはない。
家に帰ったら何をまず読もう。頭のなかは帰宅したあとのことでいっぱい。
明日は正月だけど彼女はいないし、実家に帰る気力もない。友人たちもみんな今日のコミフェに参加したのでその戦利品を読んだり、作者に感想メッセをおくったりで忙しい。
明日はゆっくり過ごそ。
欠伸をしながら駅に降り立つ。戦利品に衝撃を与えないように慎重に改札を通る。紙袋のなかには大量の同人誌があるからな。
俺の他にも何人か降りたようで、各々出口に向かっている。
さて、俺も帰らなくては。出口の方に足を向けたときだ。
「すいません。」
後ろから女の子の声がした。
え?話しかけられた?
しかし、駅内には他にも人がいるしな。
まさか俺のことではないな。
足を踏み出そうとしたらまた声が後ろからした。
「ベジタリアンガールズの缶バッジ鞄につけてて、コミフェ帰りの大量に同人誌持ってるそこのお兄さん!!」
ギクッと俺は出そうとした足を戻した。そして後ろを振り返る。
後ろにいたのは二次元から出てきたような女の子がいた。黒いストレートの長い髪に二重のぱっちりとした瞳。茶系のセーラー服の上にピンクのコートを着ている。そして、ぷにっとニーハイソックスが太ももに食い込んでいる。
いや、そんなことどころではない。
高校生ぐらいに見える少女は俺をキラキラした目で見ている。
「あ、あのー、何かご用で?人違いではなく?」
念のため、人違いか確認しよう。
「いえ、人違いではありません!目の前にいるあなた様にお話ししたいことがあります。」
とても丁寧な口調。
初対面なのに話したいことがあるの?なにそれ??
内心バカにしつつ「はぁ」とかえした。
「実はですね………」
少し頬を赤め、目線をそらしぎみで少女は言葉を続けた。
「さっき電車内で同じ車両だったのですが一目惚れしました付き合ってください!!」
…………は?
何言ってるんだかさっぱり分からない。今時の高校生の言葉は難しいな。
とりあえず軽く一礼してダッシュで出口に向かった。
後ろからは弱々しい「待ってください~」という声が聞こえたが全力で無視。
なんかあの少女、ヤバイ気がする。
着ているパーカーの背中あたりに違和感を感じたが気にしないで走った。
息を切らしながら住んでいるマンションに着いた。三階なので階段にする。エレベーターでも良かったけど待ち時間がだるい。
階段をゆっくり上がり、三階につく。
すると自分の部屋の前あたりに人影が見えた。
大晦日の日に誰だろう。暗くて姿がよく見えない。
少し怖いので距離をとって声をかける。
「あの、その目の前の部屋、僕の部屋なのですが何かようですか?」
「ふふっ、当たりました!」
人影が急に僕の前に来た。急だったのでよろめきそうになる。
視界にはいったのは………、駅で声をかけてきた少女だった。
「えっと、君は誰………?」
心当たりがまったくない。僕の兄弟にこのくらいの子供がいるやつもいない。とりあえず正体だけは知っておこう。
「私は花園鈴鹿と言います。私立明大高校の1年生です!駅で見かけたあなたに一目惚れしました。」
すごくキラキラした目で俺を見つめる。
「うん、名前とか高校まで教えてくれてありがとう。けどさ、何でここに住んでるって分かったの?名前教えてないよね?」
「あぁ、それなら。あなた様の背中にGPSつけておいたので。」
「え?あ、ほんとだ、いつの間に?!」
「あなた様が走り出す直前に。」
すごくにっこりして少女は答えた。
「というわけで、あなた様の彼女にしてください!」
これが俺の人生で初めて女子から告白されたことになる。