懐中時計は時を告げる
こんにちは、雪逸花紅羅です!
今回の物語は一人の処刑人の物語。
彼の悩み・葛藤・憂鬱な気持ちが彼の行動を決めさせたのでしょう。
何ヶ月か前に書いたものなので記憶は殆どありません。
それでは、どうぞ!
――懐中時計が十二時を指した。仕事の時間だ・・・行かなくては。
気が進まずに私は何度も時計を見る。
時など止まってしまえばいい、そう思う毎日だった。
「処刑を始める。執行人、前へ」
私は人を裁く断罪人。ただそれは、正義ではない。誰もが望む悪役だ。
死罪となる罪人は皆から嫌われ、恐れられる。
一方、それを始末する断罪人は皆から望まれ、感謝される・・・おかしい。
この差は何だろうか。人が人を裁くなど間違っている。
正義など響きばかりでその行為は悪に満ちている。
「そんな奴、殺せ!」
嗚呼、善良な観衆までもが口々に日頃の怒りを放っている。
罪人は罵声を浴びて当然と言うのか?私には分からない。
悪者は誰なのか・・・私は誰を罰すればいいのか。
「速くしろ!」
観衆の一人が声を上げる。私は嫌でも決断を迫られる。
私は――
懐中時計が時を告げる。残された私は朱に染まり、町には悲鳴が響き渡った。
私の仕事は罪人を断つことだ。その為に、私は存在する。
そう考えるしかなかった。それしか道が残されていなかった。
時よ、止まれ。無慈悲にも時は流れてゆく。
命の大切さを誰よりも知った。
故に私は、もう引き返すことが出来ないと悟った。私こそが大罪人だ。
「いたぞ、罪人を捕らえろ」
兵士が私を捕らえに来る。正義の執行人だった私のことを。
なんて・・・愚かな。何故、こうも人は自らに不要なものを悪と捉える?
私は忠実に仕事を終えただけなのに。
罪人とは人だ。感情もあれば、考えもある。
例え、嫌われたとしても生きる価値がある。
兵士に捕らえられながら私は思った。
「何故、捕らえられたか分かるか?」
尊い王の言葉が私に降り注ぐ。
「知る由もありません。
正義ともいえる貴方の御心をいったい誰が存じましょうか?」
王とは国の法であり定められた正義。それに反する国民は悪。
だが、それを許さない者もいる。革命を望む者達だ。
その者達は自由を正義と掲げ、国に反する。
国にとっては罪人だが、傍から見れば正義ともとれる。
「そなたは罪なき民の命を奪ったのだ。それが、そなたにとっての罪だ」
私はいつしか叫んでいた。
「違います!私が望んだ命は悪であって正義ではありません。
私は罪人です。ですが、無実の罪に問われたくありません」
「そうか。そなたは只、仕事をしただけだと・・・」
「はい。神に誓って申し上げます」
王は暫し考えた後、決断を下した。
「理由は何であれ、そなたは殺さなくてもよい命まで奪った。
よって死刑に処す。すまない。何か意見はないか?」
王の決断は正しく、そこには労りの念もある。異論がある筈もない。
「滅相もございません。私には、それが正しい判断であると信じております。
御英断、感謝致します、王様!」
時は十二時。懐中時計はあの時から止まっている。私の願いが通じたのだ。
「只今より処刑を始める。執行人、前へ」
あの時と同じ風景だ。違うのは、私の目の前に広がる景色だけ。
後悔も無く、恨みもしない。神よ、感謝致します――。
そこに広がるのは鉄の香りと温かい風。人の亡骸。
ただ、いつもと違うのは・・・その亡骸が幸せそうに笑っているところだった。
今回の物語、実はバッドエンドに見えてハッピーエンドです。
確かに民衆や処刑人自身が犠牲になりましたが・・・・
処刑人の願いは時を止めること。それは死を意味します。
なので結果的に処刑人の願いは叶い、ハッピーエンドになります。
処刑とは余りに人徳に背いた行為です。
命を奪う職業であり、それでも欠かせない職業の一つです。
きっと処刑人は断罪の際に自分を責めるか、罪人を責めると思います。
そうでなければ仕事を続けることは出来ませんし、支障をきたします。
誰よりも命の大切さを知り、それでいて命を摘まねばならない。
憂鬱もさることながら人生に対する虚しさも同時に胸にあったことでしょう。
正義と悪。その正体は人間であると俺は考えています。
獣にはそもそも罪という概念がありません。
よって罪を犯すのは、何時だって人間なのです。
理性・知性これらは大切なものですが時に我々に牙を剥くものです。
有り余る理性や知性は満足を知らず、ただただ知りたいと願います。
人目や評判を気にするのも理性があってこそのものです。
時には獣のように勘に頼ることや振り切ることも必要だと思います。
罪があるのは、その概念が存在するからではありませんか?
これは個人の感想です。様々な意見があることを御了承ください。
ここまで読んで頂き嬉しい限りです。
機会があれば再び宜しくお願い致します!