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「今日も靴磨き?」

「うん。行ってきます」


 小さな古屋の扉を開けて、街道に出る。

 

 街は賑わっている。

 マルナが腕を失おうが関係なく、世界は変わらない。

 誰もマルナを見なくなった。

 ただそれだけのことだ。

 そう考えれば多少、気が楽になった。


「……いらっしゃい」


 右手に手袋をつけ、靴を磨く。

 なにも考えず、なにも思わず、淡々と黙々と。

 時間さえも体の外に放り出すように、ひたすらに仕事に従事する。

 わずかばかりの金を得て、安いパンと腐りかけの野菜を買う。そんな生活を繰り返していた。


 ぐぅ、と腹の虫が鳴った。

 井戸で汲んできた水を飲んで誤魔化す。妹の分だけでも食費はギリギリだった。


「――それであの義体屋のオッサン、魔法使えないんだろ?」


 ふと、会話が聞こえてきて顔を上げる。

 靴磨きに来た男がふたり、世間話に興じていた。

 聞き耳を立てながらマルナは手を動かす。


「違うって。あのオッサン、足が速くなる魔法の使い手だったらしい。騎士長様と互角の腕だったらしいぞ」

「足? ああ、だから引退したのか」

「まあな。走れなくなりゃ速くても関係ねえ」


 ……そうだったのか。

 男たちは雑談のなかで義体屋のオヤジを笑っていた。魔法が使えなくなった魔法騎士を笑っていた。

 ぐっと布を握りしめて、マルナは靴を磨き続けた。






 マルナは男たちが帰ってからも、義体屋のオヤジのことを考えていた。

 義体屋のオヤジは、義体職人のことを『こんな仕事』と蔑んでいた。決して稼ぎがいいわけでもないのだろう。決して楽な仕事じゃないんだろう。

 もしさっきの男たちの会話が本当なんだとしたら、それでも彼が義体をつくる理由がすこし分かった気がした。

 魔法を使えなくなったマルナの腕に、少しでも魔法を使える手をつけてくれた理由も。


「……謝らないと」


 日が暮れ、仕事が終わった。

 あした義体屋のオヤジのところに行こう。

 そう考えたときだった。


「地震だー!」


 街の高台にある鐘がカンカンと鳴った。

 その直後、大きな振動が街を襲った。

 

 まともに立っていられないくらいの強い揺れだった。

 マルナは地面にかがみ、周囲を見回す。

 近くの露店の柱が崩れ、その屋根がそばにいた老婦に落ちてくる。


「求めるは凍結・〝銀炎〟!」


 とっさに触れる。

 落下中の屋根は空中でピタリと停止する。

 だが、感覚でわかる。この魔法も弱体化してしまった。保って数秒だ。


「こっちに!」


 腕を引いて屋根の下から移動すると、屋根は音をたてて崩れ落ちた。

 老婦は胸をおさえながらマルナに感謝の言葉をつげてきた。

 それどころじゃない。


 まだ揺れが続くなか、マルナは走り出した。

 家は――カリナは無事なのか。


 ただそれだけを思って、家へと急いだ。




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