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 義体装備屋の工房の奥には、大きなベッドがあった。


 まえに腕の採寸をしたとき、なんでこんなところにベッドがあるのか気になっていた。その答えを、マルナは自分で横になって初めて知った。


「肘まで固定する。動くな」


 そうは言われてもベルトで縛り付けられて、動こうにも動けない。

 心配そうな顔で妹のカリナが見守るなか、義体屋の男はマルナの腕を眺める。肘のすこし先で途絶えた腕。マルナはまだ自分のソレを直視できず、目を背けていた。


「かなり痛むが、男なら耐えろよ」


 義体屋のオヤジは丸い金属の金具を、マルナの腕の切断面のすぐそばに腕輪のようにして装着すると、


「歯ァ食いしばれ」


 ガジャゴン、と細いボルトを皮膚に打ち込んだ。

 皮膚にじゃない。

 骨にだった。


「~~~~ッ!!」


 激痛が腕に走る。

 声にならない声が漏れた。

 拷問のような痛みが、一回、二回、三回と腕に打ち込まれた。


「なるべく神経は避けてる。麻酔すると後が大変なんだ。我慢しろボウズ」

「が……あっ……!」


 義体屋のオヤジは、近くにあった布をマルナの口に突っ込んだ。

 マルナは痛みに涙を浮かべながら、布を噛んで耐える。

 ちら、と視界の端でカリナが顔を青ざめていた。


 カリナの手前。

 文句の一つや二つ言いたかったが、気絶するわけにはいかなかった。

 マルナは額に汗をにじませながら、ベッドの上で天井を睨みつける。


「そうだ。その調子だ」


 義体屋のオヤジがボルトを打ち込み、そのあと義手を抱えてもってきた。

 腕に固定した接合部分をしばらくいじくりまわしてから、黒く鈍色に輝く義手をマルナの目の前に掲げた。


「おまえの腕だ」


 その義手を、接合部分に合わせると、一気に押し込む。

 金属が擦れる音、焦げた匂い、痛みが同時にやってきた。

 骨の中からハンマーで殴られたような激痛だった。


 でも、声には出さずに堪える。


「これでいい。すこし馴染むまで待つ」


 マルナは自分の肘の先についた黒い金属手を、どこか夢のような気分で眺めた。



 ―――――



「これで仕上げだ」


 義手の内部をいじりまわしていた手を止めて、オヤジはようやく息をついた。

 じんと擦れるような痛みは続いていた。

 激痛こそないがかなりの違和感。

 自分の肘の先に、重りがついているような感覚だった。


「動かしてみろ」


 固定していたベルトを外されると、マルナはゆっくりと上体を起こす。

 腕を動かしてみる。やっぱり重い。

 緊張しながら、指を動かしてみる。


「……動いた」


 思ったより、しっかりと動いた。

 親指からそれぞれの指を順番に動かす。動く幅はわずかに狭かったが、思った通りに指先が動いた。神経に接続した結合部も、さっきよりかなり痛みも引いて楽になっていた。


「それ、掴んでみろ」


 オヤジはテーブルの上に置いてあったマグカップを指さした。

 マルナはマグカップをうまく手で掴んで――


 バリンッ!


 と、マグカップが割れた。

 掴んだ感触はさすがにないから、力加減が難しい。


「……すみません」

「上出来だ」


 オヤジは喜びも悲しみもしなかった。

 仏頂面のまましっしっと手を払った。

 まるでもう用はないと言わんばかりの態度だった。


「あ……でも、お金……」

「いらん。俺が好きでやったことだ。それより、ある程度慣れたらまた来い」


 オヤジはもうマルナのことなんて見てなかった。

 すでに別の義手を組み立てる作業に移っていた。

 愛想のないオヤジだ。感謝も受け取る気はなさそうだった。


 マルナとカリナは頭を下げて、工房を後にした。


 店を出たとき、日はすでに暮れていた。

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