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「義手職人……? ああ、あのオッサンのことか」
休みの日は、靴磨きの仕事を手伝っている。
にぎやかな露店街の一番端で、マルナは客の靴を磨きながら顔を上げた。
隣で靴を磨いてもらっている客とマルナの客は知り合いらしい。どこかの商人のようで、ふたりは話に熱中していた。
「あの陰気くさいオヤジ、むかしは凄腕の魔法騎士だったらしいんだよ。このまえ騎士長様が店に入るの見たってうちのカミさんがよう」
「でもいまは義足だろ? むかしはどうあれ、義体屋なんてやってるなんてどう考えても落ちぶれてるじゃねえか」
「戦えなくなりゃあただの足手まといだからな。デカイ図体も邪魔なだけだ。元騎士様なら武具屋でもやってりゃあコネとかツテでもっと儲けれたのに、バカな男だよ」
「ちげえねえ」
笑い合う男たち。
マルナは淡々と聞きながら、靴磨きを終えた。
腕の防具を拵えてくれるように頼んだが、あくまで仕事。義理もなにもない。なにか言い返したりはしなかった。
どこかの貴族の家で社交会でもあるのか、客足は多かった。すこしでも稼いでおきたいマルナには嬉しい誤算。
そのあとも日が暮れるすこし前まで働いて、稼ぎを得た。
「マルナくん!」
仕事が終わり、買い物でもして帰ろうかと思った矢先だった。
露店街のなかを歩いてきたミレイが、マルナを見つけて声をかけてきた。
「靴磨きしてたの? おつかれさま」
「うん。そっちは?」
「わたしはお買い物だよ」
手に提げた籠には、野菜がたくさん入っている。
「料理、自分でするんだ」
「うん。だって一人暮らしだからね!」
そういえばミレイは異国人だ。
王立学校に通うためにこの街にいる。親は遠い国にいるんだろう。
「……大変だな」
「マルナくんほどじゃないよ。はい、これ」
そう言って差し出してきたのは小瓶。
透明な飲み物が入っていた。
「なにこれ?」
「ミントのソーダだよ。がんばったマルナくんにご褒美です」
べつに疲れてなんていなかったけど。
でも、その好意が嬉しくて素直に受け取った。
「ありが――」
とう、と言おうとしたその瞬間だった。
悲鳴が聞こえた。
露店街のむこうでいくつもの叫び声が重なった。
人々が慌てて街道の端に逃げる。
見えたのは暴走する馬車。
馬は興奮しているのか、何かから逃げるようにこっちへ迫ってくる。
騒ぎに気づいたミレイが振り返り、驚いて体を固めてしまった。
「危ない!」
迷いはなかった。
マルナはとっさにミレイの前に出て、右手をかざす。
「――求めるは凍結・〝銀炎〟!」
ピタリ、と。
かざした手に触れた瞬間、馬車は凍ったように停止した。
ぺたん、と地面に尻もちをつくミレイ。
「大丈夫?」
「あ、うん……ありがとう」
ミレイに手を差し出したその時、周囲の大人たちが何か叫んでいることに気づく。
馬車は止めたのに、なんだろう。
マルナが振り返った、その直後だった。
荷台が爆発した。
とっさにミレイをかばったのは本能だった。
荷台が爆発し、馬もろとも吹き飛んだ。
すぐそばにいたミレイを抱きかかえたマルナも、爆発の衝撃と風でなすすべなく飛ばされてしまった。
不運だったのは、ふたりが突っ込んだ近くの露店が魚屋だったこと。
そしてちょうどそのとき、大きな魚を捌いていたことだった。
調理場に突っ込んだマルナの右腕に包丁が突き刺さり、そのまま床に激突するときミレイの体と床に挟まれた腕はその圧力に耐えられず――――切断されてしまった。
こうしてマルナの右腕は、失われてしまった。