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ルドルフ歴58年6月14日

 町の道具屋をめぐり、長いロープを見て回った。

 そこで道具屋の親父に崖登りをする軽業師が居ないか聞いたが、そんな奇特な職業なものにはであったことが無いと言う。

 だが大型帆船の船乗りが良くロープを購入するそうだ。

 船ではロープが必需品らしい。

 海に落ちた人間を救助する。

 船を港に固定する。

 重い荷物を釣り上げて積み下ろしをする。

 高いマストに縄を渡して上るなど、縄のエキスパートとのこと。

 私は親父の得意先の帆船の船員を紹介してもらい、見学をさせてもらった。

 港から交易品の詰まった重い木箱を釣り上げて船に積み込む際はかなり太い綱を何重にも使っていた。

 結び方にもコツがあるらしい。

 そして船を陸付けさせているロープに興味を持って近づくと凄い剣幕で制止された。

 このロープは船の巨体を支えており、老朽化すればよく切れるそうだ。

 そして運悪く近くに居た人間の首を飛ばすことも有るという。

 船の中を見せてもらい、20メートルあるというマストの天辺まで伸びる縄梯子を見ていると、ニヤニヤしながら船員が近づき、登りたければ登ってもよいと言われた。

 私は縄梯子を掴んで登り、8メートルほど登って下を見て、恐怖した。

 縄は風で揺れ、たかが8メートルの下の地面が恐ろしく遠い。

 落ちればただでは済まないと考えると私は必死で縄梯子にしがみつき、動けなくなった。

 船員達は慣れているのか、別のマストにかかる縄梯子をひょいひょい登っていく。

 私は意識が遠くなりながらもようやく下へと降りた。


 このマストの天辺まででも20メートル。

 私が降りようとしているのはその倍以上。

 それを頼りなく風に揺れる縄にしがみ付いて命を預けるのだ。

 当初は携帯性を考えて一定間隔おきに結び目の付いたロープも視野に入れていたが……。

 論外だ。

 あんな恐ろしい高さ、大風が吹けば体は5メートルくらいは平気で揺れ動くだろう。

 頑丈な縄梯子にしなければならない。


 私は重量が掛かれば掛かるほど結び目が締まり、外れなくなる係留ロープの結び方を教えて貰い、船員に礼を言って船を降りた。

 その足で道具屋へ向かい、70メートルの最高級の縄梯子を注文した。

 それほど長い縄梯子は今まで注文されることが無かったそうで、ストックが無く、特注品となるそうだ。



 一週間後出来上がったということで私は道具屋へと赴いた。

 丸めた状態で木箱に入れてあったが、その重さと大きさが私の想像を超えていた。

 仕方なく筋肉隆々とした歩荷ぼっかを一人雇って自宅に運ばせた。

 だがこのタワケめ、ズカズカと断りもなく部屋の中に入り込んで、どかっと木箱を遠慮なく床に置きやがった。

 お陰で床板の一部がめり込んだ。

 慌てて謝罪していたが、そんなことも予想出来なかったのかこの筋肉馬鹿は。

 私はあまり部屋をじろじろ見られたくなかったので弁償はいいと追い払った。

 まぁ繊細な神経や観察力のない馬鹿で救われたが。

 棚の上に干し首を置きっぱなしにしていたからな。


 そしてここでようやく私は気が付いた。

 こんなものを持って洞窟を進むのだけでも大変だが、途中の浮遊する岩盤に飛び乗って運ぶのは不可能だ。

 思案したがほかに道は無い。

 私はこの縄梯子を二つの縄と、それを繋ぐ木の棒、全てをばらして少しずつ持ち込み、竪穴の前で組み立てることにした。

 それしか方法は無い。



 縄をばらし終わった。

 丸めて束ねた縄に腕を入れて肩で担ぎ、なんどか岩盤に飛び乗るイメージトレーニングをした。

 本当に命がけだ。畜生。



 何回かに分けてエセリアル界へ潜り、二つの縄の束は運び終わった。

 今回一番の難題が終わってホッとしている。

 あとは木の棒を袋に小分けにして運ぶ。



 エセリアル界に釘や金づちやペンチを持ち込んで4分の1ほど縄梯子をくみ上げた。

 大勢の人間を使えれば一日で終わる作業かも知れないが、私はこの秘密を誰にも漏らすことが出来ない。

 一人でやるしかないのだ。



 大家が尋ねてきた。

 また隣人が何かチクりやがったかと思ったが、私が最近ずっと籠っていること、食事の買い出しにもいかず、仕事や内職をやらなくなったので心配してきたらしい。

 家賃のだがな。

 私は以前商人から分捕った金で、一年分の家賃を先払いした。

 とたんににこやかな笑顔になりやがった。

 初めてだよ大家のあんな顔を見るのは。受け取ったならもう来るな。



 今日はここまで。

 残り半分くらいだろう。

 いろいろ動き回ったので疲れた。

 明日は休みたい。

 エセリアル界に作りかけの縄梯子を放置してあるが、食料でもないし、あの三つ目コウモリも興味を示さないだろう。

 おそらく大丈夫だ。

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