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ルドルフ歴58年6月24日(2)

 私は骨と化していた魔術師から手に入れたリング、それに封霊されていた精霊ティミドモスの力を発動したまま森の中を進んだ。

 道中、木々の上を移動する小型のサルのような生き物に出会ったが、サルはこちらに全く興味を示さずに移動していった。


 そして私はついに一つ目の目的地、石造りの廃墟へとたどり着いた。

 高さが3階ほどの大きさで、屋根の上から上方へ突き出した長い突起があった。

 建物全体が蔦植物で覆われており、既に年月で腐食したせいか半壊し、建物の4分の1ほどが崩れ落ちて、中の部屋が露出していた。

 その塔の最上階、3階で何かが黄金色に輝いているのを見つけ、私は登ることにした。

 1階の階段は崩れ落ちていたものの、崩れて露出した外壁が斜めの階段状になっていたので、私はそこを這いながら登った。

 3階に辿り着き、部屋の中央を見ると円形の鏡を中心にした金属製の装飾が床に張り付いている。

 鏡の中を覗き込むと、大きな空間があるよう見えたが私は気がついた。

 ここに見えているのは他の別の塔の、同じ鏡を鏡の中から見た風景。

 つまり屋根と空が映っているのである。

 ただの鏡ではない。

 なにせ、私の姿が映っていないのだから。

 遠くから見て黄金色に輝いて見えたのは、鏡の中に映る別の塔の天井に浮遊する、小さな太陽のような物の光が天井の装飾具に反射していたからである。

 このとき、私は鏡の周囲の装飾具が、鏡を中心に回転出来ることに気が付いた。

 回転出来る装飾具には一か所、大きな穴が開いており、その下の装飾が見えるようになっている。

 試しに少し回転させていると、大きな穴の下に見たことのある記号が現れた。

 すると鏡が一瞬光を発し、別の風景を映し出した。

 覗いてみるとまた別の塔の天井である。

 その塔には浮遊する小型の太陽はなく、私が立っている塔と同じく、天井に装飾具があるのみ。

 その装飾具にも中央に鏡のようなものがあり、回転できるようになっている。

 もしやと思い、私は天井の装飾具を回転させた。

 すると装飾具に空いた大きな穴に別な記号が現れ、今まで薄汚れた金属でしかなかった中央の鏡が発光し、別の塔のこんどは床を映し出した。


 私は骨から手に入れたスクロールを再び取り出して仕掛けに関する記述箇所を再び見た。

 間違いなく、このスクロールはこの装飾具のセット位置を示している。

 星座のように見える記号の下に、2種類の記号が縦に並べて記載してあり、途中が腐食しているがそのまとまりが12は記載された痕跡があった。

 そして一番左にある纏まりの下側の記号は太陽のマーク。

 私がここに来た時に初めからセットしてあったマークである。

 私は部屋を見回した。

 必ずあるはずだ。

 そして予想通りそれはあったのだ。

 スクロールに記載された星座のようなマーク。

 それが彫り込まれたプレートが天井近くの壁に貼り付けてある。

 つまり、全ての……おそらく12の塔の床と天井の鏡を正しい位置にセットしなければならないのだ。

 私が居る塔は前から3番目、セット位置の記載は辛うじて読める。

 興奮気味に装飾具を回転させていると、ある紋章に合わせた時に、塔では無い空間を鏡が映し出した。

 真っ暗な空間であったが、塔の外からの光が鏡の中の空間を照らし出す。

 中には2メートルほどの大きさの、しわくちゃの黒い顔があった。

 その顔はまぶしそうにこちらを見て、私と目が合った。

 途端にティミドモスの作る空間が大きく波打つ。

 私は慌てて装飾具をさらに回転させて鏡の中の風景を変えた。


 鏡のセットを終えた私はしばらくその場で休憩していたが地響きを感じて塔の窓から周囲を伺った。

 すると身長20メートルほどのひょろっとした人間のような体系の巨人がこちらへ向かって来ているのを見つけた。

 私は慌てて塔を降りて巨人と反対側の森の木の裏に身を隠した。

 巨人は地響きを立てながら塔に歩み寄ると、崩れた壁から中を念入りに覗き込んでいる。

 そして巨人の背中側から塔にサルのような生き物が飛び移った。

 カラカラと音がする。

 私が合わせた鏡の位置を変更しているのだ。

 スクロールの端に記述が読めたが私は特に気にしなかった『ガーディアン』の文字。

 おそらくこの巨人がガーディアンなのだ。

 あの手に捕まれば、たやすく人間は胴体を引き千切られるだろう。

 ……いや、その犠牲者はおそらく居たのだろう……。

 これほどの危険の中で、12もの塔を探索して試行錯誤を繰り返し、正解のパターンを見つけ出すとは黄金の鷲の魔術師達には恐れ入った。

 それにしても、あのガーディアンを封霊出来たら……、いや、今は無謀な事を考えるのは止そう。

 今の私がとてもかなう相手ではない。


 私は辛抱強くガーディアンがその塔から立ち去って姿が完全に見えなくなるまで待った。

 そして再び塔に登り、こんどはガーディアンを引き当てないように逆回りで鏡をセットした。


 元の世界であれば日が暮れている頃だろうが、この洞窟には夜が無い。

 はるか上空の天井を這いまわる無数の輝くコガネムシ達が休む様子は無い。

 私は巨人に見つかることを避けて、森の木の一つに登り、枝の上に体を固定して眠った。

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