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一粒短編集  作者: はな豆
2/6

トキ☆メキ

 春! 麗らかな春!

 いよいよ来たよ、門出の日!

 三年間求めてた、トキメク恋は無かったけれど!

 私達は今! 卒業するのです!



「何くだらないこと言ってんの」

「何よぉ! 私の高校生活に対する思いを! 悔いを! 空野(そらの)は馬鹿にするのかね!」

「馬鹿にしてんじゃなくて、呆れてるの。明日で卒業するのに今さら悔いてどうするのさ」

 そう。この女、空野が言う通り明日! 私達は高校を卒業するのだ!

 でもね!

「ぐぁぁああっ! 悔しいよっ悔しすぎるよっ! 私が望んでいたドキドキのラブイベントが何も起こらないなんてっ! 廊下でぶつかったら『すみません』で終わるし! 隣の席になっても会話なし! 体育館裏への呼び出しなんて幻だっ」

――ピロロロンッ

『キタキタ! 今がチャンスだよっ』

 私の熱い思いと反して、空野が手にしている携帯ゲーム機から無機質な(おと)が鳴る。

「んー、とりあえず時栄(ときえ)。黙っとって。こっちチャンスタイム来たから」

「ひどいっ! ゲームに心を捧げた挙句、プログラミング的なことを専門とする大学に進学することを決めた空野、なんて子なの!」

「紹介どーも。青春とは恋であるという仮定を信じ込んだ挙句、友達が全然作れなくて部活にのみ熱を注いだ結果スポーツ進学する時栄。大学では迷走すんなよ」

 大丈夫! 陸上は真っ直ぐ走れば良いからね!

「……ん? いやいや、空野よ。今、何か引っかかることを言わなかったかな? 真実とは異なることを言わなかったかな?」 

「友達がいない?」

 It's it(それだっ)

「いるよっ!」

「え?」

「何その反応! いるよ! 普通にいるって!」

「え……誰?」

「空野」

「一人かい」

「ぐはっ」

 確かに、空野が言っていることは正しい。

 トキメク恋を探すことに夢中になっていた私は、常に恋愛対象になりそうな男子のリサーチばかりしていた。

 それが原因で、友達作りをするのをすっかり忘れてしまったのだ。おかげで高校三年間で友達といえる人間は、偶々購買で同じあんパンを取り合ったことから仲良くなった空野くらい。

 正直部活も、出会いの場として良いかなーという理由で入部したのだ。それが進学に繋がるとは思わなかったけれど。

「ていうかさー」

 まだ何かあるのか。奴は私の心を(えぐ)り足りないのか!?

「そんな不純な動機で部活までしてたけど、そもそも時栄って恋したことあるの?」

「ない!」

「まじか」

 まじです。

 というか、それがトキメク恋を探す理由なのだ。



 幼い頃、私の周りはトキメキで溢れていた。

 ひとつずつ手に取ったツツジの蜜の味。

 走っても走っても見えない地平線。

 団地に現る狸の噂。

 そして、女の子の恋バナ――。

「脈略ないな」

 私にとってはあるんじゃい。

 そんなトキメキがある生活の中に常に存在していたものがある。それが恋だ。

 私が感じてきたトキメキとは違うであろうその気持ちは、一体どんなものなのか。

 私はそれを知りたいのだ!

「はーっ、結局高校(ここ)は運命の出会いの場ではなかったってことかー! 辛いー!」

 そんな風に一人で騒いでいると、空野が何か思いついたようにこちらに顔を向けた。その時にゲーム機から『ピコーン!』という音が聞こえたせいなのかもしれない。

「出会いならあったんじゃない?」

「え! どこ!? 私が運命を逃すなんてなんたる失態! 教えて空野ーっ」

「私」

「は?」

 空野……だと……?

 いや、空野は友達じゃん。

「うん友達。唯一の友達だろ? 私」

「うん」

「私にはお前の他に友達はいるけど」

「それは余計!」

 何を言いたいのだ、奴は。

「よく分からんけどさ。私は運命ってものはないと思う」

 へ?

「運命ってさ、結局は偶然を響き良く言い換えた言葉だと思うんだよね。で、私は時栄と偶然出会った訳だ」

 はぁ。

「だから、運命なんて重苦しく捉えるんじゃなくて、偶然を探しに行くって考えた方が良い出会いを沢山することが出来るんじゃない?」

「ほあーっ、運命じゃなくて偶然かぁ。うんうんそれ良いね! 焦らずに待つことが大事ってことか! このフレーズ凄くトキメクね!」

「あ、これ分かっとらん奴」



「それよりも」

「うん?」

「反省文はいつ書き終わるの?」

「えっ」

「卒業式の予行練習であんなくだらないことを突然叫んだから、卒業前日なのに放課後に残ってるんじゃん」

「えっと……」

「こんなんで大丈夫なの?」

「んー……ちょっと、偶然の出会い探してきても良い?」



「時栄、ちなみになんだけど」

「?」

「恋のトキメキは他よりも苦しいものだったりするから、知って凄く嬉しいものでもないよ」

「空野、恋してたのか」

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