ふわふわ
「ふわふわした現実の中で生きるって、素晴らしいことよね!」
あの子の口癖。
「だって、こーんな堅苦しい世界なんてつまらないじゃない」
あの子の理想。
「だから、決めたんだ」
あの子の決意。
「この世界とはオサラバしようってね!」
――――――
私には、幼馴染がいた。
なんという偶然か、生まれた病院も生まれた日付も同じ。家は同じマンションのお隣さん。
だから、私は彼女といつも一緒にいた。
一緒にいたのだ。
けれど、私と彼女は何もかも反対だった。
性別も反対。
性格も反対。
成績も反対。
髪型も反対。
人の好みも反対。
好きな色も反対。
好きな食べ物も反対。
挙げていったらキリがない。
でも、一緒にいたのだ。
――――――
そんな彼女がある日、不思議なことを言った。
『ふわふわした現実の中で生きるって、素晴らしいことよね!』
『だって、こーんな堅苦しい世界なんてつまらないじゃない』
『だから、決めたんだ』
『この世界とはオサラバしようってね!』
あぁ、確かその後にこんなことも。
『あたしに付いてくる勇気はあるかい?』
さてさて。いつから私は彼女のパーティーに入っていたのだろうか。
たぶん、最初からだな。
――――――
「おや、なんだいなんだい。怖い顔しちゃって」
待ち合わせは、私たちが住んでいるマンションの屋上だった。
「もしかして、これから始まる冒険の旅にドキドキしてるのかな!」
床には、昔二人でお絵描きに使っていたチョークで、何やら怪しい文様やら陣が描かれていた。
「実はね、あたしもなんだ。早く“ふわふわ”した世界に飛び込みたいよ」
いつにも増して楽しそうなあの子。目の中の星がきらきらと輝いて見える。
生まれてからずっと一緒にいたあの子。
「ねぇ、準備は出来てる? あたしはいつでも行けるよ!」
一緒だったあの子。
「君と一緒なら、何があってもどこへ行っても怖くないよ」
一緒だった。
「だから――」
「ごめん。一緒に行けない」
星が流れていく。ふわふわした世界の中に。
終