海の水面に浮かぶ月
―月。
それを目指して、水底から伸びやかな白く艶めかしい手指が伸びた。
人差し指の先は僅かに月の仄かな温かみを掠ったかに見えた。
だがそれは所詮、儚いただのマボロシ。
徒に揺れて彼女を焦らすと、水の狭間に溶け消えて去っていった。
―届かない。
そう、届かない。
白い手は、美しい声は、そして切ない想いは、あの月に届かない。
彼女は今もこの冷たくて優しい海に抱きとめられて、捕えられていて、……閉じ込められているのだから。
―でも苦しくて、ただ息が苦しくて。
何故?マーメイドなのに?あり得ない。
彼女は自嘲する様に疑問の言葉を放った。
―けれどその問いに応えは、無い。
ただ、じぃ、と水面を見上げた彼女の瞳の中。
その中で、揺蕩う水に黒絹の長い髪が踊り、いつまでも月明かりの欠片達と戯れていた。
つい、思いついた勢いのままでやってしまった……orz