第12話 噂は風に乗り、馬たちと駆け回る
馬たちが四頭で隊列を組んで歩く姿は、遠目から見ると壮観だった。
以前は怯えていたリーフとフェザーが、今やアンバーをアニキ分として慕い、主が手綱を緩めても逸れずに付いてくる。
『もはや聖女の旅路というより、動物王国の行進だな』
オイラの呆れたため息が幾度となく漏れる、そんな旅の道中。
街道沿いの茶屋に立ち寄った際、商人たちがヒソヒソと話しているのが耳に入った。つい気になって耳を澄ませたオイラは、開いた口が塞がらなくなったのだった。
「聞いたか? 狂馬を一瞬で手懐け、悪ガキを空に放り投げて改心させた『白銀の英雄と温かい光の聖女』の話」
「ああ、なんでも聖女様が微笑むだけで枯れ木に花が咲き、凶悪な犯罪者が涙を流して自首したとか……」
「聖女様が指を鳴らせば凶悪な魔物も大人しくなり、英雄様はその一撃で山を割ったらしいぞ!」
「オラは、聖女が英雄を従えて、悪ガキを空に飛ばしながらやってくるって聞いたぞ?」
さすがは噂だ。尾ひれがついて、恐ろしいことになっている。
「ふふっ、まるでお伽話ね。そんなに凄い方が辺境に向かっているのなら、心強いわ」
と、完全に他人事として楽しそうに聞いている超ド級の無自覚っぷりは健在で。さらには――。
「……イリス、あの噂のモデルは絶対に君だ! いや、むしろ過小評価されている! 君が微笑めば世界中の火山が沈静化してもおかしくない! ああっ! あそこの商人が君をチラチラ見ていたぞ! さては君の聖性に当てられて、不浄な考えを……! 漆黒号、突撃の準備だ!」
とデレデレしているヴァン。こちらも変態っぷりは健在だ。そんなヴァンにお灸を据えるために、オイラは口を開いた。
『……落ち着け、不浄なのはお前の脳内だ。そして、やめておけ。男が安っぽく力を誇示するなど、器の小ささを露呈するだけだ。騒がしい。少しは静かに、あの子の隣を歩くに相応しい品位を持て』
そう言うと、ヴァンは一転、「あ、ああ、そうだな」とタジタジし始めた。
「……なんだか、今のシャドーの話し方、本当にお父様に叱られているみたいに感じたわ。ふふっ、懐かしい気持ちになってしまったわね」
『……ふん、あんな頑固親父と一緒にされては堪らんな。オイラはただの、性悪な猫さ』
と顔を背けたが、尻尾が少しだけ照れたように動いてしまった。
そうこうしていると、街道の先に、バルクレイ辺境伯領の巨大な監視塔が見えてきた。
「あそこを越えれば、俺の故郷だ。……イリス、あそこでお前と、新しい家族と過ごせるのが、俺は今から楽しみで仕方ないんだ」
「あの先が……。新しい場所で、受け入れてもらえるかしら?」
「大丈夫だ! 不自由があれば俺に言ってくれ。必ず住み心地の良い空間を作ってみせるからな! それに俺の故郷は、こいつら四頭がいくら草を食んでもなくならないほど広い草原もあるんだ。きっと、こいつらも気に入ってくれるだろう」
「まあ、そうなのね。ヴァン、頼りにしているわね」
新しい生活への期待を語り合う二人。
――一方、辺境の街では「とんでもない聖女が英雄を従えてやってくる」という噂が爆発寸前になっているのだった。




