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9 馬車


 冒険者カードを見せると、あっさりと城門を通れた。

 通行料もいらないらしい。

 冒険者はお得だ。


 討伐対象の背火鬼熊ハッピイグリザルが出没した村まではリトマスから馬車で半日ほどかかるらしい。

 森と草原の狭間に街道が延々と続いている。


「歩くのだるい。おんぶして」


 私はアルニャンの華奢な背中にお尻を乗っけた。


「おんぶってこれ、ヒッププレスニャ……」


「誰の尻がプレス機だって?」


「ぶニャァ、重いニャ……」


「そういうときは発想の転換だよ。私が重いんじゃない、あんたが非力なんだ」


「妖精虐待だニャア……」


 アルニャンはいちおう踏ん張っているが、私の体は1ミリとて動かない。

 お尻がもぞもぞするだけ。


「んだよ、騎乗できねえのかよ。ホント可愛い以外取り柄のない奴だなお前はスゥゥハアアア」


 吸うとフローラルな香りがする。

 癒やされる……。


「そうだよなぁ。ペットって可愛いだけで合格だよなぁ」


 そのほかの用途とかいらないのだ。

 利用しようとか思っちゃいけないんだ。

 私が悪かった!


「心外ニャ! ペットじゃないニャ! 相棒だニャ! 吸ってないで、さっさと乗るニャンよ!」


「お、本気出しちゃう? へんげとかしちゃう?」


「ぶニャアア……!」


 アルニャンは小さな足を懸命に動かしている。

 私もしゃがみ歩きでじりじり前に進む。

 おお、進んだ進んだ、50センチ!


「オホホ! そのロバにも劣る惨めな畜生は一体なんですの?」


 隣に停まった馬車の中から渦巻き頭が見下ろしている。

 領主令嬢エンヴィリッタ。

 これから依頼らしく、煌びやかな革鎧を身につけている。


 その背後には神がかり的なイケメンがいる。

 ルシウス君だ。

 狭い車内でわざわざ背伸びして私を見つめている。

 やだ、ウルトラ恥ずかしい。

 私は惨めな畜生から下馬した。

 お疲れ、アルニャン。

 今度はあんたが騎乗しな。

 私の頭あたりにな。


「オホホ! 下々の者は大変ですのことね。わたくしが快適な馬車の旅を楽しんでいる間、あなたはせいぜいその珍獣とお散歩していらっしゃいな。あなたが到着する頃にはきっと片付いておりますのことよ。それではぁ~!」


 この口調だと、依頼がバッティングしていることを向こうさんも知っているらしい。

 馬車が走り出す直前、エンヴィリッタがルシウス君にしなだれかかるのが見えた。


「むぐぅ、なんか悔しいニャ」


「シーナ、語尾がボクみたいになってるニャよ?」


「口閉じてな。舌噛むよ、アルニャン!」


「……にゃフ!?」


 私はクラウチング・スタートから一気に風になった。

 イケメンと快適馬車の旅には勝てんが、せめて馬の足には勝ってやる。

 わいを舐めんなよ。

 シュババババ、と全力疾走し、あっという間に追い抜く。


「な、ななな、なんて速さですのぉ!?」


 とか、


「すごい! さすが漆黒のシーナさんだ!」


 とか後ろから聞こえた。

 あ、でも、あれだな。

 身体能力10倍ということは消費カロリーも10倍だ。

 省エネするか。


 私は途中の茂みに身を隠し、エンヴィリッタの馬車にこっそり張り付いた。

 御者の死角に身を隠したところで、甘い会話が漏れ聞こえてくる。


「ああん。わたくしのルシウス!」


「くっ。やめてくれ、エンヴィリッタ」


「何をおっしゃいますの。ほら、膝まくらですのことよ~!」


「くっ」


 今の、くっ、は私の口から出た。

 まじやめてくれよぉ。

 どっちがどっちに膝まくらしてんだよ。

 気になって省エネどころじゃねえ。


「ああんっ!」


 あーん……。


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