7 冒険者ギルド
冒険者ギルド・リトマス支部。
煌びやかな目抜き通りにある割にはアングラな雰囲気がある。
中でたむろしているのも荒んだ目つきの連中ばかり。
それがつまり冒険者ってこったろう。
私もこれからその一員になる。
夢のカタログギフト生活目指して魔物狩りに明け暮れようと思っている。
お金も稼げて一石二鳥。
さあ、私のウハウハ・セカンドライフの幕開けだ。
「ヘイ、ネエちゃん!」
私はカウンターテーブルに寄りかかって、人差し指で帽子のツバを持ち上げた。
ちなみに、帽子はかぶっていない。
エア帽子だ。
「はい。本日はどのようなご用件でしょう?」
『リズ』というネームタグをつけた受付嬢が涼しい顔でそう返す。
冒険者からのダル絡みには慣れてますって感じ。
私はスッと背筋を伸ばした。
「冒険者になりたいんですけど。身分証とか持ってなくて、あはは」
「大丈夫ですよ。冒険者登録をすれば、冒険者カードが身分証になりますので」
そっかそっか。
そりゃよかった。
じゃ、この際だ。
「シーナ・紅蓮・カタギリとか、シーナ・荒苦雷・カタギリとかに改名するのもありだな」
「本名でのみ、ご登録いただけます」
「シーナ・おぴょぴょっぽよ・カタギリ」
「ダサくしてもダメです」
「ちっ」
「それでは、『シーナ・カタギリ』で登録いたしますね」
軽くあしらわれて悔しい。
これが場数を積んだ受付嬢か。
強い……。
「闇属性の魔力をお持ちとは珍しいですね」
登録用紙の魔法適性欄に『闇』と書き込みながら、リズがそう言う。
闇?
私が?
「どうしてわかるの?」
「っ? 髪の色ですよ。髪は一番表面積が広いですからね、魔力適性が表れやすいのです」
どうやら知っていて当然の知識だったらしい。
苦笑いされちゃった……。
「赤毛の方は火属性が多いですし、青系は水や氷ですね。必ずしもではないのですが」
なるほど。
私は黒髪だから闇ってか。
ま、異世界人の私に関係あるのかは疑問だが。
つか、プロフィールに『闇』とか書かれるの嫌だな。
「もしかして、闇属性って忌避されてたりします?」
あはは私田舎出身なもんで世俗に疎いんだっぺ、とか言いながら尋ねる。
「闇というと魔に連なるものの属性ですからね。好意的に受け取られることは少ないでしょうし、ご苦労されるかもしれませんね」
リズは言葉を選んだうえで笑顔まで添えてくれた。
ええ人や。
「魔に連なるもの……」
魔王の眷属――魔物。
町の人たちが冷たい目で見てきたのはそういう事情か。
そういえば、アルニャンは黒犬の亡骸から出てきた黒いものを吸い込んでいた。
あれが闇の魔力?
ん、でも、アルニャンは精霊って呼んでたな。
この世界の設定、よくわからん。
「志望されるジョブは『妖精使い』でよろしいですか?」
リズはちらりとアルニャンに目を向けた。
妖精は認識されにくいらしいけど、さすがにカウンターテーブルでお股おっぴろげにして毛づくろいしていたら気づかないはずもない。
「あ、こいつは可愛いから飼っているだけで、可愛くなけりゃ捨ててます。マスコットかなんかだと思ってください」
「ニャ……」
「そうでしたか。でしたら、『魔術師』か『神官職』ですか?」
「ええっと、なんだろ、ゴリラみたいなジョブってあります?」
「拳闘士などが比較的ゴリラに近しいかと」
馬鹿丁寧な口調で言うものだから、私は噴き出しそうになってしまった。
リズもちょっと口元が怪しくなっている。
「じゃ、それで」
「ファイター職で本当によろしいのですか?」
リズは困った子を見るような目をしている。
「まことに失礼ながら、リトマスで女性が冒険者をするのは大変なことなのですよ? ここは魔王領が近いですので」
そうなのか。
城門周りがやたら厳重だったのもそのせいか。
「取り扱っているのも魔物の討伐依頼が中心で、薬草採取などもあるにはありますが、やはり魔物と遭遇するリスクが非常に高いのです」
ロビーにはむくつけき男たちがずらり。
女冒険者もいるにはいる。
でも、神官みたいな格好の子が多い。
主役はマッチョ。
早い話が、我ら非力な女子はおとなしくサポート役をやってろってこった。
「大変申し上げにくいのですが、シーナさんには適性試験を受けていただきます」
リズは有無を言わさぬ口調だ。
声の節々に田舎上がりのアホな子をたしなめるような響きがある。
「少々お待ちください。試験官の方を手配いたしますので」
「それには及ばねえぜェ。ギャハハ!」
熊みたいな男がノッシノッシとやってきた。
鎧のような筋肉に、岩石じみた拳ダコ。
ほんまもんのファイター様の登場だった。
「使い物になるかどうか、このオレ様が確かめてやらァ! ギャハハハハ!」
馬鹿笑いしながら大男は私の尻を――むにゅ。
触った。
しかも、揉み揉みする感じで。
私の腹の底で修羅が爆ぜた。
「ギャハ! こんな貧弱な尻で戦――」
「セクハラ死ねやアアアアアアアアア!!」
私の全力全開アッパーが大男のデカイあごに炸裂。
巨体がテイクオフして天井にぶっ刺さった。
ぱらぱら、と木っ端が落ちてくる。
「てんめえクソジジイごらァ! 刺さってんじゃねえよ! 下りてこいやボケおらァ! もういっぺん殴らせろやオオッ!」
「し、シーナさん! あ、あの……!」
リズが泣きそうな顔でカウンター越しにしがみついてくる。
なんだコラあん?
「い、今ぶっ飛ばしたのが試験官のドエリザベスさんです! ちなみに、女性です!」
「あん? ………………おう」
私は急にトーンダウンした。
居合わせた冒険者たちが凍り付いている。
やりすぎたか。
ごめんよ。
「で? 合格でおっけ?」
「いいと思います合格で。リトマスで一番強い冒険者があのザマですし……」
「ならヨシ」
「ぶニャぁ……」
私にしがみつくリズ、……の下敷きにされたアルニャンがそんな声で鳴く。
こうして、私は冒険者になったのだった。




