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6 町


 森を抜けると、町が見えた。

 城壁都市。

 それなりに大きいけど、私の世界の町と比べたら鼻くそみたいなものだ。

 やーい、鼻くそー!


「通れそうにないな」


 城門はかなり厳重に警備されている。

 行商人らしき人たちは通行手形的なものを見せて通行料を支払っている。

 どっちもない私が通れないのは自明の理。


「シーナ、ボクなら盗めるニャよ?」


 肩の上からアルニャンがそうささやく。

 悪魔のささやきだ。

 私の中の女神が「ダメですよ、シーナさん」と頬を膨らませる。

 女神の意見を採用する。

 通行手形を盗めば私たちは町に入れるだろう。

 でも、はるばる歩いてきた人が立ち往生してしまう。

 あんまりだ。


「私さ、ルールを破るの嫌いなんだよね。絶対に車来ないとわかってても赤信号なら渡らない派」


 通れないなら通らない。

 ズルはダメ。

 ルールを破ったり、人に迷惑をかけたり、こういうの一番嫌いだ。


 そういうわけで、城門から離れる。

 城壁に沿って歩き、人目がないことを入念に確認。

 そして、助走をつけ、――ジャンプ。

 城壁をタン、タン、と蹴って壁上へ。


「おっし。誰もいないな……」


 忍者みたいな動きで城壁を飛び降り、はい!


「侵入成功!」


「ニャ……。ルール破るの嫌いじゃなかったかニャ?」


 アルニャンが胡乱な目で見てくる。


「私さ、越えられる壁の前でいじけてる奴、嫌いなんだよね。思い切って飛び越えてみたい派」


「ただの不法侵入だニャ……」


 盗むよりはイイ。

 イイってことは善ってことだ。

 私は今とても素晴らしい行いをした!

 胸を張って町を歩こうと思う!


「町の名前はリトマスか。色が変わりそうな町だな。うっかり変な液体こぼさないようにしないと」


 地図が張られた掲示板を見ながら私はそんなことを言った。

 なんとなく町に来てみたが、これから私どうすりゃいいんだコレ……。

 とりあえず、飯代アゴ宿代マクラを確保しないと。

 いちおう、この世界の文字は読めるみたいだけど、読み書き算術できるくらいで異世界人の私を雇ってくれるところがあるものだろうか。


「ねえ、アルニャン」


「ニャ?」


「ほんとマジ1回だけ、あんたを売ってみていい? 私お金欲しい」


「ニャァ……」


 肩口でよく見えないが、すげえ嫌そうな顔をされたのは鳴き声でわかった。


 地図に『冒険者ギルド・リトマス支部』と書かれているのを見つけた。

 冒険者か。

 異世界モノの王道職業。

 魔物とかと戦うんだろうし、GP集めにはうってつけだ。

 とりま、ここに向かってみるか。


「それにしても……」


 通りを歩いていると、すれ違う人の半分が私を振り返るか、二度見していく。

 この町の人たちはアジア人と欧米人の中間の顔立ちだ。

 私の顔が特別浮いているとは思えないけど。

 私に一目惚れって感じでもねえな。

 心なしか視線に冷たいものを感じる……。


「やっぱ泥棒猫なんぞ連れていると反社認定されるのかな。日が高いうちから往来歩いてスンマセン」


「妖精は存在がおぼろげニャから、注意深く見てないと認識できないニャン。見られる理由はたぶんシーナにあるニャ」


「私に?」


「黒髪は珍しいニャン」


「なるへそ」


 言われてみれば、私以外には見かけない。

 というか、赤毛とかオレンジ頭とか白とか青とか、とにかくカラフルだ。

 チューリップ畑みたい。

 赤と白のツートンカラージジイまでいやがる。

 めでてえな。


「髪はこの帽子で隠せばいいニャ」


 アルニャンが私の顔の前でハンチング帽を振る。

 そこはかとなく香る加齢臭。


「それ、どこで拾ったの?」


 私は嫌な予感を覚えて振り返った。

 さっきすれ違いざまに私に一瞥くれやがった帽子のおっさんがハゲのおっさんにジョブチェンしている。

 盗みやがったな、ネコザルてめえオオ?


「シーナ、待ってほしいニャ」


 アルニャンは馬鹿真面目な顔で言い訳の構えを見せる。

 盗みを正当化できるロジックがあるってんなら聞こうじゃねえか。


「ボクの盗みは幸せな盗みなんだニャ」


「幸せな盗み?」


「あれを見てほしいニャ」


 とアルニャンが尻尾で指し示すのはおっさんのハゲ頭だ。


「ほら、あのオジサン、少し髪が増えている気がしニャい?」


 いや、他人の毛量、注意して見てないんだわ……。


「あれ、オレの帽子がねえ……」


 やっべ。

 バレてまう……!

 私はささっと植え込みの陰に身を隠した。


「おめえさんにしては迂闊だな。ハゲ頭気にして年中かぶってんのに。……ってオレよか髪あるじゃねえか」


「あっれ? オレの髪こんなにボリューミーだったか? おっかしいな。でも、ヘヘ! 若返った気分だぜ!」


「よかったな!」


「おうよ!」


 ハゲのおっさんは連れのおっさんとそんな話で盛り上がっている。


「ほらニャン!」


 アルニャンが誇らしげに胸を張った。


「ボクはたしかに物を盗むニャ。でも、等価交換ニャ。盗んだものと等価の加護を与えてるニャ」


 それで幸せな盗みとか言っているのか。


「ボクの夢はニャ、盗みで世界中の人を幸せにすることなんだニャン!」


 なんだ、そのイカれた夢。


「でも、帽子ひとつでハゲ克服って等価なの?」


「3日で抜け落ちるニャン」


「うわ、ひっでえ……。おっさんの心をもてあそんで楽しいか、お前」


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