表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/16

5 盗っ人妖精


「ボクはアルシーフェ。助けてくれてありがとニャン!」


 ネコザルは木の根にちょこんと座って、あなたはだぁれ? って顔で私を見上げている。

 名乗られたからには、こちらも応じずにはおれぬ。


「私はシーナ。女神に遣わされしゴリラ女とでも名乗っておこうか。握力? 300キロっ!」


 私はお茶目にウィンクしながらピースした。

 うぜえだろ?


「で、アルニャンはなんで追われていたの?」


 私は黒犬の残骸をチラと見た。

 犬猿の仲だから?

 そもそもお前は猫なのか猿なのか。


「ボクがアイツらの巣からこれを盗んだからだニャ」


 長い巻き尾が艶やかな白いものを差し出してくる。

 骨だ。

 これぞ骨って感じの骨。


「なんでまた犬畜生なんぞから盗みを働こうなんて思ったのさ?」


「それはボクが盗っ人妖精だからだニャ。――ぷんぷんヴァー!」


 うお!?

 なんだよ急に……。

 変な声出しやがって。

 ちょっとびっくりしちゃったじゃねえか。


「つか妖精とかいるんだ、この世界」


 微妙に光っているのも妖精だからか。


「盗っ人妖精っていかにも盗みを働きそうだね」


 アルニャンはニャンと頷いた。


「ほら、気づくとモノがなくなっていることがあるニャろ? あれ、ボクたちの仕業なんだニャ」


 私は骨でニャンコを殴った。

 ぽこん。


「な、ニャんで殴るんだニャ!?」


「怒りの再燃、かな。思い出し怒りともいう」


 あれ、腹立つんだよな。

 どこだよと。

 なんでねえんだよと。

 クソため息が出る。

 出かける間際に鍵とかスマホとかなくなってみろ。

 もういっそ何もかも壊して更地にしたくなってくる。

 お前らのせいだったか。

 決定、やっぱお前マフラーな?


「シーナは乱暴だニャ……。自認ゴリラ女なのも納得ニャ。――だっぷんゴオォ!」


「おい。なんなんだよ、さっきから」


 私はアルニャンの顔をにゅん、と両手で潰した。

 なんでこいつ、ちょくちょく奇声上げやがる。


「ごめんニャ。妖精って知覚されにくいニャから、こうして注意を引かないとしゃべってる最中でも突然忘れられることがあるんだニャ。――むんむんモン!」


 それでこいつはイカれた語尾で強引なキャラ付けしてんのか。

 たしかに、存在感が希薄ではある。

 でも、安心せえ。

 猫みたいな猿みたいな流暢にしゃべるコソ泥の妖精を突然忘れたりするか。


「んしょっと」


 私は古木の根を椅子にしてじっくりアルニャンを観察した。


「なんだニャ?」


「あんたって売れば高値がつくレア妖精だったりする?」


 女神が私をこんな辺鄙な森の中に送り込んだのは、たぶん、アルニャンを助けさせるためだろう。

 この子が私のセカンドライフのキーパーソンってこった。


「ふにゃん」


 アルニャンは私の脚をまくらにして、ごろんとヘソ天になった。

 どう?

 このポーズ、可愛いでしょ?

 って感じでニャンニャンしている。

 うんまあ可愛い。

 それで?


「売らないでほしいニャン! お役に立つから可愛がってほしいニャ!」


「私についてくるってこと?」


「盗っ人妖精は盗むだけニャ。借りたりしないニャ。借りたものは返さなきゃいけないニャン」


 命の恩人に恩返ししたいってか。


「命の借りは一生かけて返すニャ!」


 アルニャンは大きな瞳にやる気の炎をたぎらせている。


「そっか。なら、ついてきな」


 私も異世界のガイド役がほしかったところだ。

 可愛い連れは大歓迎よ。


「シーナとは仲良くできそうだニャ!」


「どうして?」


「ほら、ボクらすぐ物を盗むから嫌われ者ニャ。でも、キミは盗まれるものをフッ、何も持ってないから――ぶニャ?! 痛いニャ……」


「おっと悪い。フッ、で殺意湧いてつい殴っちまったよ。悪かったな無一文でよ」


 あんたもまさか命懸けで盗み出した骨で殴られようとは思いもしなかったろ?

 私を笑うと殴られると思いな。

 身長と実力を足したよりプライドが高い女、それが私だァ。

 わァーったか、おおん?


「でも、その怪我、治してあげないとね。薬草になる葉っぱとか知ってる?」


 私は血のにじんだ後ろ脚を哀れみの目で見た。

 今、5GPある。

 Bランクギフトの治癒薬ポーションを選べば傷も癒やせる。

 と言いたいところだが、肝心のカタログギフトは日付をまたがなきゃ届かない。


「心配ご無用ニャ。ボクは妖精だから精霊を吸えば回復ニャン」


 アルニャンは後ろ脚を引きずりながら黒犬のところに向かった。

 小さな口を開いて噛みつくような仕草をする。


 ――ガッ、ヴォ、ヴォ……ォォヴォッ!!


 黒犬の亡骸から真っ黒な禍々しいドロドロが引きずり出されて、アルニャンの口に吸い込まれていく。

 傷が見る間に癒えてなくなった。

 今のが精霊?

 汚泥の間違いでは!?

 あと、もっと可愛い音でちゅーちゅーできないのかよ。

 ガヴォヴォ、ォォヴォッ、じゃねえよ。


「これで元気ニャン!」


「よくそれで元気になれるな……」


 さっ、またぞろ魔物が出ても困る。

 そろそろ人里を目指すか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ