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4 魔物


 景色がびゅんびゅん流れていく。

 私はチーター。

 そのくらいの速度で森を走っている。

 まだ本気じゃないんだな、これが。

 平地なら倍は出せそう。

 2チーターだ。


 Sランクギフト【女神の加護:肉体強化】。

 身体能力が10倍になるから、単純計算、走る速度も10倍だ。


「ひゃっふぅぅううう――ッヴあ!」


 調子に乗って茂みを飛び越えたら顔面から枝に突っ込んだ。

 が、問題ない。

 噛みちぎって爆進する、ペッ。

 正味5日間、私はこのようにスーパーヒーローとして過ごすことになる。

 女なんて捨てた。

 私はゴリラだ。

 ひゃっふううううッ!!


「・・――っ・――」


 木々の合間に切れ切れに悲鳴が聞こえる。

 それと、獣のうなり声も。

 悲鳴の主は移動しているらしい。

 その後ろを獣の声が追う。


「・――! -・・っ」


 高い声だ。

 でも、女じゃない。

 ……子供?

 にしては速いな。

【肉体強化】の加護がなければ絶対追いつけなかった。


 悲鳴の主が止まった。

 獣も。

 この茂みの向こうだな。


「んッしょオ!」


 私は顔の前で腕をクロスさせて緑の中に突っ込んだ。

 そのままブチブチ小枝を引きちぎってザバァ、とまろび出る。


 屋久杉みたいな古木の下。

 獣が群がっている。

 四ツ目の黒犬が10頭くらい。

 木の根元には銀色の小動物がいる。

 猫っぽい猿。

 もしくは、猿っぽい猫。

 怪我しているのか、後ろ脚だけ赤くなっている。

 子供は……いないな。


「ぐらああるあああがッ!」


 黒犬が噛みついた。

 ネコザルはギリギリのところで牙をかわす。

 しかし、木を登る体力はもうないらしい。

 ずり落ちたところに黒い影が次々に殺到する。


「弱いものいじめ反対アアアアイイ――ァッ!」


 私は手頃な倒木を見つけて肩に担ぎ上げた。

 思いっきり投げると、口から「むんヴァアアッ」という今後一生出そうもない声が出た。


 ズヴァガアアアアンンッ!!


 と、倒木が砲弾みたいにぶち当たり、木っ端微塵に砕けながら、


 ゴッガ、ゴッ――ヴァオンボ!


 と、えげつない音を立てて転がる。

 黒犬の半分が赤い染みになった。

 残りは蹴られた子犬みたいな鳴き声を上げて逃げていく。

 ふん馬鹿が。


「ん?」


 カタログギフトが勝手に現れた。


喰穿狂犬クラウクルガルを討伐しました×5】

【5GP獲得しました】


 ――そんな記載が追記されている。

 はいはいハイハイ。

 つまり、あの犬たちが女神の言っていた『魔物』ね。

 言いつけ守って魔物を討伐したら、ギフトポイントを付与してくれる、と。

 ポイ活だ。


「うーん。カタログギフトって普通、贈る側が費用を負担するんだけどなぁ……」


 でも、魔物を倒しまくればポイント量産できるってことだし、むしろ、お得かもしれない。


「さて」


 私はネコザルのところに向かった。

 もう逃げる気力もないのか、根の隙間でぷるぷる震えている。

 頭に王冠みたいなトサカが生えている。

 ギンイロカンムリネコザルと命名します。


「いや、毛並み綺麗すぎん?」


 妙に存在感が希薄で、微妙に光っている気もする。

 こんな神々しい生き物見たことない。


「剥がしてマフラーにして頬ずりしたいな」


「ひ、ひどい! 剥がさなくても頬ずりならできるでしょ!?」


「あー……」


 私は頭を抱えた。

 今、ネコザルがしゃべった気がする。


「私、しゃべる動物ダメなんだよなぁ」


 なんでしゃべっちゃうかな。

 動物のよさって表裏のないピュアさじゃないの?

 そこに人語を解するだけの知性が存在しちゃうと、嘘ついたり騙したりする余地が生まれてピュアさ、ないなっちゃうんよなぁ。


「お前ら動物はさぁ、可愛いだけでいいんだよ。それ以外求めてないっつの。なんで人並みに知性とか持っちゃうかな。なんだろコレ。美少女だけどスネ毛ボーボーみたいなショックがある。助けなきゃよかったわ……。しゃべってんじゃねえよ」


「そこまで言いますゥ!?」


「じゃ、もうせめて語尾はニャにしてくれ。それで耐えられるから、たぶん」


「わかったニャ!」


「あ、かわいい……」


 私はネコザルを抱き上げて頬ずりした。


「いいマフラーができそう」


「ニャア……」


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