20 大混戦
廃城跡にひゅぅぅ、と西部劇みたいな風が吹く。
ドエリザベス率いるミスリャル級冒険者パーティー『鉄拳筋究力党』の4人組。
そして、金等級パーティー『土腕斧衆』のベテラン5人衆。
エルフ族の凄腕弓使いコンビ『ユミー&ヤー』。
荒くれ獣人トリオ『三虎狼竜』。
……などなど。
駆け出しの私でも知っている名うての冒険者たちが一堂に会し、私を囲んでいる。
アッシディウスは言っていた。
リトマス在住の主だった冒険者に捜索を依頼した、と。
つまり、ここに集まった面々はリトマス最高峰の冒険者たちということ。
私はそんな連中に包囲されているってわけ。
『やっべ……』
いくら私がフィジカル10倍といえども、この数の精鋭に適うはずがない。
包囲網はすでに完成済み。
抜け出すのも難しそうだ。
「皆様ぁん! 聞いてくださいましのことよ!」
簀巻きのエンヴィリッタが私を見て、言う。
「あのお方、本物の誘拐犯ですのことよ! 本物なんですの! ホ・ン・モ・ノ・のぉ~!」
本物本物言うな。
まるで偽があるみてえじゃねえか。
「あぁ~ん! ほどいてくださいのことよ! このままではルシウスに抱きつけませんわぁ!」
『もう黙れオラ!』
崩れた石材を蹴って飛ばすと、隆とした毛ズネがそれをブロックした。
「ギャハハ! させねえぜェ! てめえの相手はオレ様だァ!」
ドエリザベスが剛腕を振りかぶって突っ込んでくる。
ズゥン、ズゥン、ズゥン!
足音が人間じゃないんだが……。
豪快なテレフォンパンチを、私は体を引いてかわした。
「武技『拳風』ゥゥウアッ!」
突風が吹いた。
パンチの風圧でロウソクの火を消す芸の強化版。
体が浮いて10メートルくらい吹っ飛ばされる。
畳みかけるように次の拳が飛んできた。
今度は剣で受ける。
「武技『鉄拳』ェエエエンンッ!」
ぎがぁああんん、と。
鉄骨同士がぶつかるみたいな音がした。
剣と拳の間で火花が散っている。
こいつの材質、何!?
「弓技『曲射』!」
ユミーが矢を放つ。
奇怪な軌道で飛んだ矢が私の胸に吸い込まれた。
そのまま背中側から抜けて地面に刺さる。
貫通。
でも、これっぽっちも痛くない。
アルニャンが作った幻影だしな。
「ならば、武技『散射』!」
今度はヤーが弓を引く。
番えられた矢の束が散らばりながら飛んでくる。
それをなぜかドワーフの戦士が篭手で叩き落とした。
そのままの勢いで私に斧を振るってくる。
冒険者たちが入れ替わり立ち替わり攻撃を仕掛けてくる。
息つく間もない猛攻だ。
ちゃんと連携されたら私は瞬殺されたはず。
でも――、
「てめえら邪魔だァ! あいつァ、オレ様の獲物だぞォ! ギャハ!」
ドエリザベスがドワーフたちを蹴散らした。
「あんたこそ邪魔!」
そのドエリザベスを牽制する矢が飛び、漁夫の利を得ようとした狼獣人の脚を、
「ホイっ!」
ドワーフが斧の柄で払う。
ずってーん。
私VS冒険者たち――。
そういう単純な構造じゃない。
私を攻撃しながら、冒険者同士でも争っている。
みんな目的は同じだ。
誘拐犯を仕留めて領主から恩賞をもらいたい。
膨大な報酬を独占したい。
だから、足を引っ張り合っている。
戦況は混乱を極めている。
もう誰が何と戦っているのかわからん。
でも、全体として私が狙われている。
いつどこに矢がぶっ刺さってもおかしくない。
「みんな、待ってくれ! これには事情が……!」
ルシウス君は止めようとしてくれているが、誰も聞いちゃいない。
『ふおおおぅあ!?』
頭上を斧が通り過ぎた。
耳の横を巨岩みたいな拳がかすめ、矢のシャワーが降ってくる。
あかん……!
あかんコレ、あかん!
また死んでまう!
この数の敵を相手にするとか、さすがに無理すぎる。
『おい豚ァアアア! なんとかしてえええ!』
「ブタニャンと呼べブゥ! ――ブヒィン!」
アルニャンの体から真っ黒な煙が噴出した。
どっぱああん、と拡散して、何も見えなくなる。
あ、ほんとマジ何も見えん……。
戸惑いの声があちこちから聞こえてくる。
肉同士がぶつかる嫌な音もチラホラ……。
走り回って衝突するか、闇雲に振った拳でぶっ飛ばされるかしているらしい。
「闇魔法『黒煙』だブゥ!」
『ナイス、ナイス、ナイス!』
私は真っ暗な中でモフっとした感触を抱きしめた。
これでひと息つける。
でも、闇が濃すぎて逃げ出すのは無理そう。
いっそ仮面外して冒険者の中に紛れるか!?
でも、急に現れたら思いっきり怪しいしな。
『……』
私の強みはこれしかない。
カタログギフト・カモン!
なんかないか、なんかないか、なんかないか。
私はぺらぺらとページをめくった。
今日は召喚獣特集。
犬とか猿とかキジとかいろいろいる。
トリュフを嗅ぎ当てる豚。
ヒーリング能力のあるハムスター。
羊毛刈り放題の羊……。
ダメだな。
話にならん。
この状況を打開するには圧倒的パワーがいる。
何もかもひっくり返すような、すんげえ奴が。
『……!』
いた。
とんでもねえ奴がいた。
私は仮面の下でえげつない笑いを浮かべた。
10GPは痛いが、背に腹はなんとやらだ。
『いでよ、我がしもべ! ドラゴンんんんぬッ!』
暴風が黒煙を晴らした。
冒険者たちが口をあんぐりと開けて空を見ている。
巨大な竜が浮かんでいた。
鏡のような鱗がキラキラと光を振りまいている。
風を司る竜、風麗竜――。
Sランク召喚獣がそこにいた。




