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18 アホ渦巻き誘拐事件!?


 宿屋通りの入り口にそびえる白亜の巨館『デ・ビラノバ』。

 リトマスの最高級ホテルで、貴族や豪商の御用達となっているらしい。

 一介の冒険者にすぎない私は本来なら門前払いを食らいそうなものだが、


「『漆黒』のシーナ様でございますね。どうぞ中へ」


 フロント係一同は深々とこうべを垂れ、私を崇め見ている。


「おい、聞いたかアルニャン。私、顔パスだったぞ。VIPかな? 真のVIPかな!?」


「ボクの高貴なオーラのおかげニャ」


「アッシディウス様からお話はうかがっております」


「違ったアー」


「違っニャー」


 まあ、説明の手間が省けて結構。

 アホが狂言誘拐を企んで大変なことになっているから、これから狂言誘拐します!

 なんて説明するのダルいかんな。


 ホテル側がどこまで把握しているのか知らないが、何も聞かずに空き部屋に通してくれた。

 あとは知らん、という感じで下がっていく。

 おっけー。

 ここからはダーティなタイムだ。

 私はダークなローブに袖を通し、ミスリャルの剣を帯びて、――スチャ。

 ぐるぐるの仮面をつけた。

 ベッドの上で変なポーズをとる。


『ぐるぐる仮面、ただいま参上! グーッルグッグッグ!』


 おっさんのような、幼児のような、それでいて誰の声でもないような、そんな不思議な声がする。

 鏡を見ると、私の黒いはずの髪は水色にも赤色にも見えた。

 これが仮面の効果ってわけだ。


「私はこれで正体を隠せるけど、あんたはどうする?」


「ニャ。ボクも幻影魔法で――ニャン! この通りブゥ!」


 ネコザルがブタザルになった。


「おいしそう」


「ブゥ……」


 仮面の中でよだれをすする。

 いちおう、名前も偽名にしないとな。


「私はぐるぐる星から来たぐるぐる星人のグルシーナね? 仮面を外すと、大気組成の違いで目が回る設定で。あんたはぐるぐる星の愛されペット、ブタニャン。緑色のウンコを出せます」


「ブゥ。なんで緑色ブゥ……」


 それでは、突入しますか!


『へーい、ちょっくらお邪魔しますよー!』


 ばごぉーん、と。

 私は高そうな扉を蹴破った。

 修理代など、誘拐にかかる諸費用はリトマス家が全額負担してくれるらしい。

 派手に暴れてこいと言われている。

 壁を殴って、ぼこん。

 穴もあけておく。

 高そうな花瓶もガッチャアアンン。

 オラァ、弁償しろよ?


「まあ!? ななな、なんですのこと……!」


 標的のアホ、エンヴィリッタ発見!

 バスタオル1枚で天蓋付きベッドに寝転がっていた。

 最上階かつ最高級の一室。

 窓からはリトマスの街並みを一望でき、部屋の中にプールまでありやがる。

 贅沢な被害者だな。


「……ぴゃギッ!?」


 駆けつけ一発ぶん殴る。

 腹立つんだよお前、渦巻きコラ。


『ワイは誘拐犯やワレェ! 連れ去ったるさかい観念せんかいボケェ!』


 もう一発殴るボコッ。

 ……あれ、もしかして、この仮面つけていたら殴り放題じゃね?

 正体が私だとエンヴィリッタにはわからないわけだし。

 役得じゃんボカッ。


「んきゃあああああ! 誘拐されるううう!」


『絶対誘拐するう! グーッルグッグッグ!』


 私は嬉々としてエンヴィリッタを追い回した。

 本気で怖がっているから、狂言誘拐にありがちな演技っぽさもない。

 これなら目利きの冒険者たちを騙し通せそうだ。


「おい、扉が壊れてんぞ! なんの騒ぎだコリャ!?」


「見ろ! エンヴィリッタお嬢様だ……!」


「あのヘンテコ仮面は何者だ!?」


 冒険者たちが部屋に乗り込んできた。

 地力でここを嗅ぎつけたのか、アッシディウスが手を回したのか知らないが、ナイスタイミングだ。


 私は、エンヴィリッタの尻をばちーんと叩いた。

 オラ、なんか言え、被害者!


「ぴゃウあ!? あ、あなたたち、わたくしをお助けなさい! このままではわたくし、誘拐されてしまいますのことよ!」


 とエンヴィリッタがトンチキなことを言う。

 されるも何も、すでにされてる設定だろうが。

 もう黙ってろゴガン。

 私は卒倒したエンヴィリッタを肩にひょいと担ぎ上げた。


「うおお、容赦ねえ……。あの仮面野郎、お嬢様を殴り倒しやがった」


「あいつが誘拐犯か!」


「お嬢様を救い出せ」


「高額報酬はオレらのもんだ!」


「「――ぐあああああ!??」」


 意気込んでいた冒険者たちが突然吹っ飛んだ。

 その屍を乗り越える感じで、白煙の向こうから巨大な影が現れる。


「報酬はギャハハ! このオレ様のもんだぜェ!」


 熊みたいな巨漢がノッシノッシとやってきた。

 全身を覆う鎧のような筋肉に、岩石じみた拳。

 あいつだ。

 なんだっけ?

 天井に杭みたいに刺さった人。

 私の尻を触ってぶん殴られた奴。

 名前は忘れた。

 とりあえず、殴っておく。


「……ヴぉ!?」


 巨漢がサッカーボールみたいに吹っ飛んだ。

 壁を突き破って表通りに落下する。

 さいならー。


「ど、ドエリザベスがやられた! 強ッえーぞ、あのぐるぐる野郎!」


「オレたちじゃ敵わねえ! 人を呼べ、人を!」


 冒険者たちが撤退を始めた。


 有効期限があるギフトは、GPを消費すれば期限を延長できる。

 ものにもよるが、だいたい1GPで5~6時間の延長が可能。

【女神の加護:肉体強化】はご覧のように破格だ。

 だから、私は欠かさず延長料金を払っている。

 そうすると、毎日魔物を狩らなくてはならない。

 女神は上手に私をこき使っているのだ。


『愚かなる追跡者どもよ! 我が名はグルシーナ! この腐れヴォケ女を連れ去って、これから隠れ家に移動するグルよ! グーッルグッグッグ!』


 私はテキトーに捨て台詞を残して隣の建物に飛び移った。


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