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17 伝家の宝剣


「私が誘拐犯に……?」


 意図が読めず、私は首をかしげた。

 かしげすぎてフクロウみたくなっていると思う。

 肩に乗っていたアルニャンが煩わしそうに押し返してくる。

 ぷにっとした肉球がたまらん……。


「考えてもみよ」


 アッシディウスは椅子の肘掛けにもたれかかって眉間を揉んでいる。


「リトマスを震撼させている領主令嬢誘拐事件。その真相が、実は男の気を引きたいがための狂言誘拐でした。こんな話が世の知るところとならば、私はどうなる? 娘にまんまと騙され、冒険者たちを総動員したキ○ガイだと王国中の笑いものとなろう。由々しき事態だ」


 キ○ガイってwww

 まあ、かなりの熱量で笑われるだろうな。

 私はもう面白いし。

 何これ笑ってもいいの?

 フフフフフヘヘヘヘヘ!


「こほん」


 ニヤニヤしていたらルシウス君に見咎められた。

 控えおろうってよ。

 へへえ。


「要するに、狂言ではなく本物の誘拐事件にしてやろうってお考えなんですね?」


 私が誘拐犯役を演じ、エンヴィリッタを連れ去る。

 本物の事件になってしまえばリトマス家は晴れて被害者だ。

 同情されこそすれ、笑われることはない。

 いわば、二重の狂言誘拐。


「うむ。呑み込みが早くて助かる」


 アッシディウスは少し肩の力を抜いた。

 が、すぐに深刻な顔になった。


「冒険者の捜索能力は凄まじいものがある。彼らの手にかかれば、砂漠に隠した一粒の砂さえもたちどころに暴き出されてしまうだろう。もはや一刻の猶予もないのだ」


「高級ホテルでエステ決め込んでいるアホが冒険者に見つかる前に、私がかっさらってぶっ殺せば万事解決、と?」


「うむ。……いや、だから殺そうとするでない!」


 私は腕組みして気だるさを前面に押し出した。


「ルシウス君か、使用人の誰かが迎えに行って回収してくればいいんじゃないです? 暴れるようなら何発か殴って」


「家の者には漏れなく見張りがついておるのだ。身近な者が犯人というのは往々にしてあることゆえ。娘を助け出した者には謝礼を弾む旨、伝えてある。冒険者らも血まなこだ」


 アッシディウスはげっそりした顔で額を押さえている。

 アホな娘を持って大変ですねー笑。


「嫌とは言わせんぞ? この地に住まうすべての民は領主たる私の財産よ。私の財を私がどうしようが私の勝手だ。シーナよ、断るなら相応の覚悟をしてもらおう」


 ろくでもないが、封建社会ではそれが真だ。

 民草なんて貴族サマの家畜にすぎない。

 へーい、わかってますよブヒ。

 やりゃいいんでしょブヒィ。

 私は渋々ゥ承諾した。


「君はまだ駆け出しとのことだが、すでにリトマスの冒険者界隈で広く名が知られておるようだ。この仮面をつけてもらおう」


 ぐるぐるの仮面を渡された。

 何これ?

 かぶると私の髪までぐるぐるになるの?


「魔道具の一種でな、素性を隠すことができるのだ」


 そういえば、似たような効果の魔道具がカタログにも載っていたな。

 認識を阻害する的な。


「ルシウス殿にはこれを」


「これは?」


 ルシウス君が受け取ったのは、ややチープな印象の剣だった。


「アッシディウス、この剣には刃がついていないようだが、これも何かの魔道具か?」


「魔道具というよりジョークグッズでな。斬ると血糊が出る仕組みなのだ」


 ルシウス君が軽く剣を振ると、フロアタイルの上に赤い飛沫が散った。


「宴会芸の名手として知られた曾祖父が、旅の一座から買い取った品だ。ついにリトマス家が誇る伝家の宝剣を抜き放つときが来たようだ」


 いろいろツッコミどころが多かった気がするが、なんか面倒臭せえ。

 スルーしよう。


 私はげんなり顔でアッシディウスを見上げた。


「まさか私、これで斬られて遁走するんすか? うぎゃああって?」


 なにそれ。

 人生最大の汚点なんやが。


「うむ。誘拐犯は逃亡、エンヴィリッタは無事解放。それが私の描くシナリオだ。ルシウス殿が救い出す役を担ってくれるなら、娘も喜ぶことだろうし、膨大な報酬を冒険者に払う必要もなくなる。すべて丸く収まるな」


「収まってねえよ。私が可哀想だろうが」


 あれ、領主の名前なんだっけ?

 アッホディウス?

 このアホが思い描く丸の中に私が収まっていない件について。


「シーナ、君には最も重要な役目を任せることとなる。無論、褒美は望むものをやろう」


「では、お嬢様を一発殴らせてください。あと、そのお腰のものをいただきましょうか」


 私はアッシディウスの腰にすらりと伸びる、カッコイイ剣に目を落とした。

 ちょうどメイン武器が欲しかったところだ。

 領主の剣なら少なくともAランクギフト相当の代物に違いない。


「これはリトマス家が誇る伝家の宝剣で、稀少な聖翔銀ミスリャル製なのだが……」


 伝家の宝剣ならもう一本あるだろ。

 宴会芸用のがな。


「うむ。まあ、お家の名誉には代えられぬか。よかろう、くれてやる」


 アッシディウスは家督でも譲るくらいの大仰さで剣を差し出した。

 テキトーにクレクレしちゃったけど、大事なものだったかもしれない。

 受け取るからには自らの役目くらい果たさないとね。


「ご依頼、承りました」


 私は青い目を見つめ返して、しかと請け合った。


 さて。

 それじゃ高級ホテルとやらに乗り込んで景気づけに一発ぶん殴るか!

 楽しくなってきたぜ!


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