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14 焚き火


「なぎさの水竜シュドラよ、仇波束ねて岩を穿て。――水球弾シュクルド! ですのことよ!」


 エンヴィリッタは夜空に水魔法を撃ち上げている。

 で、落ちてきた水球に頭から突っ込むという奇抜な方法で血を洗い流している。

 そのたびにドッパアアアアンンと波濤が砕けて見ている分にはギャハハ面白い。

 焼村だ。

 シャワーとかないもんな。

 涙ぐましい努力を感じるぷぷぷ。

 青色リトマス紙に戻れるといいなケケッ。


「しかし、本当に君はすごいな、シーナさん。あれほどの魔物に臆することなく素手で突っ込んでいくのだから。僕は君のような人をほかに知らない」


「あはは。ほかにも私みたいなのがいる世界とかこっちから願い下げだわ」


 焚き火を囲んでルシウス君と談笑する。

 初めての依頼を無事成し遂げて、私は気が緩みまくっている。

 10年モノのパンツみたいにだるんだるんだ。


「シーナ、ほんとにありがと! 僕、依頼を出してよかったよ! 冒険者ってすっごいんだね!」


 ライヌ少年がハリウッドスターを見るような目で見つめてくる。

 やめろやい。

 面映ゆいじゃねえか。


「僕も冒険者になる! シーナみたいなカッコイイ冒険者に!」


 今日登録したばかりの駆け出しがあんたの目標かい?

 明日には追いつけそうだな。

 よかったじゃん。


 先達としてひとつアドバイスしておこう。

 私みたいに素手で突っ込むトチ狂った輩にはなるな。

 猿人でも石器使うからな?

 私それ以下だからな?

 ウホ?


「おおーい! ライヌ!」


 遠くから声。

 夜闇の向こう、ミドルナ村の入り口のあたりで松明の火がいくつも揺れていた。


「え、うそ……」


 ライヌが弾かれるように立ち上がった。

 目尻に焚き火のオレンジがキラキラと反射している。

 やってきたのは、10人ばかしの大人たちだった。

 その中から男女が駆け出てくる。


「とーちゃん! かーちゃん!」


 がしっ!

 感動の再会だった。

 ライヌの両親とミドルナ村の生き残りたちが村に戻ってきたらしい。


 ルシウス君と二人でほっこり眺めていたら、村長的な人が教えてくれた。

 ハッピイグリザルに襲われた彼らは命からがら夜の森に逃げ込んだそうな。

 魔物から逃げ惑っているうちに丸3日も森をさまよい、ようやくリトマスにたどり着いた。

 そこで、ライヌが依頼を出していることに気づき、とんぼ返りしてきたらしい。

 私たちとは入れ違いになったんだな。


 命はあっても、住む家はない。

 移住か、復興か。

 村人たちがどんな道を選ぶのかは知らないが、ライヌの笑顔を見ているとなんとかなりそうな気がする。


 私の腹がぐぅぅァ、となった。

 ルシウス君がこちらをチラと見た。

 ちょうどアルニャンを抱いていたのでラッキー、全部こいつのせいしよう。


「オイオイ、食い意地の張ったニャンコだな」


「ニャア……」


「シーナさん、よかったらパンをどうぞ。全員に行き届くだけあると思う。食事にしよう」


 ルシウス君が輝く笑顔でそう言った。

 用意がいいな。

 手ぶら&ペット連れで来たアホもいるってのに。


 焚き火を囲んでパンをむさぼる。

 私はこの世界に来てから初めての食事だ。

 あんましおいしくないのが残念。

 炙ったハム挟みてえ。


 と思ったところで日付が変わってカタログギフトが届いた。

 現在の持ちGPは9。

 黒犬の群れを倒して得た5GPと、グリザル討伐で得た4GP。

 私は迷わず3GPを消費し、Bランクギフト【季節のハムの詰め合わせ】を取り寄せた。


 ぼごん!

 光の中から上等な木箱が私の膝に落下する。

 その重さ、なんと3キロ。

 蓋を開けると、各種ブランド豚のおいしいところを贅沢に使ったハムやらウインナーやらがお目見えした。

 居合わせた野郎どもがごくりと生唾を呑む。


「ハムあんべ? 一緒に食うべ?」


 誰も遠慮しなかった。

 黙って頷いている。

 みんな肉しか見てねえ。

 私を見ろよ、豚どもがァ。


「シーナさんは召喚魔法を使えるのか。驚かされてばかりだ。――んふ。しかもおいしい」


 ルシウス君はパンとハムでリスみたいになっている。

 カタログギフトは召喚の部類なのか。

 何属性になるんだろう。

 どうでもいいか。


「そうだ。私頭おかしいからすごいこと考えちゃった」


 ハムを炙る。

 未だメラメラと燃え続けているハッピイグリザルの背中でハムを炙る。

 弱火になっていてちょうどいいなフフ。


「僕も真似させてくれ」


 私の隣に立ってルシウス君がまばゆい笑顔を向けてきた。

 なんてイケメン!

 でも、熊の死体でウインナー炙るとかアタオカすぎる。

 イケメンが台無しだ。

 肉のほうはイイ感じにじゅわじゅわだが。


「おいしいな。こんなにおいしいものを食べるのはいつ以来だろう」


 ルシウス君がホットドッグに噛みつくと、ウインナーが裂けて肉汁が飛んできた。


「あ、ごめん! シーナさん!」


「やったな、ルシウス君! お返しだガブッ!」


「うわ……っ!? あっはっは!」


 これが夏の浜辺だったらどんなによかったか。

 なんで私は熊の死体の前でイケメンと肉汁かけっこしてんだ……。


 横ではアルニャンがガヴォヴォ、と赤いドロドロを吸っている。

 異世界、カオスすぎるな。

 えらいとこに来たもんだぜ。


 そんな感じで、私の異世界1日目が終わったのだった。


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