12 金太郎!?
「ゴガアアアアアアアアアアア!!」
グリザルが火の粉をまき散らしながら突っ込んでくる。
えげつない爪が夜空に閃いた。
「避けろ、シーナさん!」
とルシウス君。
気遣いサンキュー!
だが、フィジカル担当の私がすべきことはこれだ!
「ぶりゃアアォ!」
私はあんまり可愛くない声で巨大な手を受け止めた。
重んごおお!?
肩、脱臼するかと思った。
「ゴガアアアアアアアアア!!」
「おりゃああああああああ!!」
ここにケダモノ同士の戦いが勃発する。
熊と相撲とか私ゃ金太郎か!
めっちゃくそ熱ィ。
でも、熱への耐性も10倍だああああ!
「まあ、なんて野蛮なんですの!」
とエンヴィリッタがドン引きする。
「そんなことはない! シーナさんはさすがだ! あんなの、もう人間じゃない!」
フォローしてくれたルシウス君の言葉に、私はよっぽど傷ついた。
「ぐぅ……ッ」
私は押し込まれて電車道を引いた。
フィジカル10倍とはいえ向こうのほうがパワーは上か。
「私が止めている間に側面から叩け!」
燃える腕毛の向こうにティータイム中のエンヴィリッタが見えた。
「あらぁ、わたくし申し伝えたはずですのことよ? 共闘はいたしませんとオホホ!」
オホホじゃねえよドカス!
くそか、お前は!?
「僕が助太刀する!」
じゃぎん、と剣を抜いたところで、ルシウス君が膝を屈した。
首元で紫電が弾けている。
「助太刀だなんてダメですのことよ」
「なぜだ!? シーナさんが命懸けで戦っているんだぞ!」
「だからこそ観応えがあるのですわオホホ! さあ、踊り狂いなさいな。ファイヤーダンスですのことよ!」
あの腐れカスボケ渦潮バカがァ!
あとで蹴飛ばしてやる。
ケツ出して待っとけや。
ズォォオオオオ――!
グリザルの口に火の粉が吸い込まれていく。
胸が3倍くらいに膨らんだ。
毒霧攻撃かよ!?
反則うううう!
「ッりゃああイッ!」
そっちがプロレスなら、こっちは柔道だ。
私はあえて後ろに転がり、下からハッピイグリザルの腹を蹴飛ばした。
巴投げだオラ。
巨体が吹っ飛ぶ。
夜空に炎の尾を引いて流星みたいに飛んでいき、
「んぴゃあヮ!?」
エンヴィリッタが横っ飛びした直後、テーブルがティーセットもろとも砕け散った。
巨体が大岩のように転がる。
そこにすかさずルシウス君が斬り込んだ。
ずぱっ!
血がちょっと出る。
「浅くない!?」
「深く斬ったつもりだが……こいつ硬いぞ! 致命傷を与えるには急所を断たないと!」
急所ってどこだ?
首回りは筋肉で隆としている。
腹も脂肪の層が厚そう。
目は、あー……。
怖い。
目つきヤバイ。
弱点なしか、コイツ。
「わたくしのおニューの装備をよくも……」
泥とススにまみれたエンヴィリッタが低い声で罵る。
「このケダモノ、ゆるしてはおけませんのことよ!」
ケダモノってどっちのことだろう、と思った。
でも、よかった。
私のほうにヘイトは向いていない。
「澎湃たる水竜よ、うなり、砕け、我が手の内に青き牙をなせ、ですのことよ!」
おお、詠唱キタアアアアア!
魔法クルウウウウ!
「――水流牙!」
エンヴィリッタの手から青く光る水が飛んだ。
グリザルの燃える背中に命中。
ばしゅううううう、と白い煙が拡散した。
な、な、な、なんと……!
全然効いていない!
効果ゼロ!
これぞ焼け石に水って感じ!
ちーん。
「な、なんでですの!? わたくしの魔法はメイドのマリアとキャサリンもすごいすごいと大絶賛していましたのに!」
誰だよ。
知らねえよアホ。
「もういいよ、お前は! このポンコツ渦巻き! 隅っこでお茶会やってろ!」
「エンヴィリッタ、下がっていてくれ! 君は実際そんなものだ!」
私がパワーでグリザルを止め、ルシウス君が果敢に斬りかかる。
これとて、あんまり効いている気はしない。
でも、ちょっとずつでも削れば、いずれHPが底をつくはず。
「やっぱりシーナさんはすごい! このまま押し切ろう!」
「おっけー! ルシウス君!」
「……」
私たちが仲良くしているからだろうな。
エンヴィリッタはむくれている。
「……わたくし、もう帰りますわ」
ん?
なんつった?
「わたくし! もう帰りますのことよ! ルシウス、帰り支度をなさいですの!」
……あ?




