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11 燃ゆる鬼熊


 日が沈んで薄闇が立ち込める草原。

 茅葺き屋根の家がごぉごぉと燃えている。

 ライヌは燃え盛る家の前で泣いていた。

 ごめんごめんと何度も謝っていた。

 守ると誓った家に自分で火を放った。

 家族に、村のみんなに、面目が立たない。

 それで泣いていた。


 一方その頃、エンヴィリッタお嬢様はティータイムをお楽しみあそばされていた。


「火炎の赤と夜空の黒が織りなすコントラスト。ああん、たまりませんのことよ!」


 なんて不謹慎な奴だ。

 頭の中まで渦巻きに違いない。

 付き人のルシウス君も立つ瀬がないご様子だ。


「ところで、あんたたち、ちゃんと戦えるんだろうね?」


 と私は隙あらば茶菓子をかすめ取ってやろうとにじり寄った。

 腹減った……。


「あなたのような芋娘は年がら年中土の中にいるのでしょうからご存じないかもしれませんが、こう見えてわたくし、水魔法の達人としてその名を轟かせておりますのことよ。お舐めにならないでくださいまし」


 それホント?

 と目で問うと、ルシウス君は肩を竦めて苦笑した。

 了解。

 要するに、こいつは髪が渦巻きで鼻は天狗ってこったな。

 個性的なお顔立ちですこと。


「僕は王国正統派剣術を嗜む程度に」


 ルシウス君は腰に帯びた剣に軽く手を添えている。

 奴隷がなんでそんなもの嗜んでいるのか知らないが、二人とも戦力にはなるわけか。


「ボクも役に立つことを証明するニャ!」


 私の上でポリポリ咀嚼音を立てながらアルニャンがそんなことを言う。

 茶菓子盗んだな、こいつ。

 羨ましい。


「いいのいいの。あんたは可愛いだけで合格だから」


「ニャ……」


 さて、


「それじゃ作戦を決めておこうか」


 と私は一同に提案した。


「あら、共闘はしませんのことよ? そもそも、わたくしとルシウスの愛さえあれば魔王すらも怖くありませんの。あなたなぞ不要なのですのことよ」


 協調性ねえ奴だな。


「エンヴィリッタ、協力し合おう。シーナさんは素手なら僕とは比べ物にならないほど強い。こんなに頼もしい仲間はいない」


 うぇーい、私に賛同者が現れた。

 やーい、お前、孤立してやんの。

 私はルシウス君の横に立ってニチャアと笑った。

 エンヴィリッタが渦髪を逆立てた。

 猿みたいな顔でキレている。


「エンヴィリッタ、手柄はあんたにあげるよ」


 私は少し真面目な顔をする。

 最初は競合相手に勝ちたいとか対抗心を燃やしていたけど、正直泣いているライヌを見ていたらどうでもよくなってきた。

 誰が討伐するかより、どう討伐するか。

 それが大事じゃない?


「仲良くしようぜ?」


 私は無理やりエンヴィリッタの手を握りブンブン振った。

 ルシウス君がにっこり笑って手を添える。

 アルニャンがまた茶菓子を盗んだ。

 ライヌもススだらけの両手を乗せてきた。


「お願い! ハッピイグリザルを倒して!」


「もちろんだよ!」


「ふん! わたくしは端からそのつもりですのことよ!」


 と、ここで、アルニャンの耳がぴょこん、と動く。


「来たニャ!」


 どうもそうらしい。

 夜の草原に炎の道を作りながら赤々したものが急接近している。

 燃える熊。

 そうとしか言いようがない。

 かちかち山みたいに背中が激しく炎上している。


背火鬼熊ハッピイグリザル……」


 ライヌがそうつぶやき、赤く光る涙が頬を伝った。


「あいつだ! 僕らの村を燃やしたのは!」


 ばぎゃああああんん、と。

 私たちには見向きもせずグリザルは燃える家に突っ込んだ。

 泥浴びするゾウみたいに炎の中で転がっている。

 なんかすげえ気持ちよさそう。

 ごがん、ばぎゃん、と巨体がぶつかるたびに家が崩れ落ちていく。


「僕の家をおおおお……!!」


 ライヌが石を投げた。

 それでようやく熊のグーさんはこっちに気づいた。

 炎の中から歩み出してくる。


「でけえ……。あと熱そう」


 それがグリザルを見上げた私の感想。

 向こうは「うっわ、小っせー。雑魚そう」って顔で私たちを見下ろしている。

 かっちーん。

 人間を侮るのはOKだ。

 でも、てめえはやっちゃならねえことをした。

 この私を見下ろすことだァ。


「舐めんなオラアアア!」


 手頃なものがなかったので、私は燃え残った柱をぶん投げた。

 ずごおん、と肩口にぶつかり、グリザルがよろめく。

 しかし、刺さるまでには至らない。

 それでも、今のでこっちの力量は伝わったらしい。

 グリザルは低く構えた。


 それでいい。

 私を見るときは常に下から恐る恐る見上げろ。

 このプー畜生めがァ。


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